[ガートナー特別寄稿]
逆境期にIT投資を刺激する要因:ITマネジメントのリスク


ガートナージャパン
リサーチディレクター
黒須 豊

2002/3/9

 昨年のITバブルの崩壊と米国同時多発テロ事件を受けて、いったん冷え込んでしまったIT投資が、今後早急に回復すると予測する経営者は少ない。一方、期待を込めて今年の後半からは回復するだろうという明るい予測もある。これらの議論の多くは、経済全体をマクロにとらえ、かつ企業の投資行動とIT投資がおおむね比例することを暗黙のうちの前提としている場合が多いが、IT投資と他の投資案件が必ずしも一致するとは限らない。実際のところ、今後のIT投資についてどのようなことが言えるのだろうか。

■低迷する経済環境下でも増加するIT投資

 経済状態が悪くても増加傾向を示すIT投資も存在する。例えば、卑近な例として、セキュリティへの投資を挙げることができる。テロ対策を含めたセキュリティに対するニーズはむしろ増加傾向を示している。ガートナーでは、かねてより国内iDCの総供給量は過剰であると警告してきており、現在の国内市場動向はその予測に沿う結果となっている。だが、昨年のテロ後、実は部分的にiDCの需要が高まっている。それは、テロ対策として郊外型のiDCの必要性が再認識されているのである。

 また、Code RedやNimdaなど、相次ぐコンピュータ・ウイルスの発生によってセキュリティ・ポリシーの必要性を痛感する企業は多く、今後ともセキュリティ分野でのIT投資が堅調であることに異論はないだろう。そこで、本稿では、あえて他に視点を移してみたい。単純に商品として何が売れるかということではなく、いまITがどのような状況にあり、結果としてどのようなニーズを喚起するかについて考えてみよう。

■中長期的なIT投資促進要因

 まず、売上拡大を指向する場合であるが、経済全体が冷え込んでいるときは、他の投資要素同様、相対的にIT投資は控えられる傾向にある。企業の投資は、経営状態が芳しくなければ、おおむね抑制基調になることは当然である。従って、売上拡大のためのIT投資が復活するのは、やはり今年後半以降になるだろう。

 一方、予算を中期的に抑えることを目的とした、コスト・ダウンを指向するIT投資が行なわれることは珍しくない。例を挙げれば、全社プロセス改革などに伴なうIT投資は、中長期の予算(IS経費を含めて)削減を目標とする場合が多い。このような最終的にコストダウンにつながるIT投資は、むしろ企業が今後の成長に危機感を感じた場合に伸張する。つまり、経済的に冷え込んでいるいまこそ、むしろ、中期的な投資抑制のためのIT投資が検討されてしかるべきであるし、事実、先進的なユーザー企業は、抑えるべき他の投資を抑えたうえで、このようなIT投資を行っている。

■今年最も伸びるIT投資:ITマネジメント

 IT市場の中で最も成長しているのがITサービス市場だが、中でも、注目されているのがITマネジメントの分野である。ガートナーでは、この分野が国内ITサービス市場において、2002年No.1規模の市場(約1兆8000億円)になると見ている。先行きが不透明な中で、多くの企業は投資効果の妥当性に強い関心を抱いている。つまり、その妥当性を確かなものにするためには、パフォーマンス・レベルの管理が重要であり、総合的なITマネジメント分野で、ユーザーの関心が極めて高まっているのである。

 ITマネジメントの分野では、アウトソーシング市場が引き続き堅調に拡大すると思われる。その大きな理由の1つは、将来のITマネジメントにおけるリスクを社内から社外へ転嫁することである。重要だと認識しつつも、そのマネジメントを自社要員のみで実施し続ける妥当性に疑問を持つ企業が増加しているのである。ただし、アウトソーシングを行っても、そのアウトソーシングをマネジメントすることが必要である。だからこそ、昨今、アウトソーシング案件と絡めてSLA/M(Service Level Agreement or Management )が高い注目を浴びている。

 ユーザーにとって理想的なアウトソーシングは、ITマネジメントにおけるリスクを自社から社外へ転嫁し、その妥当性をSLAによって管理することである。運用のアウトソーシングは言うまでもなく、開発保守案件まで含めてSLAないしSLA的なパフォーマンス・マネジメントの効果をユーザーに対して説得できるかどうかが、今後、プロバイダの雌雄を分ける要素になるだろう。また、明確なパフォーマンス・マネジメントを実現できないユーザー企業は、たとえ比較的小額のIT投資であっても、社内外にその投資の妥当性を説明することがますます困難になるだろう。

注:ガートナーは世界最大のIT戦略アドバイス企業で、本記事は同社日本支社 ガートナージャパン リサーチディレクター 黒須氏からの寄稿である。

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