企業価値向上を支援する財務戦略メディア

連載:日本人が知らないIFRS(4)

包括利益概念が表すIFRSの歪み

高田橋範充
中央大学 専門職大学院国際会計研究科 教授
2010/1/12

日本における包括利益表示の導入がほぼ決まった。包括利益はIFRSにも含まれる概念だが、概念上の不整合を抱えている。この不整合はIFRSに歪みをもたらす可能性がある (→記事要約<Page 3>へ)

前回記事1 2 3次のページ

PR

IFRSにおける包括利益の位置

 企業会計基準委員会は、2009年12月25日付けで、「包括利益の表示に関する会計基準(案)」を公表し、パブリック・コメントを募集している(参考記事)。同報告書によれば、このような包括利益の会計基準は、IFRSをはじめとする国際会計の動向に合わせた、すなわち、コンバージェンスの1つであると理解されている。

 わが国の通念においても、IFRSというと「包括利益」という理解が一般的であるが、それでは実際に、包括利益がIFRSにおいてどのような記述をされているかということに関しては、あまり正確な説明がされていない。いわば、感覚的に議論されることが多く、正確なIFRSの原文に照らして考察されることは極めて少ないように思われる。感覚的な議論は、問題を錯綜させることのみで、理解を深め、問題解決に導くことは少ない。本稿では「包括利益」を取り上げることにより、IFRSが具体的にどのように概念を組み立てようとしているのかを明らかにし、その本旨をできるだけ原文に沿って考察してみよう。

「日本人が知らないIFRS」連載インデックス

 

包括利益計算書の導入

 現行の「IAS1号」(財務諸表の表示)は2009年1月1日から改訂版が発効された。この改訂の最大のポイントの1つは、これまで持分変動計算書に含まれていた「その他の包括利益」項目を損益計算書の構成要素とし、損益計算書の末尾を「包括利益」としたことであった(1計算書方式)。

 ただし、このアイデアに関しては「純利益」に固執する米国や日本の産業界から大きな反発が予想されることから、IASBは損益計算書と包括利益計算書の分離した方式(2計算書方式)も容認している。この1計算書方式と2計算書方式の併用は、わが国の「包括利益の表示に関する会計基準(案)」でも同じであるが、わが国の「包括利益の表示に関する会計基準(案)」が「その11」において、2計算書方式を冒頭に記して、2計算書方式を原則とするような表現になっているのに対し、IAS1号は当然のことながら、1計算書方式を原則としている。

 多くの日本人にとっては「純利益」を中核とする従来の損益計算書がなじみ深いものであり、「包括利益」を損益計算の結果とすることには大きな反発があることは、十分に予想される。その反発は「本業の利益が分からない」という批判に集約することができる。その意味で「純利益」を明確に残存させる2計算書方式こそが順当な発想であると多くの日本人は理解するであろう。

 しかし、実はこの2計算書方式には、IAS1号の改訂作業において概念的矛盾が指摘されていたことはあまり日本では知られていない。それが現行のIAS1号の中にも「反対意見(Dissenting Opinions)」として収録されている。この反対意見は簡単に要約すれば、2計算書方式を採用する場合、両者の項目を分別する論理、すなわち何が利益を構成するのかといった論理が、IFRS、とりわけフレームワークには欠如しているということにつきるであろう(IAS1 DO4)。

 この議論を突き詰めると、フレームワークは利益および損失(profit or loss)を定義していない(IAS1 BC51)ことになる。よって、資本取引を除くすべての純資産の増減項目を1表に集め、包括利益(Total Comprehensive Income)を計算することが望ましいというのがIAS1号の論理なのである。

前回記事1 2 3次のページ

@IT Sepcial

IFRSフォーラム メールマガジン

RSSフィード

イベントカレンダーランキング

@IT イベントカレンダーへ

利用規約 | プライバシーポリシー | 広告案内 | サイトマップ | お問い合わせ
運営会社 | 採用情報 | IR情報

ITmediaITmedia NewsプロモバITmedia エンタープライズITmedia エグゼクティブTechTargetジャパン
LifeStylePC USERMobileShopping
@IT@IT MONOist@IT自分戦略研究所
Business Media 誠誠 Biz.ID