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連載:経営財務トレンド(7)

NEC、KDDI、旭化成が語るIFRSプロジェクトのいま

垣内郁栄
IFRS 国際会計基準フォーラム
2010/2/23

大手企業のIFRS担当者が進行中のプロジェクトを説明した。会計処理やITシステム、ムービングターゲットなど彼らが直面する課題とその解説策は――日本企業が取り組むIFRSプロジェクトのいまをお伝えする。

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会社法、税法との関係は

 プロジェクトを進める中で、IFRS適用の難しさを感じることも多いという。NEC 関沢氏は「ネックの1つはシステム」と話す。2012年度の適用をターゲットにする同社では、本社以外の子会社、グループ会社にその時点でIFRSを完全に適用させるのは難しいと考えている。現行基準で作成した財務データを本社に送信し、本社では修正仕訳でIFRSの財務諸表を作成する。このためにはデータ収集を効率的、確実に行うための仕組みが必要で、関沢氏は課題ととらえている。

 KDDIの西田氏は日本基準との差異が大きい固定資産への対応をIFRS適用の課題の1つに挙げた。通信設備などを大量に保有するKDDIの固定資産は2兆円を超える。登録件数は360万件と膨大だ。通信事業は設備産業の面があり、西田氏は「(固定資産の多さは)しょうがない」としているが、それぞれの償却方法や耐用年数をIFRSに基づきどう判断していくのか。「まずはITシステムへの影響も考慮しつつ、最大限のインパクトがある場合の数字を経営層に伝えている」という。

 旭化成 佐藤氏の説明は多くの企業が悩むポイントだろう。同社は上記のように持株会社の本社と、複数の事業会社で構成する。IFRSを適用するのは上場している本社で、事業会社は会社法がベース。さらに税法も関わる。佐藤氏は「金融商品取引法と会社法、税法の方向性が分からず、非常に取り組みが難しい」と指摘する。「現在は(金融商品取引法の)連結と、(会社法の)単体の差異はほとんどないので、基本的には単体の数字で連結できるが、IFRSになって連単が分離されるとどのように対応をすればいいのか」とも話した。

 佐藤氏が認識しているもう1つの課題も事業会社、子会社に関係する。同社は国内ではSAPをERPシステムとして利用しているが、事業会社で「仕様がばらばら」(佐藤氏)。IFRS対応を効率的に行うためには、ERPの標準化が必要と考えいる。また海外子会社については多くが12月決算を行っていて、3月決算の本社と期ずれがある。IFRSの連結についての基準「IAS27号」では基本的に本社と子会社の決算日を統一することが求められていて、日本基準のように決算期がずれることは基本的には容認していない。佐藤氏は「海外子会社の決算日を3月に合わせていく」と話した。だが、「海外子会社の経理のインフラ、人は共に脆弱。実際にやっていくのはハードルが高い」と心配している。

ムービングターゲット対応の近道

 このパネルディスカッションのテーマは「ムービングターゲットにどう対応するか、導入プロジェクトをどう進めるか!」だった。IFRSは基準自体の改訂、米国基準とのMoUなどで常に動き続けるムービングターゲットといわれている。適用する企業は、常に動く的を狙って対応する必要があり、プロジェクトの困難さに拍車を掛けている。

 NECの関沢氏は「ムービングターゲットについてはなかなか解がない。こうやるとうまくいくというのはないと思う」と語る一方で、「会計基準自体はどんどん変更されていく。今回の山は大きいが、いつもあることで多かれ少なかれ対応しないといけないこと、と認識している」とも語った。そのうえで会計基準の変更を見越して対応を進めるには「早くスタディを始めるべき」と指摘した。IFRSの会計基準はディスカッションペーパー、公開草案、最終基準書などと段階を経て改訂される。関沢氏は「基準が確定してから対応するのであれば明らかに間に合わない」と話し、基準改定の各段階それぞれで対応方法を検討していくべきと説明した。「これは戻り工数といわれるかもしれないが、結果として一番の近道と個人的には認識している」

 「後ろから壁が迫ってくるという感覚をいつも持っている」。KDDIの西田氏はこう表現した。後ろから迫るのは日本基準のコンバージェンスだ。「IFRSのアドプションばかりを意識していると、コンバージェンスへの対応が後手後手に回るというのを痛感している」。包括利益表示の導入がほぼ決まるなど、日本基準の改定も急ピッチで進んでいる。西田氏は「後ろの壁を意識しながら、前を向いて進んでいくのが非常に重要」と強調した。

 原則主義、ムービングターゲット、コンバージェンス対応などIFRSを取り巻く困難さがさまざまなシーンで語られている。しかし、3氏が語ったように課題を分解し、丁寧に対応すれば乗り越えられないことはない。また、その課題解決の過程で会計処理が標準化され、業務プロセスが整い、ITシステムも最適化されるなど経営に対するプラス効果も期待できる。トップの意識も含めて前向きに取り組むことがIFRS成功の鍵だろう。

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