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連載:キーパーソンに聞く(1)

青山学院 八田教授「IFRSで内部統制以上の混乱も」

垣内郁栄
IFRS 国際会計基準フォーラム
2009/8/19

日本の内部統制制度の策定をリードした青山学院大学大学院 教授の八田進二氏は、IFRSについて「内部統制でこれだけ混乱しているのですから、IFRSでそれ以上の混乱が起きる可能性も十分にあります」と語る

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 しかし、緩やかであったために余り真剣に考えない国もありました。なかなか目を向けられなかったのです。そこで21世紀を迎える頃になって、「コンバージェンス」(収れん)という言葉を使うようになってきました。会計基準を1つとは限らないが、できるだけ1つの方向に進もうではないかという動きで、それを後押ししたのが証券監督者国際機構(IOSCO)でした。2000年5月にオーストラリア・シドニーで会議を開き、規制当局から見ても各国のマーケットがバラバラの会計基準では規制ができないということから、1つの会計基準に向かうことが望ましいという意見が出されたのです。

 IOSCOは、いままでの国際会計基準(IAS)は主要国の民間団体によって設立された国際会計基準委員会(IASC)が作成してきており、必ずしもデュープロセスを踏んでいないとして、デュープロセスを踏み、包括的な会計基準としてまとめ上げてくれれば、それを支持しようではないかと主張しました。それがIOSCOによるエンドースメントでした。

 この決定を受けて、従来のボランティア組織だったIASCが2001年に国際会計基準審議会(IASB)に生まれ変わり、理事メンバーもしかるべき人が選任されました。本当の意味でのプロフェッションで、会計基準に長けている人を選ぼうということになったのです。理事の1人として日本人の山田辰己氏が入りました。

グローバルなアカウンティングスタンダードを作る

 また、新しい組織が作られたときに定款も作られました。一部の人が気付いたのですが、IASBが何を目指すかというところで、「これから我々はグローバルなアカウンティングスタンダードを作る」という言葉が使われました。インターナショナルは複数の存在を前提に1つの方向に進むという意味ですが、グローバルはまさしく1つになるという意味で、IASBはその流れを示したといえるでしょう。ただ、その際のキャッチコピーは、いまだコンバージェンスでしたので、日本の関係者は日本の会計基準もきちんと評価されると思っていました。

 確かに最初はそうでした。ところが米国でエンロン事件が起き、高品質といわれていた米国会計基準の信用が一気に失墜しました。しかも、EU統合が起き、経済のインフラである会計基準の統合も進みました。EUにとって経済統合を促進するための材料が国際会計基準でした。その意味でも国際会計基準は政治的な色彩が強いとの見方もあります。

 米国はエンロン事件以降、ノーウォーク合意などでその国際対応を豹変させました。日本は2001年に、企業会計基準委員会(ASBJ)という民間組織が立ち上がったばかりで、新たな会計基準対応と国際会計基準対応のすべてが任せられていたのです。しかし、結果から見るとASBJが国際対応については多くの点でブレーキを踏んでしまったといえるでしょう。

 ASBJは、あまりにも理論的な部分を重視したばかりに、国際的に揺れ動いている会計基準のコンセプトの変化や経済の動向など、マーケットで合意形成されたルールから乖離(かいり)した会計基準作りになってしまった、と私は思います。そのために日本の経済団体や公認会計士協会など、国際市場を相手に業務を行っている当事者は、(ASBJだけでは)どうしようもないと判断したのでしょう。かつてはコストがかかり、ダブルスタンダードになる国際会計基準に対して、経済団体もネガティブな態度でしたが、会計基準を一本化できるならメリットがあるとして考えを変えました。

 また、当局もASBJだけでは国際対応は難しいと判断して、2008年10月から企業会計審議会の企画調整部会を立ち上げて積極的に取り組んできました。米国のアドプションに向けての工程表の公開(2008年8月)を受けて、後れを取らないように対応を進めてきたのです。この1年を振り返るだけでも国際会計基準の現実的な受け入れに関しては加速度的な速さで議論されてきたといえるでしょう。

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