期待と懸念が入り混じる.Net My Services

2001/11/17
Wednesday, November 14, 2001, 10:03 AM ET InternetWeek, By Mitch Wagner

 米マイクロソフトの「.Net My Services」は、業者にとって、消費者とのトランザクションを合理化できる可能性を秘めている。だが、同技術の実装を検討している企業各社によると、その前にまず、米マイクロソフトがセキュリティ、信頼性、そして誰が顧客情報を所有するのか、といった懸念に対処する必要があるという。

 「Hailstorm」というコード名で呼ばれていた.Net My Servicesは、オンサイトでのカスタマー登録、支払処理、そしてカスタマーの興味に合う製品の発売など各種イベントの通知などの日常作業を処理する標準手法を業者に提供してくれるものだ。

 同技術の目的は、消費者がWeb上で買い物をしやすくし、その結果、業者との取引を増やしてもらうというもの。米ゼネラル・モータース(GM)の社内向けITサービス組織では、来年の.Net My Services登場に合わせ同技術の実装を検討しているという。同社 Information Systems and ServicesのCTO Tony Scott氏は、「商取引が容易になるしかけが発明されればオンラインでの商取引は増加する」と語る。

 米マイクロソフトは先日、.Net My Servicesを利用して実現するWebサービスに関するある計画を明らかにした。この「MSN Money Professional」は、MSN MoneyのWebサイトから金融サイト向けに機能を提供するための.Net Webサービス。金融各社は自社アプリケーションにサービスを組み込めるようになっている。Money Proは来年にベータテストを開始する予定だが、認証にはPassport、そして重要な情報が絡む消費者とのコンタクトには「Alerts」を利用することになる。

 .Net My Servicesはパッケージソフトウェアではなく、主にサービスとしての提供を意図している。つまり、これらは業者によって運用されるのではなく、マイクロソフト自身を筆頭とする第三者によって運用されることになるのだ。ITマネジャーは、標準化されたXMLインターフェイスを自社のEC(電子商取引)エンジンに組み込むことによって、同サービスを利用することになる。

 .Net My Services内の顧客情報は(消費者の許可を得て)公開されることになる。消費者は今後、.Net My Servicesで一旦登録作業を行えば、ECサイト毎に登録を行う必要がなくなり、これまで一度も取引のなかったWebサイトを訪れた場合も、自分の個人情報を.Net My Servicesからその新しいWebサイトにボタン1つで転送することができる。

 米マイクロソフトでは来年、「Wallet」(支払処理)、「Profile」(ユーザーの氏名や住所といった基本情報)、「Contacts」(住所録)、「Locations」(ユーザーの行動範囲)、「Presence」(ユーザーに関する、オンライン、オフライン、ビジー、フリーなどの状態や、PCもしくは携帯電話といったメッセージ送信先デバイス)、「Calendar」(カレンダー)、そして「Inbox」(電子メールやボイスメール)をはじめとする15種類の.Net My Servicesの発表を計画している。

 Passportは、マイクロソフトの認証サービスで、現在2億人のユーザーを有する。マイクロソフトは、現時点では、.Net My Servicesとして同サービスのマーケティングを展開していないが、消費者が.Net My ServicesにアクセスするためにはPassportに申し込む必要がある。Alertsに関しては、プレビュー版が先月立ち上がっており、カスタマーは同機能を利用して、何かあったときに業者とコンタクトするための連絡手段を設定することができる。コンタクトを取る場合は、電子メール、インスタントメッセージング、もしくはテキスト対応携帯電話といった経路を、消費者が自由に指定することができる。eBayによると、同社ではオークションで入札額より高値が付いたときにカスタマーに通知を行う手段として、Alertsを導入する計画だという。

 主な業務アプリケーション向けの料金は年間1万ドルに加え、アプリケーション毎に別途1500ドルがかかるが、消費者向けの料金はまだ未定となっている。

 自動車を修理したいユーザーが.Net My Servicesを使い、自動車修理工場のチェーン店のWebサイトなどを訪れたとしよう。自動車修理工場のチェーン店では、.Net My Servicesにアクセスしてユーザーの個人情報と住所を確認し、ユーザーの住所に最も近いサービス工場を紹介する。また、Calendarを使えば、Webサイトがサービス工場に車を持ち込むのに双方に都合の良い時間を提案し、カスタマーはWalletを使ってあらかじめ支払いを済ませる、といったこと実現する。

 だが.Net My Servicesは、同機能の実装を目指す企業に技術的な課題も提起している。

 GMのScott氏は、GMが.Net My Servicesを自社のディーラーサービスシステムと統合するまでにはかなりの時間を要するとして、消費者が自動車修理工場に予約を入れるという米マイクロソフトによる架空の例を批判した。

 「統合まわりの作業がかなり必要となり、率直なところこれはスケジュール通りに運ばないだろう」(Scott氏)

 また、マイクロソフト製品を運用していないサイトでは、統合そのものが困難になる可能性がある。CDやビデオを販売する小売業者の米Trans World Entertainmentでは、PassportとAlertsをサンのサーバ、オラクルのデータベース、そしてATGのECソフトウェアをベースとしたECサイトを持つ。同社副社長兼CTO Steve Skiba氏は、自社システムと.Net My Servicesの統合は困難を極めると感じたと語る。統合のためには、自社のデータセンターに「Microsoft Internet Information Server」をインストールしなくてはならず、IISとほかの各種サーバを連動させるためのプログラミングインタフェースに関して、マイクロソフトの広範にわたる協力が必要だったという。

 また、マイクロソフトがアプリケーション自体のホスティングも行うため、潜在ユーザーは、信頼性とセキュリティ(同社が抱え続けてきた2つの問題)をかなり懸念している。Outlookなどのソフトウェアで広く報道されているセキュリティの問題に加え、同社はサービスでもセキュリティの問題や障害を抱えてきた。無料電子メールサービスのHotmailはこれまでもサービスの停止を繰り返したが、さらに今月に入り、米国在住のフリーランスのソフトウェアデベロッパー Marc Slemko氏が、セキュリティ上の欠陥を発見した。これは、ハッカーがHotmailとPassportからクレジットカードのデータを盗み出せてしまうセキュリティ・ホールで、これによりPassportの仮想ウォレット機能が一時的に無効になるという事態となった。

 マイクロソフトでは、セキュリティと信頼性を強化することを発表してはいるものの、具体的な内容を明らかにするにはまだ時期尚早だという。同社 プラットフォーム戦略担当ゼネラルマネジャー、Charles Fitzgerald氏は、「サービスビジネスで成功を収めるためにはこのような問題をクリアする必要があることは分かっている」と語った。

 米Dollar Rent a Car Systemsでは、来年の第1四半期までに消費者が携帯端末を使ってオンラインで車を予約できるように、Passportの実装を計画している。同社 先進技術グループマネジャー、Peter Osbourne氏は、「マイクロソフトにはこれらの問題を解決するための技術も、そして資金も十分にあると思う。同社は問題解決のために必要な資源を集中して投入するだろう」と語った。

 ITマネジャーがマイクロソフトから何らかの回答を求めているもう1つの疑問が、誰がカスタマーのデータを所有するのかという問題だ。マイクロソフトでは、契約により消費者自身に自分のデータを管理してもらうよう業者に義務づけ、業者や同社自身が消費者の許可なくデータを売却もしくは公開することを禁じるとしている。さらには、消費者に広告メールを大量に送りつけることも禁じるという。

 米サン Sun One(サンのWebサービス名)の事業部で製品マーケティングディレクターを務めるGina Santori氏によると、マイクロソフトやサービスプロバイダーに情報が保管されていることで、業者は自社のカスタマーデータ情報の利用が制限されているように感じるかもしれないと見ている。「両者の関係にマイクロソフトが割って入ることになる」(Santori氏)。

 しかし、マイクロソフトのFitzgerald氏は、契約による制限は消費者のプライバシー保護のみを意図したものであり、消費者に今後も進んでオンラインショッピングをしようと感じてもらうには、このようなプライバシー保護が絶対不可欠なものになるという。

 GMのScott氏によると、実際のところプライバシーの問題は大きく、場合によっては.Net My Servicesを失敗に追い込みかねないと懸念している。自分の全個人情報を1社の企業に託すことを望まない消費者は、.Net My Servicesに絶対に申し込まない可能性も高い。

 「確かに人々は医者に医療情報を託し、銀行や証券会社に資産情報を託すだろう。だが、たとえこれがマイクロソフトではなく、サンやIBM、フォードであったとしても心配であることには変わりない。どれほど有名な優良企業であっても、消費者が1社にすべてを託すことはないと思う」(Scott氏)。

 GMは、米サンが支援するMicrosoft Passport対抗技術「Project Liberty」の設立メンバー企業の1社だ。だがScott氏は、.Net My ServicesとPassportが消費者の支持を獲得したら、GMはLiberty技術を実装する一方で、理にかなう場面では.Net My Servicesも実装するだろうと語る。業者が今のところ、マスターカードとビザの両方をサポートしなくてはならないのと同じ理由だ。

 米アクセンチュア・テクノロジー・ラボで北米開発ディレクターを務めるScott Rose氏は、プライバシーポリシーの完成もまだ先になると見る。特に、プライバシーポリシーに違反した企業に対する罰則規定については、細かく規定する必要があるという。米アクセンチュアでは、.Net My ServicesのAlertsを使って小包の準備が整ったことをカスタマーに通知し、LocationとCalendarを使い小包が届くときにカスタマーがいるであろう場所を特定する、小包のトラッキングアプリケーションのデモを開発している。

[英文記事]
.Net My Services Could Streamline Transactions, But Questions About Security Remain

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