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レポート:IFRSパートナーコンソーシアムセミナー

財務・経理部門が頭を悩ます「次世代IFRS」問題

垣内郁栄
IFRS 国際会計基準フォーラム
2009/6/29

国際会計基準(IFRS)と米国会計基準のコンバージェンスによって2011年6月にも「次世代IFRS」が誕生する。次世代IFRSは企業のIFRS適用ロードマップにも影響を与える。「IFRSパートナーコンソーシアムセミナー」のレポートをお伝えする。(→記事要約<Page 2>へ)

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「顧客対価モデル」を採用

 対して米国会計基準とのコンバージェンスを行った上で生まれる次世代IFRSは「顧客対価モデル」と呼ぶ収益認識の考えを採用する可能性が高い(2008年12月に公表されたディスカッションペーパー )。井上氏によると顧客対価モデルの概要は以下だ。

・顧客との契約による企業の正味ポジションの増加を基礎として収益を認識しなければならない

・企業と顧客との契約における権利(対価請求権)と義務(財または役務の提供義務・履行義務)の組み合わせが契約における正味のポジションとなる

・物品販売の場合、顧客が当該物品に対する支配を獲得し、当該物品が顧客の資産になったときに企業は履行義務を充足する

 この顧客対価モデルは現行のIFRS、米国会計基準のそれぞれの問題点の克服を目指して提案されている。そのため、いま日本企業が適用を目指している現行IFRSの収益認識とも大きく異なる姿になる可能性がある。ほかのMoU項目も同様に変わることが想定され、井上氏は「次世代IFRSは抜本的に会計処理が変わる可能性がある」という。

移行時期によっては手戻りリスク

 現行のIFRSをターゲットにするのではなく、その先にある次世代IFRSをターゲットと考えると日本企業のIFRS適用ロードマップは大きく変わってくる。

 日本のIFRSアドプションのロードマップも明確になりつつあり、本格的な適用を目指してプロジェクトを立ち上げる企業も現れ始めた。しかし、次世代IFRSの存在がその計画策定を難しくしている。2011年3月期にIFRSに移行する企業は、現行のIFRSがターゲットになる。この場合、必要になるのは2009年4月1日の開始財政状態計算書(バランスシート)。このバランスシートの作成も当然、現行IFRSであり、移行プロジェクトを現行IFRSベースで遂行できることになる。2011年6月以降に次世代IFRSが見えてきた段階で、対応を進めればいい。

 対して「手戻りのリスクがある」(井上氏)のは、2012年3月期でのIFRS移行をターゲットにした場合だ。この場合、2010年4月1日の開始財政状態計算書を用意する。しかし、2010年4月1日から2012年3月までの間に次世代IFRSの適用が始まり、2011年3月期や2012年3月期の財務諸表を修正する必要がある可能性があるからだ。

 日本でIFRSの強制適用が始まる可能性がある2015年3月期からの移行では、この手戻りリスクを避けることができる。開始財政状態計算書が必要になるのは2013年4月1日現在となり、次世代IFRSの適用はすでに終わっている可能性が高い。また、2011年に予定されている米国SECによる米国企業へのIFRS強制適用の最終結論も確認できる。次世代IFRSの動向や、各国規制当局の動向を見極めることができ、最もリスクが少ないといえるだろう。

 ただ、2015年3月期からの移行では、おそらく世界の主要国の中で最も遅いIFRS移行となる。グローバル企業の場合は、日本基準での開示を続けると比較可能性で競合他社に劣ってしまうリスクがないわけではない。いずれにせよ日本企業は現行IFRSだけでなく、「今後のIFRSの動向をウォッチすべき」(井上氏)といえるだろう。

要約

 国際会計基準(IFRS)と米国会計基準のコンバージェンス作業が進んでいて、2011年6月以降にも「次世代IFRS」が登場する見通しだ。「IFRSパートナーコンソーシアムセミナー」で講演したヒューロン コンサルティング グループのマネージング ディレクターで公認会計士の井上寅喜氏は、「企業の経理部門にとって“次世代IFRS”は頭が痛い問題だ」と指摘する。

 次世代IFRSは、現行のIFRSとも異なる内容になると見られる。例えば収益認識では「顧客対価モデル」と呼ぶ考えを採用する見通し。IFRS、米国基準のそれぞれの問題点を修正した新しい収益認識となる。井上氏は「次世代IFRSは抜本的に会計処理が変わる可能性がある」という。

 次世代IFRSで影響を受けるのは日本企業のIFRS適用のロードマップ。2012年3月期でのIFRS移行をターゲットにした場合には準備期間中に次世代IFRSが適用され、手戻りが発生する可能性がある。次世代IFRSの適用が開始されていると見られる2015年3月期からの移行では、この手戻りリスクを避けることができる。井上氏は日本企業は現行IFRSだけでなく「今後のIFRSの動向をウォッチすべき」と訴える。

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