2003年実現に向け、電子政府に関するイベントが開催

2001/10/17

ビル・ゲイツ氏 「マイクロソフトではXMLを基盤技術とした.NET Frameworkでソリューションを提供する」

 10月16日、東京都内のホテルで、電子政府・電子自治体の構想や構築について検証する「電子政府戦略会議」が開催された。主催は日本経済新聞。米マイクロソフト 会長兼チーフ・ソフトウェア・アーキテクトのビル・ゲイツ(Bill Gates)氏が特別講演を行ったこともあり、会場は7000人を上回る聴衆で満場となった。

 開幕のあいさつでは、竹中平蔵経済財政政策担当大臣がビデオで登場した。IT戦略本部も担当する同氏は、「構造改革にはプロアクティブ(能動的)なものとリアクティブ(受動的)なものとがあり、IT革命はプロアクティブな部分を担う」と述べ、電子政府構想は戦略的なIT活用の重要な柱であるとした。


電子政府とe-Japan戦略

 日本の電子政府への取り組みに関しては、森内閣時に立てられた「IT基本法」(高度情報通信ネットワーク社会形成基本法)がベースとなっている。その後、この法案に基づき、内閣に設置されたIT戦略本部(高度情報通信ネットワーク社会推進戦略本部)が定めたのが、「e-Japan戦略」および「e-Japan重点計画」。重点政策分野として、電子政府の実現のほか、超高速ネットワークインフラ整備および競争、電子商取引、人材育成の強化の計4つが挙げられている。その後、小泉内閣になり「e-Japan2002プログラム」が発表され、国家戦略として2002年までに具体的に取り組む課題を明確にした。このような国家的戦略として、米国の「IT2」、英国の「UK Online」、韓国の「CYBER KOREA 21」などがある。


 基調講演のステージに立った総務大臣 片山虎之助氏は、「一連のe-Japan計画の中で、最も分かりやすく便益があるのが電子政府および電子自治体ではないか」として、スピーチをはじめた。

 片山大臣は、まず、e-Japanで理想としている“世界最先端のIT国家”を以下のように定義した。「すべての国民がITのメリットを享受し、ゆとりと豊かさを実感できる国民生活と個性豊かで活力に満ちた地域社会が実現された国家」。そして、そのためには、経済構造改革の推進と産業の国際競争力の強化、さらには地球規模での高度情報通信ネットワーク社会の実現に向けた国際貢献が不可欠だとした。

片山大臣 インターネットの普及が世界14位という統計に対し「中の上」とコメント。現在の官公庁のホームページ開設率は、省庁および政令指定都市が100%、市区が83.6%、町村は61.1%

 2003年を目標とする電子政府・自治体の実現には、省庁など組織内部の電子化、官民接点のオンライン化、行政情報の公開と利用促進などがある。片山大臣は、運びとしては民間主導で進んで行くのが望ましいとし、「官はそのための環境整備や民にできないことを支援する」とした。

 電子政府・自治体の仕組みを通し政府や自治体が国民に提供するサービスに関しては、行政への届け出・申請などの手続き、遠隔医療や遠隔教育、防災の安否確認管理などが挙がっている。総務省における取り組みは、当面は届け出・申請を中心に進む模様で、片山大臣は、「国の申請を2002年に50%、2003年までには98%をオンライン化したい」と見通しを明らかにした。国に比べ電子化が遅れているとされる自治体に対しては、オンライン化に向けた条件整備から着手し、2003年には95%の整備を完了させたいとした。

 届け出・申請以外に、調達、税、選挙に関する手続きなどもプランにある。それぞれ、運営を開始したもの、トライアル段階のものと進捗はまちまちだが、「年度ごとに見直して進めて行く」という。また、「オンライン化推進と同時進行で、これまでの手続きを見直し、効率化・簡素化も図る」(片山大臣)と述べ、構造改革にも積極的に取り組んでいることを強調した。

 これらと合わせて、霞が関WANを中心としたネットワークの構築、ICカード、セキュリティ対策、人材育成などの取り組みにも触れた。セキュリティに対しては、不正アクセス禁止法や電子署名法などが施行段階に入ったが、インターネット社会で重要となるプライバシー保護に関しては、「個人情報の保護に関する法律案」を「できるだけ早く法制度化したい」とした。また、片山大臣は、前日の10月16日に“電子政府の情報セキュリティ確保のための実施計画”が制定されたことにも触れた。同計画には、暗号の標準化推進、情報システム監視体制や緊急対処体制の整備、セキュリティポリシーの実効性の確保などが含まれている。

 もう1つのトピックスが“全国ブロードバンド構想”だ。電子政府のインフラ整備としても重要なブロードバンド回線による常時接続環境は、総務省の重点的な政策分野の1つでもある。片山大臣は、現在、ケーブルTV、xDSL、光ファイバなどのブロードバンド回線の加入者数が伸びていることを指摘し、2005年には「少なくとも3000万世帯が高速ネットワークに、1000万世帯が超高速ネットワークに常時接続していることを可能にしていく」と語った。各サービス別に見ると、DSLに関しては、2005年までにはほぼ民間主導でサービス提供エリアの全国展開が望め、光ファイバに関しては、おおむね全国の市にサービス提供エリアが拡大されるが、採算性などでサービスが提供されないエリアに対しては公的整備を行う意向を示した。

 電子政府に関しては、市場が大きいだけにこの1、2年でベンダ側もソリューションの開発・提供に力を入れている。だが、ベンダからは、(ITリテラシーやITの仕組み導入以前の問題として)縦割り行政などの体制そのものが課題と指摘する声があるのも事実。片山大臣は、スピーチの中で、「IT革命では物事が便利になるだけではなく、政治や行政が変わることも必要」とコメントするなど改革への姿勢はアピールした。「(e-Japan実現にあたり)行政のあり方や進め方を見直し、より良い行政運営サービス、透明性と統合性を実現したい」(片山大臣)。

 電子政府は2003年の実現を目指している。急速な変化を求められているのは企業だけではない。政府や自治体も状況は同じということが改めて浮き彫りになった。

(編集局 末岡洋子)

[関連リンク]
e−Japan戦略(要旨)
IT戦略本部

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