PKIトップベンダーの市場拡大戦略
開発キット無償提供でボルチモアの狙いとは?

2000/11/18

 PKI(Public Key Infrastructure:公開鍵暗号インフラ)は、いまもっとも注目されているテクノロジーの1つだ。インターネットが普及し、電子商取引が一般的になってくると、当然、安全な通信インフラが求められることになる。PKIは公開鍵方式による暗号化通信により、盗聴、改ざん、なりすまし、といったインターネット通信の際のリスクを防止する。

 2000年2月に、同業社のサイバートラストと合併することで、事実上、PKI業界のトップベンダーとなったボルチモアテクノロジーズ(日本法人の合併は5月)。PKI実現に欠かせないCA(電子認証局)を構築する同社の主力製品「UniCert」に加え、アプリケーションをPKI対応にする開発キット、「KeyTools」の提供を11月1日より開始した。米RSA社が保有する公開鍵暗号アルゴリズムの特許行使期間が終了したことで、自由にこの技術を使用した製品のリリースが可能になったことが登場の契機である。

 今回は、このKeyToolsを軸にした同社の戦略とPKI市場の今後について、英ボルチモアテクノロジーズ KeyToolsプロダクトマネージャ、ショーン・カフラン(Sean Coughlan)氏に話を聞いた。

ショーン・カフラン氏「日本市場は大切な市場と考え、現地法人を設立した」

――ツールキット「KeyTools」の概要について教えてください
「PKI実現には4つの要素が必要です。1つめがデジタル署名を発行する“CA(電子認証局)”。これは弊社のCA構築製品『UniCert』をはじめ、すでに提供済みです。2つめが、デジタル署名を管理する“ディレクトリ”。これもすでに提供済みです。3つめが、デジタル署名に効力をもたせる“ポリシー”。『電子署名法』など、世界各国で法の面から整備されつつあります。そして4つめが、アプリケーションのPKI対応です。現状で、アプリケーションのPKI対応はまだまだ進んでいません。今回発売する『KeyTools』は、アプリケーションにPKIの機能を付与するツールなのです」

――なぜ、アプリケーションのPKI対応が進んでいないのですか?
「実装技術が難しいこと、価格の問題、ライセンスの問題の3つが挙げられます。1つめのアプリケーションへの実装については、KeyToolsを使うことで容易にアプリケーションを各種の暗号技術に対応させることができます。また、これまでのツールキットでは価格が高く、システム全体のコストに響いていました。さらにライセンスの関係で、せっかくアプリケーションをPKI対応させても、アプリケーションの配布に応じてロイヤリティを請求されていたのです。KeyToolsはライセンスフリーなので、いちど製品を購入すれば、そのつどロイヤリティが発生することはありません。しかも、今回発表するKeyToolsのラインナップの中にKeyTools Liteという製品がありますが、弊社のWebサイトから無償でダウンロードが可能となっています」

――KeyTools Liteは、ラインナップの他の製品とどう違うのですか?
「KeyToolsは、『KeyTools Pro/Lite』『KeyTools SSL』『KeyTools S/MIME』『KeyTools XML』『KeyTools Telepathy m-Sign』『KeyTools Crypto』の6つの製品ラインナップで構成されています。KeyTools Pro/Liteは全体のコアとなる機能が詰め込まれたコンポーネントで、残りの製品はアプリケーションにそれぞれ暗号技術を付加するための追加コンポーネントとなっています。ユーザーは、必要なコンポーネントをそのつど購入することで機能拡張が可能になるのです。上位版のProはもちろんのこと、Liteでも同様です」

――開発ツールを無償で提供するメリットは? 「UniCert」を販売するための販促ツールとして考えているのですか?
「違います。われわれの製品はオープンスタンダードに基づいています。ですから、ツールキットはKeyToolsで、CAは他社製品で……ということも可能なのです。アプリケーションのPKI対応はまだまだ進んでいません、ツールキットであるKeyToolsを広めることで、まず市場全体が盛り上がることを期待しています。先行する形でLiteのダウンロードサービスが開始されている米国では、開始後6週間で3500本がダウンロードされました。開発者向けの限られた製品であることを考えればかなりの数だといえます。いかに注目されているかお分かりいただけるでしょう」

――今後、アプリケーションにPKIの機能が標準で実装されていくことになるのでしょうか?
「そのとおりだと思います。ユーザーがある製品を購入するときに、その機能が当然入っているものだと考え、特に意識はしないものです。セキュリティについても同様で、使いやすい製品を提供しようと思えば、標準機能として組み込まれていくでしょう」

――PKI普及の今後の課題は?
「1つは法の整備です。現状では、メールなどでやりとりされただけの契約書では法的効力をもちません。別途、紙の契約書が必要になるのですが、これを電子上のやりとりだけで完結できるようにしなければなりません。これに関しては、着々と法の準備が進みつつあります。2つめはPKI製品同士の相互接続性です。1999年末からスタートした『PKI FORUM』では、フォーラム設立の中心メンバーとして相互接続の検証を進めています。3つめはアプリケーションのPKI対応。KeyToolsをはじめとするツールキットの登場が解決してくれるでしょう。4つめは、ERPなど、より広範なシステムに適合化していくことでしょう」

(編集局 鈴木淳也)

[関連リンク]
ボルチモアの発表記事
PKI FORUM(英文)

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