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連載:キーパーソンに聞く(1)

青山学院 八田教授「IFRSで内部統制以上の混乱も」

垣内郁栄
IFRS 国際会計基準フォーラム
2009/8/19

日本の内部統制制度の策定をリードした青山学院大学大学院 教授の八田進二氏は、IFRSについて「内部統制でこれだけ混乱しているのですから、IFRSでそれ以上の混乱が起きる可能性も十分にあります」と語る

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――従来の会計基準とIFRSは色調が異なり、レポーティングのための基準といわれています。

八田氏 その通りです。日本の会計や会計基準に対する視点は残念ながら作成者指向型で、財務諸表を作る側の論理が中心。そのため会計教育となるとすぐに簿記の話になってしまいます。ところが日本以外のほとんどの国ではマーケットでの議論を重視しています。利用者指向型です。投資家やアナリストなど、利用する側の要求を重視し、顧客指向の会計という視点で議論をしています。そのため、日本の会計とはまったく次元が違うように思われます。

 特に国際会計基準は作る側ではなく、利用者側の論理が中心です。標準的なひな形で会社の実態を説明するという作り側の論理ではなくて、IFRSでは自分が預かっている会社のことは自分たちで説明をしなさいという説明能力の高さが求められます。そのために国際会計基準では、数字情報以外の記述情報が増えます。また、国際会計基準では細かいことを決めるのではなく、作り手には自由な裁量を認めています。しかし、これは何をしてもいいというのではなくて、企業の独自性や主体性を認めるということ。日本が導入した内部統制報告制度とまったく同じ考え方である、と私は考えています。ただ、残念ながら、この考えはあまり日本には向かないということです。日本企業はそれよりも、画一的な標準のひな形を求める方向に行くのではないでしょうか。

経営戦略に会計ルールを落とし込む

 原則主義の国際会計基準は大人社会の議論を受け入れるということです。国際会計基準の適用は上場会社を前提としているので、会計処理能力についてのレベルは元々高いはずです。そのため対応に関してはそれほど心配しなくてもいいのかもしれません。ただ、内部統制でこれだけ混乱しているのですから、それ以上の混乱が起きる可能性も十分にあります。

――日本企業はスムーズに国際会計基準を受け入れられるでしょうか。

 会計という職能についての見方を一気に転換しないと、よい方向には向かわないでしょう。会計は経済活動、企業活動の後追いであると考えられてきました。起きた事実を忠実にルールに従って描写していく役割を担っており、後追い的な業務だと思われてきたのです。

 しかし、国際会計基準では経営戦略の中に会計ルールを落とし込んでいかないと本当の意味で理解できたということにはならないと思います。つまり、今後は認められる範囲の会計処理を自らで決定できる一方で、戦略として会計を理解をしていかないと思わぬ損失を被る可能性があります。その場合には、知らなかったとか、理解していなかったということは免責にはなりません。経営者は細々したことまで理解をするのではなくて、大きなコンセプトを把握することが求められます。原則主義は成熟した経済社会の中で受け入れられるのです。

 国際会計基準は100カ国以上での採用といわれますが、そのうちの90%以上は発展途上国で、自国の会計基準すら有していなかった国もあります。発展途上国において受け入れられていることを考えると、国際会計基準自体は厳格で厳しいことをいおうとしているわけではありません。結局、何を持って厳格な会計基準というのでしょうか。その経済社会及び企業を取り巻く環境において抽出しなくてはならないリスクを適時、適切に把握する能力ないし手法が欠落していれば、どんなに厳格な基準であっても、今回のサブプライム問題のように防止することはできないのです。

 つまり今後は、会計だけの議論ではなく、グローバル化した経済の中での会計、経営という大きな視点が必要になります。経済と経営と会計はもはや同一線上で議論されるべきでしょう。その証拠に国際会計基準が考える概念フレームワークでは、マクロ経済、ミクロ経済、ファイナンス、新しい金融工学を知っていないと理解できないといわれています。非常に複雑で、難しい時代に突入しているといえるでしょう。

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