[NetWorld+Interop 2001 Tokyo開催:基調講演]
「IPv6でインターネットはリアルな空間に」 と村井教授

2001/6/7

 6月6日、千葉・幕張で「NetWorld+Internet 2001 Tokyo」がスタートした。6月8日まで、先立って開始していたワークショップ、チュートリアルに加え、展示会、基調講演、コンファレンス、セミナーが開催される。今年で8回目となる今回は、出展社は300社以上と過去最大規模となった。主催のNetWorld+Internet 2001 Tokyo実行委員会では会期中、13万人の来場を見込んでいる。

「いま現在、インターネットが使えているからリアリティがないが、アドレスの枯渇は深刻な問題」と村井教授 

 基調講演の壇上に立ったのは、慶應義塾大学 環境情報学教授で同大学SFC研究所所長の村井純氏。「2001:インターネットの挑戦」と題して、次世代のインターネットプロトコルであるIPv6についてスピーチを行った。村井教授は、次世代のコンピュータ環境について研究を行うWIDEプロジェクトを立ち上げ、同プロジェクトでIPv6をはじめネットワークの研究の指導にもあたっている。

 村井教授はまず、なぜIPv6を推進する必要があるのかについて説明した。現行のIPv4でのIPアドレス枯渇ばかりが指摘されているが、それだけが理由ではない。インターネットがビジネス、さらには人々の生活基盤となるためには、そのインフラが信頼できるものであることは必須条件。エンドツーエンドの通信を実現するIPv6への移行により得られるメリットは、セキュリティ、安定性といった点でも大きいのだ。もちろん、アドレスの枯渇も深刻な問題。「今、ISPが感じている危機は深刻」と村井教授。「PCや携帯端末以外のものがインターネットに接続するようになったとき、現行のIPv4では面倒を見きれない」からだ。

 「インターネットが実社会のネットワークとなることは、実社会をネットで扱うことを意味する」と村井教授。つまり、「インターネットがサイバースペースでもバーチャルスペースでもなく、リアルスペース(実空間)でなければ生活基盤になりえない」ということだ。

 リアルスペースとは、PtoPでだれとでもつながってコミュニケーションができる空間だ。PtoPで自由につながる世界を実現するためには、あらゆる人がグローバルIPアドレスを持ち、アドレスとアドレスが出会う(ランデブー)空間が必要だ。位置情報用のランデブー空間、チャット用のランデブー空間、オークション用…、とさまざまな空間が必要になる。これらは、IPドメインとドメイン名をアプリケーションから分離する「ジャッキアップ」という技術で解決できるという。

 環境面でもIPv6への移行の準備は少しずつ整いつつある。シスコが全製品をIPv6対応にすると発表するなど、ルータやスイッチといったネットワーク機器に関しては、かなりのペースで進んでいる。また、OSの対応も容易に解決する。マイクロソフトは次のOS、Windows XPで対応することを発表しているし、現行のWindowsでもソフトをダウンロードすればよい。「今年中には環境は整う」と村井教授は見ている。

ドメイン名については「ヒートアップしすぎ。“.com”はハイテクのシンボルとなったが一般的ではない」

 だが、IPv6がすべての解決策にはならない。コンテンツ配信を例にとると、安心して流通し課金できる仕組みが技術とビジネスの両面で必要だ。このような認証や課金などの構造の確立のほか、リテラシーの向上、関連規制の整備、さらには著作権の問題も対策課題に挙げた。それらのブロックの上に、EC(電子商取引)、電子政府、放送と通信の融合などが実現する社会基盤が成立するのだという。

 普及、高度化促進に積極的に参画している村井氏は、IPv6の実験を紹介した。その1つが横浜の中心部で車280台を使って行ったインターネットITS(高度道路交通システム)の実験。車はすべてインターネットに接続し、ブレーキやワイパーの操作により、道路の混み具合や降雨状況がわかる。これらは現行の交通情報や気象情報より「ずっと高級な情報」であり、もしネットワーク化したことで得られる情報が高く取引されるようになれば、懸念されるコストの問題も解消すると見ている。

 「本当の地球空間にインターネットがどのように役立つのか、インターネット技術を用いて空気のようなコミュニケーション手段をどう構築するのか」、こういったいわば究極の課題に取り組めば、IPv6の必要性は自ずと明らかになる。「人、社会、さらには地球のためにインターネットがどう貢献できるか、これはインターネットの挑戦でもある」(村井教授)。

(編集局 末岡洋子)

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NetWorld+Interop 2001 Tokyo

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