[Interview]
「年内にサーバでトップに」、デル浜田社長

2002/1/8

 2001年は、業績が好調だった多くのIT企業が業績を悪化させ、IT不況とまで呼ばれた。その中においてIT不況をものともせず、業績を伸ばし続けている企業が、デルコンピュータだ。世界のPCの出荷台数が前年割れとなる中、世界でも日本でもマーケットシェアを伸ばし、いまや米国ではIAサーバ市場で1位、日本で3位、全世界でも第2位となっている(いずれもIDCの調査による)。

 その好調の原因はどこにあるのか? 今後のデルコンピュータの戦略は? そうした疑問を、デルコンピュータ 代表取締役社長兼デルコンピュータ・コーポレーション副社長 浜田宏氏に聞いた。


デルコンピュータ 代表取締役社長兼デルコンピュータ・コーポレーション副社長 浜田宏氏

――2001年度の第3四半期(8〜11月)の業績が良かった原因は何か?

浜田氏 当社の業績好調の理由は、カルチャー、組織、インターネットの利用という3つの要因による。まずはカルチャーと組織だが、まず経営の日々のスピードが違う。デルコンピュータ全体では4万人、日本では千人近い社員規模となったが、組織はフラットのままだ。そのため、情報がトップに伝わりやすく、何かあればすぐにトップに情報が伝わり、トップ自らが動ける。インターネットも社内システム、サプライヤー、それに顧客との取り引きに最大限利用している。

 さらに、販売管理費の額が他社と違う。他社は宣伝にお金をかけ、接待費を使っているが、当社ではそうした費用はかけないようにしている。接待費はないし、社用車は1台もない。無駄を徹底的に省くことにより、販売管理費は他社の3分の1から半分程度だ。

 そして、当社は毎日生の顧客と接している。そのため、いつだれがどこで何をどのぐらいの台数を買いそうかが判断できる。そういった情報を工場やサプライヤー、パーツメーカーなどと共有する。こうすれば計画生産をしなくても済むし、作り過ぎることもない。

――デル価格といわれるほど、御社の価格は安いといわれている。それはどうやって実現しているのか?

浜田氏 コンピュータの部品は現在、だいたい1週間に1%程度下落している。部品が下落し続ける状況では、部品在庫をいかに少なくするか、売る直前に部品を買えるかどうかが重要になる。他社は、販売前の20日から40日前に購入しているようだが、当社は販売の4日前でよい。他社が平均30日前に購入すると仮定すると、すでにこの段階で4%前後、当社の方が安いことになる。

 そして、販売管理費と流通経費があまりかからない。これらの要素があるから、当社は圧倒的にコスト競争力があるのだ。

 さらには、利益が出たら何に使うのか。当社は顧客サービスのため、顧客満足度を上げることに投資している。その結果、リピートオーダー率がどんどん高くなっている。こうなれば、広告にお金ををかけなくても顧客がつくようになる。

――これまでデルはデスクトップからノートブック、ワークステーション、サーバ、ストレージと新しい分野に参入してきたが、新規参入にタイミングはあるのか?

浜田氏 当社が新規参入するときは、コモディティ化が始まるときだ。それは、これからオープンスタンダードになりそうなときといい換えることができる。独自技術の時代は、限られたベンダが高い利益を上げるが、こうした市場では、当社の強さを発揮することはできない。

 しかし、オープンスタンダードになると、参入障壁が低くなる。つまり、だれでも参入して作って売ることができる。そして、だれもが使うことができることを意味する。この場合、価格と性能と顧客満足度が重要になる。まさに当社が最も強い分野となる。さらに人材にも言及すると、コモディティ化が始まった分野は、その技術が分かるエンジニア、営業などの数も多くなり、人も採用しやすくなる。

――今回のEMCとの提携のタイミングはどう考えるのか? EMCもオープンスタンダードではない独自技術で成長した会社だと思うが。

浜田氏 ストレージに関しては、コモディティ化がほかの分野に比べてずっと遅れているのは事実だろう。デルがこの分野に参入したのは、確かにこれまでの製品と比べると、比較的早い。しかし、ストレージ界のチャンピンオンとPC界のチャンピオンが手を組んだことの意義は大きいと考える。

――EMC製品販売の場合、価格やサポート体制はどのように考えているのか?

浜田氏 価格は当然デル価格にしていく。サポートは、最初は当然当社にとって新しい製品なので、彼らのサポートを受け、両社でやっていくが、いずれは独自にやっていきたいと考える。

「デルコンピュータは、サービスでもコモディティ化を図る」と浜田氏

――SAN/NASに関しては、製品のコモディティ化以上に、知識のコモディティ化が遅れているように思えるが。

浜田氏 そのとおりだ。実は当社のWebサイトでも、サーバとは何か、ストレージとは何かなどの情報を、今後の顧客になる可能性のある潜在顧客向けに伝えていく。それによって、SANやNASの知識も伝えていきたいと考えている。

――こうした新しい分野に進出するにあたり、社内の知識などのキャッチアップは万全か?

浜田氏 社内の人材育成として、エンタープライズ資格制度を創設した。この資格は、会社全体の人材をエンタープライズにフォーカスさせるために日本独自に作ったものだ。さらに、名前はまだ決めていないが、段階ごとにレベルを分けたい。また、外部のベンダ資格などと組み合わせたいとも考えている。最終的には、ヘッドハンターから連絡が来るような人材を育てばと考えている。

――今後、EMC以外に、エンタープライズ分野で他社と提携する予定や考えはあるのか?

浜田氏 いまのところ、本社を含め、そうした事実は聞いていない。ただし、現在力を入れているサービス分野では、もしかしたらあるかもしれない。ただし、大がかりな企業買収などはないだろう。

――サービス分野では、デル・テクノロジー・コンサルティング(DTC)が、コンサルティングでもコモディティ化を図り、価格を引き下げるというが、具体的にはどのような方法で実現していくのか?

浜田氏 あらかじめ価格を提示し、明朗会計で、安く設定する。これまで日本のコンサルティングやシステム開発は、建設会社のゼネコンと同じだ。例えば、できないものまで受注し、それを下請けにまわす。当社は、どこまでができるのか、どのようにできるのか、それを明確にする。つまり、受注形式をゼネコン形式から注文建築のようにして、価格を決めていきたい。

 いっておきたいのは、他社はハードが伸びないから、ソフトやサービスに活路を見出しているわけだが、当社はハードでも利益を出している。ハードという屋台骨がダメだからといって、ほかから利益を上げようとしているわけではなく、デル製品を購入したユーザーに、よりよいサービスを提供したいと考えるから行うだけだ。つまり当社のコンサルティングは、デルのハードを中心に行う。われわれは、ソリューションプロバイダ(SI)になる気はない。あくまでデルの製品を使ったサービスを提供したいと考えている。

――ライバルとして、中国のメーカーについてどう考えているのか?

浜田氏 中国は当社にとって最重要課題の1つと認識している。特にレジェンドは強力なベンダだ。レジェンドは、これからヨーロッパに進出すると聞いており、当社も、彼らが潜在的なライバルだと考えている。彼らに対抗するために、中国向けに安い価格を求めるコンシューマやSOHO向けには、スマートPCという新しいブランドを立ち上げ、従来のPCの半分程度の価格で展開している。それに対して大企業ユーザーなどには、コストとクオリティのバランスで攻めている。

 とにかく中国は、教育が進み、意識改革も急速に進んでいる。デルの工場の中では中国の工場が最も勤勉といわれているほどだ。

――デルの2002年の目標は何か?

浜田氏 2002年前半は、経営もきついと思うが、シェアの伸び率は日本でナンバー1なりたい。来年の最後には、結果として総合で4位を目指す。

 現在、当社の中堅企業と大企業向けでは、サーバの市場シェアはほかの市場(個人、SOHO、中小企業向け)と同じ3位だ。これを年内にワークステーションとデスクトップと同じ1位にしたい。それ以下の小企業やコンシューマ市場のシェアはそれほどではないので、こちらはどれだけ伸び率を上げることができるかにかかっている。こちらのマーケットシェアを上げ、来年中にはコンピュータ市場全体で4位にしたい。そしてWintelのプラットフォーム市場全体では、2、3年以内に3位にする。 エンタープライズ市場では、3つのS(サーバ、ストレージ、サービス)を強化したいと考えている。

 ここで断っておきたいことは、別にマーケットシェアを最大の経営目標としているわけではない。顧客満足度や利益を上げていけば、その結果としてマーケットシェアを取れると考えているだけだ。

 さらにいうと、日本のデルコンピュータを、真の意味でのグローバル企業にしたいと考えている。具体的には、海外の現地法人などを指導できる日本の人間を海外に派遣したり、海外の社員を日本で鍛えるために受け入れたりしたいと考えている。

[関連リンク]
デルコンピュータの2001年度第3四半期の業績
デルコンピュータとEMCの提携発表資料
デルコンピュータのサーバ相談室

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