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連載:キーパーソンに聞く(2)

ASBJ 加藤委員「日本はIFRSの基準作りに直接参加を」

垣内郁栄
IFRS 国際会計基準フォーラム
2009/9/17

30年にわたってIFRSに関わってきた加藤厚氏。2009年4月からは企業会計基準委員会(ASBJ)常勤委員としてIFRSに取り組む。加藤氏にIFRSのこれまでと、これからのIFRSについて聞いた

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――2010年3月期から任意適用が可能になり、金融庁は2012年頃に強制適用を判断します。実際に基準を適用する企業からは戸惑いの声も聞こえてきます。企業が前向きにIFRSを捉えるにはどう考えればいいのでしょうか。

加藤氏 企業としては、国際競争に打ち勝つためのツールとしてIFRSを使っていくことが大事です。今日、なぜこれほどIFRSが国際的に注目されているかというと、今回の金融危機で明らかになりましたが、会計基準が国によって異なっているといろいろ不都合が出てくるからです。同じ取引や事象にも拘わらず、各国の企業によって異なる測定や会計処理を行うと、国際的な金融危機への調整や政策がグローバルレベルで行えなくなります。そのため、G20が金融商品に関する会計基準をIASBとFASB(米国財務会計基準審議会)が共同して見直し、かつ統一しなさいと勧告したのです。

 現在のようなグローバル経済時代では、国や地域によって異なったモノサシ(会計基準)を使っていたのでは、会社運営がうまくいかず、国際競争にも勝てません。日本基準を使う日本企業は、世界の競争から取り残される恐れがあります。日本基準による財務諸表は理解できない、IFRSとは異なるので信用できない、従って取引できない、と世界の投資家や潜在顧客から敬遠される可能性があるからです。

 日本企業は、IFRSの適用が制度上強制されるから仕方なく使うという後ろ向きではなく、IFRSの財務諸表を使うことで、国際競争の中で戦えるというように前向きに捉えるべきです。企業が日本の中だけで成長していく戦略なら構いませんが、海外市場に出て行く戦略であれば、海外で認められる会計基準を使っていかないと競争ができません。IFRSを国際経営戦略のツールとして使っていくべきでしょう。

――FASF(財団法人財務会計基準機構)とASBJなどが中心になって、民間組織によるIFRS対応会議を立ち上げました。その役割は?

加藤氏 IASBはいろいろな個別基準としてのIFRSを作ったり改訂をしていますが、日本の考えが反映されていない新基準や改訂がたくさんあります。IFRS対応会議の主な役割は、日本の市場関係者の声を集約して、それをIASBに対して意見発信していくことです。日本の市場関係者が意見交換して、強いボイスを出していくのが大切なことです。また、中間報告に従って、2012年に最終判断をするための環境作りを関係者全員が力を合わせて進めていく必要があります。そのためにも、こういう民間レベルの組織を作ったわけです。

――中間報告で指摘されている教育と研修も重要になると思われます。

加藤氏 そうですね。IFRS対応会議の中の実務対応部隊の1つとして、日本公認会計士協会が教育・研修についての幹事として具体的に行動します。まだ準備段階ですが、会計士協会が中心になって新しく設立した会計教育研修機構がIFRSの教育・研修プログラムを手掛けていく予定のようです。

 細則主義といわれている日本基準から、原則主義のIFRSに移ることで、日本企業は自社のポリシーを持って会計処理を判断することが、いままで以上に求められることになります。いままでは詳細な規則や実務指針に頼ってきた日本企業の多くの会計実務担当者は、こういう習慣にはあまり慣れていないと思われます。IFRSには細かな実務指針のようなものがない(相当するものとして、IFRICがあるが、発行数が非常に少ない)ので、企業が独自に解釈しないといけません。それには、IFRSを適切に解釈する能力が必要で、企業、監査人、投資家、アナリスト、規制当局など幅広い分野の人達にそういう能力が求められます。あらゆる分野の市場関係者がIFRSを知らないといけないわけで、その教育・研修をどのように行っていくのかは、実際上はなかなか難しい課題だと思います。

――今後、ASBJ自体の役割はどう変わっていくのでしょうか?

加藤氏 当面は東京合意に基づき、コンバージェンスを2011年頃まで進めていきます。これは中間報告に述べられているように、コンバージェンスを加速化して、強制適用(アドプション)したときに日本基準との間に大きなギャップが残ってないようにするためです。しかし、これは単にスピードを上げるという意味だけでなく、アドプションを前提としてコンバージェンスを進めていくという意味も込められていると理解しています。要するに、コンバージェンスの仕方も、自ずといままでとは異なるということです。

 さらに、今年度から始まるIFRSの任意適用を促進する観点から、IFRSの解釈についてサポートするためのIFRS実務対応グループをASBJ内部に発足させる予定でいます。このグループは、IRFS任意適用を検討している企業や、監査法人と連携して、日本固有の経済・会計事象に関してIFRSの解釈が難しい問題を洗い出し、それらをIASBやIFRICに相談していく役割を担うことを想定しています。9月7日にロンドンで開かれたASBJとIASBの定期協議において、IASBのデービッド・トウィーディー議長は、この件に関してIASBは喜んでASBJをサポートすると表明し、さっそく具体的なサポート対策案を提示してくれました。

 また、ASBJの新しい任務として期待されているのは、IFRSについていままで以上に強力な意見発信をIASBに対して行うことと、その基準作りに直接参加していくことだと思います。これからは、IFRSそのものが日本基準と同じ位置付けになるわけですから、IASBがIFRSを作ったり改訂するのをただ見守るのではなくて、そこに日本の意見を反映させていく役割が、いままで以上に強くASBJに求められるでしょう。そのような社会の期待に応えるために、ASBJの運営の在り方等を含めた施策をいま検討しています。いずれ公表されると思います。

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