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連載:日本人が知らないIFRS(3)

「利益は過去しか表さない」が示唆すること

高田橋範充
中央大学 専門職大学院国際会計研究科 教授
2009/10/27

IFRSでは、投資意思決定に有用な情報を提供することが財務報告の目的とされている。しかし利益情報こそが投資意思決定情報として決定的であるとの考えもある。今回はこの問題を考える (→記事要約<Page 3>へ)

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 資産価値の表示を念頭に置くこと、すなわち会計情報システムが利益計算から開放されることの最も大きな影響は、期間計算ではなく、リアルタイムで資産価値情報を報告し得るシステムが組めることにある。時点の状態を瞬時にバランスシートで表現していくのである。イメージとしては、個々の資産勘定が時価情報のデータベースに直結していれば可能になるはずである。このようなバランスシートが常に開示されれば、投資意思決定情報としての意義は大きい。

 このシステム・イメージから提供されるバランスシートは、投資意思決定情報として有意義なだけでなく、経営管理のツールとしても期待できる。すなわち、バランスシートが瞬時に会計情報システムから提供されるとすると、あるイベントが与える影響をバランスシート上でシミュレートすることができることになり、いわゆるwhat-if分析を可能にするのである。この機能は、経営計画時において発揮されるだけでなく、予算と実際の比較をこのバランスシートに与える影響で評価することも可能にする。簡単にいえば、バランスシートを使って個々の事象の将来への影響が随時、判断可能になるのである。

将来指向型システムの構築へ

 このシステム・イメージは、現在時点で即座に構築可能とは思えない。概念的にも実践的にも解決すべき問題は山積みであろう。しかしながら、IFRSの本来的な思想の背後には、このようなシステム・イメージが存在していることは知っておかねばならないだろう。これまでの経営情報システムの議論は、どちらかといえば、マンパワーで行ってきた業務をいかに効率的に自動化するか、という点に力点が置かれていた。しかし、IFRSの思想は、これまでとまったく異なる会計情報システムのイメージを提供している。

 このような発想そのものが、将来指向的である。そして日本人は、会計情報システムの議論に限って言えば、このような将来指向的な発想があまり得意でないように思えるのである。

筆者プロフィール

高田橋 範充(こうだばし のりみつ)
中央大学 専門職大学院国際会計研究科 教授

公認会計士二次試験に合格後、中央大学大学院経済学研究科博士後期課程修了(経済学博士)。福島大学助教授、中央大学経済学部教授を経て、国際会計研究科教授。著書に『ビジネス・アカウンティング』(ダイヤモンド社)

要約

IFRSでは、投資意思決定に有用な情報を提供することが財務報告の目的として理解されている。しかし日本では利益情報こそが投資意思決定情報として決定的であると捉えている面がある。今回はこの問題を考えてみる。

 オーストラリアや英国の実務家たちは「利益は過去しか表さない」という思考を持っている。彼らは利益を議論の中心に据えていない。この考えは何気なく聞くと当たり前としか思えないが、よく考えてみると、極めて重要な問題を示唆している。

 投資意思決定は、あくまで将来を対象にして行われるのに対して、利益は過去の業績しか表していない。そこには大きな距離がある。その距離を埋めるためには、過去と将来が連続線上にあるという仮説が必要である。

 だが、この過去と将来の連続は、現在の企業の実像を考えれば無理な仮説であり、企業にとっては過去と将来の断絶こそが当然の姿ではないだろうか。技術革新や情報伝播のスピードを考えると、企業は過去のビジネスや業種、国境を超えて行かねばならない。そうであるとすると、過去情報である利益にどれほどの意味があるのかということになる。

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