電子政府で脱グラフィックスを狙うアドビ

2002/2/19

 米アドビシステムズは今年、創業20周年を迎える。これまでコンシューマ向けグラフィック・ソフトウェア・ベンダの印象が強かった同社だが、このたび、体制を新たに組み直し、6割の営業部隊をPDFファイルのAcrobat関連事業に割くという。その背景にあるのが、2003年実現を目前に控えた電子政府構想だ。

 

 Acrobatの最新版であるバージョン5は昨年4月に発表された。無償配布の閲覧ソフトウェア「Acrobat Reader」は、すでに全世界で4億件のダウンロードを誇っており、同社が“ペーパーワークを電子化”というコンセプトに基づき開発したファイル形式であるPDFは、文書共有形式としてはデファクトとなりつつある。実際、日本でも準JIS規格にあたる標準情報(TR:Technical Report)で認定されているほか、ISOやIECでも文書フォーマット標準をPDFベースに進めるなど、世界的に使われているという。

 同社が2001年末に行った独自調査によると、日本全国の47の都道府県のすべての公式なWebサイトにAdobe PDFが活用されているという。そのうち、各種申請書のダウンロードに利用しているのは46都道府県。電子政府が実現し、情報の公開、申請や認可といった作業が電子化されるうえで、アドビのPDFが適していることを裏付ける数字といえそうだ。

 「PDFは、紙同等の使いやすさに加え、紙以上の利便性を提供する。例えば、改ざん防止、電子署名といったセキュリティ機能、音声リーダーと連携した音声による再生など。すでに業界を問わず広く活用されているが、一連の電子政府での市場が十分にある」と同社 代表取締役 副社長 石井幹氏。電子政府では、省庁内での文書の標準化、省庁間での文書の標準化、情報公開、電子申請の4ステップで、促進していきたいとの戦略を語った。

 そういったビジネス用途の高まりを視野にいれ、最新バージョンではXML技術をサポート、PDFからXMLデータを抽出するといったことが実現する。このメリットを生かすと、例えば電子申請の際に、電子署名がすべての添付書類に反映され、“割印”の役割を果たしてくれるといったことが実現するという。

 PDF化のもたらすメリットは、意外なところにもある。米国では、ファイザー製薬が“バイアグラ”を新薬としてFDA(米国医薬食品局)に申請する際、申請に必要な大量の書類を紙で納める代わりにPDF形式で申請、市場投入を4カ月前倒しできたという。

 電子政府に関しては、米国はじめ諸外国でも取り組みの段階だが、当面の課題がライセンス料金となりそうだ。というのも、無償提供されているAcrobat Readerは、文書を開くほか、入力や印刷は可能だが、保存やファイルを添付する、電子署名を付けるといった機能は提供していないからだ。現在、解決策として考案されているのは、特定の文書に関して機能を付けるアプローチと、自治体などが負担するというアプローチ。米国内国歳入庁(IRS)のケースでは、Acrobat Readerを拡張したものをCD−ROMに焼き付けて配布という形を取ったという。

 「機能としては、現在の電子政府構想を実現するには十分なものは備えている」と同社 マーケティング部 ePaperソリューショングループ グループマネージャー 市川孝氏。今後、先のライセンス料を解決していくほか、グループウェアとの連携などの技術課題もクリアしていきたいと語る。現在、“PDF研究会”というワーキンググループを結成し、120社の参加企業と情報交換を行っているという。同社は今月初め、カナダの電子フォームツール・ベンダ、アクセリオ(旧社名はジェットフォーム)の買収計画を発表、この分野での地位を確立する体制だ。電子政府の主役はSI事業者だけではない。意外なところにもいるようだ。

(編集局 末岡洋子)

[関連リンク]
アドビシステムズ
アクセリオ買収の発表資料

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