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連載:IFRS時代の新リスク管理入門(2)

IFRS対応業務プロセスの内部統制ガイド

河辺亮二、伊藤雅彦(監修)
株式会社日立コンサルティング
2009/11/16

IFRS時代の内部統制システムを確立するに当たって、具体的な業務プロセスレベルでの統制活動の方向性について検討を行う。さらに、IFRSとグループガバナンスとの関係についても論じたい(→記事要約<Page 3>へ)

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(6)連結財務諸表(IAS27号等)に関する内部統制

 IFRSでは、より一層のグループ管理の一体性が求められる。連結開示の手続き的には、個別財務諸表の合算、投資と資本の消去、内部取引の消去、債権債務の消去、未実現利益の消去、子会社損益の按分等、これまでと同じであるものの、消去する金額や少数株主持分の取り扱い等において、IFRS特有の処理が必要となる。さらにIFRSでは、グループ内の会社で適用されている会計方針は統一されていることが原則となる。IFRSでは強制されてはいないものの、連結決算調整処理を最小化するうえで、子会社の決算日の統一は望まれる。

 子会社の財政状態の変動を適確にモニタリングするために、これまで以上にグループ各社の事業の業績や財産の状況について、確認手続きを強化する必要がある。一方、その推進においては、相当のコスト増大が想定される。コストメリットを訴求した結果、業務の集約化、すなわちグループ決算処理のシェアード化、経理組織の集約などが検討テーマの候補として挙げられる。

 さらに、グループ内に海外子企業を多く抱える企業においては、現地でのオペレーションと財産の状況の早期把握に関連して、各国での企業文化や法律の違いなどがグループガバナンスの制約条件となることが多い。形式的なルールに縛られた内部統制の評価に終始せず、より現実的な人材の補強や親会社の関与の強化などの施策を実行することが、リスク低減の観点から重要となる。

 また、前稿では、投資資産の価値の変動は、グループ全体としてのセグメントごとの事業の評価と連動させる必要があると述べた。先に論じた個別の財産の認識と測定に加えて、連結グループとしての資産評価の視点も必要になる(全社資産の減損テストやのれんの減損テストとも関連する)。このことは、IFRS時代のリスク管理の観点からも重要であり、グループ全体としての純資産の変動をモニタリングし、リスクへ対応することで、全社的なリスクの低減を図ることを可能にする。

IAS27号 連結財務諸表要件
必要となる内部統制
連結グループ内の会計処理基準・ルールの統一
子会社決算情報の品質向上
マネジメントアプローチによるセグメント開示への対応
・IFRSベースでのグループ経理マニュアルの整備と教育啓蒙
・決算日の統一と、決算日が異なる場合の調整ルールの明確化
・グループ決算処理のシェアード化、経理組織の集約
・グループ親会社による連結データのチェック体制の確立
・管理連結と制度連結との情報収集ルートの統一、サブ連結単位の見直し

 

(7)IFRS実現に向けたグループガバナンスの確立

 「IFRSは財務報告基準であるがゆえ、開示内容が適切であれば決算プロセスのあり方は問わないはずだ。従って、連結経営管理と連結決算作業は、全く別物として切り離して考えるのが正しい」という意見も存在する。しかし、前述したリスク管理の観点からIFRSを捉えた場合、このような考え方が適切でないことは言うまでもない。

 国際的な開示ルールであるIFRSは、決して企業の経営情報収集に関する内部オペレーションの方式を規定しているのではない。企業全体のリスクを統合的に管理しつつ、グループの戦略的な目標を達成し、企業価値の最大化を求めるという取り組みを、会社資産や負債、ビジネスの評価に関する経営者の考え方を通じて、財務諸表の中で適切に開示することを求めているのだ。注記(Foot Note)による説明のボリュームの増大は、その表れであり、企業の考え方によって大きな差が生じることだろう。

 前述の通り、IFRSによる情報開示は、会社資産や負債、ビジネスの評価プロセスに係る、適切な内部統制システムによって支えられる。さらにIFRSによる情報開示を適切に行うためには、統制環境としてIFRSベースでの経営管理(中期経営計画や予算管理)の確立や、情報システムを含む「グループガバナンス」の強化が必須となる。

 これまでIFRSの各基準への対応の中で述べてきた(1)連結ベースでの規程・マニュアルの整備、(2)決算業務のシェアード化、組織の集約などは、認識・測定プロセスの品質向上という意味で有効だろう。経営管理の側面からは(3)連結ベースでの事業計画・予算実績管理が望まれる。また、システム的な側面からは(4)勘定科目体系の整理や業務コードの統一、(5)ERPを活用した共通システムのグループ展開、(6)ITインフラのグループ共通化・一元化などが、経営情報の精度の向上とリスク管理の高度化に寄与するであろう。

 一方で、これらのグループガバナンスの確立には、相当の年月と投資が必要となることが予想される。中長期的な視点からマイルストーンを整備し、IFRSの制度導入と整合を取りながら統制環境を確立する。この取り組みが、同時にグループ・リスクマネジメントを実現するための基盤確立へとつながるだろう。

筆者プロフィール

河辺 亮二(かわべ りょうじ)
株式会社日立コンサルティング
マネージャー 米国公認会計士

日立製作所 ビジネスソリューション事業部を経て、2007年に日立コンサルティングに入社。これまで大手メーカー、金融機関、公共機関などの、経営マネジメントシステムの構築、連結決算対応、内部統制対応などのグループ経営支援に関するプロジェクトを担当し、現在IFRS導入サービスを手掛ける。共著書に「グループ企業のための連結納税システムの構築と運用(中央経済社)」「ITコンサルタントのための会計知識(SRC出版)」などがある。


伊藤 雅彦(いとう まさひこ)

株式会社日立コンサルティング

シニアディレクター

会計事務所で税務を担当後、外資系企業の韓国法人と日本法人でCFO(最高財務責任者)を10年間務める。VCF(Value Create Finanace)をコンセプトに決算早期化、シェアードサービス設立、経営情報充実化、会計システム導入などを担当し、現在に至る。

日立コンサルティング

要約

 IFRS時代の内部統制システムを確立するに当たって、具体的な業務プロセスレベルでの統制活動の方向性について検討を行う。取り上げるのは収益認識や棚卸資産、有形固定資産、営業債権、連結財務諸表など。さらに、IFRSとグループガバナンスとの関係についても論じる。

 国際的な開示ルールであるIFRSは、企業の経営情報収集に関する内部オペレーションの方式を規程しているのではない。企業全体のリスクを統合的に管理しつつ、グループの戦略的な目標を達成し、企業価値の最大化を求める。その取り組みを、会社資産や負債、ビジネスの評価に関する経営者の考え方を通じて、財務諸表の中で適切に開示することを求めている。注記(Foot Note)による説明のボリュームの増大は、その表れであり、企業の考え方によって大きな差が生じることだろう。

 IFRSによる情報開示は、会社資産や負債、ビジネスの評価プロセスに係る、適切な内部統制システムによって支えられる。さらにIFRSによる情報開示を適切に行うためには、統制環境としてIFRSベースでの経営管理(中期経営計画や予算管理)の確立や、情報システムを含む「グループガバナンス」の強化が必須となる。

 一方で、これらのグループガバナンスの確立には、相当の投資と年月が必要となることが予想される。中長期的な視点からマイルストーンを整備し、IFRSの制度導入と整合を取りながら統制環境を確立する。この取り組みが、同時にグループ・リスクマネジメントを実現するための基盤確立へとつながるだろう。

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