[Interview]
XMLとPDFで完成するアドビのワークフローソリューション

2002/3/23

 アドビ・システムズはPDFファイルのソフトウェア「Adobe Acrobat」を軸に、法人市場に進出している。全世界の電子政府そして企業でAdobe PDFはデファクトとなりつつあり、日本でも全国の都道府県の公式なWebサイトへのAdobe PDF採用は、47全都道府県をカバーしている。同社は先日、カナダの電子フォームベンダのアクセリオの買収を発表、XMLとの連携によるワークフロー分野で企業システム市場に参入することになる。

 今回、Macworld Tokyoのために来日した米アドビ システムズ プロダクト マーケティング&開発 上級副社長 シャンタヌ・ナラエン(Shantanu Narayen)氏に、電子政府を含めた同社の法人戦略や将来のPDFについて、話を聞いた。


シャンタヌ・ナラエン氏

――現在、御社の法人市場向け戦略を教えてください。
ナラエン氏 創業以来これまで、コミュニケーションの手助けとしてのデジタル・パブリッシングにこだわってきた。デスクトップからWebを経て、現在、第3世代の“ネットワーク・パブリッシング”時代が到来したと認識している。プリンタ、Web、ワイヤレスとさまざまな対象に対して統一して情報を配信する世界だ。このビジョンを弊社の全製品で推進していくわけだが、特に法人向けと位置付けているのが、PDFファイルの「Adobe Acrobat」を含むePaper部門。現在最も成長率の高い事業部だ。この部門の潜在規模は数10億ドルともいわれており、先日発表した2002年度第1四半期では、同事業部門が全売上高に占める比率は28%に達している。紙から電子媒体へのビジネスプロセスの移行にあたり、Acrobatが最も安全で確実な方法だということが認知されつつあることから、今後とも成長する分野として大きな期待を寄せている。もちろん政府による電子政府推進の動きもある。

 Acrobatのターゲットは、ネットワークに接続したあらゆるPCとしている。この数は世界で1億台と推定しているが、現在、閲覧ソフトウェア「Acrobat Reader」は4億本を出荷しており、フルセットでの出荷状況は、前バージョン時点で600万本を超えていた。日本でも、Acrobat Readerは、毎月50万件というペースでダウンロードされている。

 今後の体制としては、製品提供のためのスキルアップにも力を入れ、導入をサポートしたり、弊社製品が使いやすい環境作りを積極的に提案していく。

――PDFが企業・政府にもたらすメリットは?
ナラエン氏 PDFは効率化、生産性の向上を実現するもので、全社員にベネフィットをもたらす。具体的には、情報の共有、コラボレーション、ビジネスプロセスのオンライン化の3つがある。情報の共有とは、電子メールやインターネット、イントラネット上での情報の共有を指す。コラボレーションとは、ビジネスのグローバル化に象徴されるように、開発からマーケティングや営業といったあらゆる部門で部門を越えた協業が求められている。PDFにはそれを実現する注釈ツールなどの機能を備えている。3点目のビジネスプロセスのオンライン化とは、電子フォーム機能を用いて各種申請書や稟議書などの社内の書類を電子化すること。アドビ自身も導入しているが、コスト削減策などのメリットをもたらす。

 また、先日発表した電子フォームベンダのアクセリオの買収により、ビジネスプロセスのオンライン化に関しては、より完成度の高いソリューションを提供できるようになる。
 
――アクセリオの製品が加わるとどのようなことが可能となるのですか?
ナラエン氏 アクセリオは電子フォームに関して、「Accelio Capture」「Accelio Integrate」「Accelio Present」の3製品ラインを展開しており、それぞれ、電子フォームの設計および実装、情報のバックエンドシステムとの統合およびビジネスプロセス管理、そして情報をさまざまなメディアへの出力(配信)、を実現する。これはバックエンドの部分にあたる。

「紙ベースからオンラインベースへの移行のためには、政府がインセンティブを与え奨励することも有効だろう」

 一方のAcrobatは、デスクトップ、フロントエンドの部分を提供するもの。今回、2社の統合により、ビジネスプロセスのオンライン化をエンド・ツー・エンドで実現できるようになる。つまり、企業はPDFをコンテナとし、Acrobatをプラットフォームとして電子フォームを作成し、バックエンドと統合した形で配信できるようになる。

 この組み合わせにより、アドビの企業向け製品の魅力はさらに高まるだろう。また、それぞれが持っているサービス組織や直販組織、SIとのパートナーシップなどによる相乗効果も期待できる。

 現在のところ、合併は4月中旬に完了予定で、タイミングを見て両社の日本法人も統合していく予定だ。

――PDFのさらなる普及に向け課題は何と認識していますか?
ナラエン氏 AcrobatはすでにXML、電子署名をサポートしていたが、今後、安全な転送コンテナとしてのPDFのメリットを訴えていく。電子証明書を対象ユーザーに発行するなどして文書の安全性が確保されれば、PDFにはあらゆるXML情報を盛り込むことができる。これにより、PDF文書を受信した側で、その情報をすばやくバックエンドシステムに取り込むことができるようになる。また、JavaScriptもサポートしているので、アプリケーション開発者が操作をすることも可能だ。PDFとXMLは補完関係にあり、この組み合わせにより強力なパワーを発揮するだろう。

――電子政府ではどのような体制をとっているのですか?
ナラエン氏 電子政府はアドビにとって大きなチャンス。この機会をとらえ、最善のソリューションを提供するために、各種のイニシアティブを推進しているところだ。例えば、PDFが標準となるよう、世界各国の政府に働きかけており、PDFは多くの政府機関で採用された。これには非常に満足している。例えば、米国では国税庁(IRF)、食品医薬品局(FDA)、証券取引所委員会(SEC)などで標準として採用された。日本でも、東京証券取引所において、上場企業が取引所に情報を提供する際の標準にPDFが選定されている。

 技術面では、アクセシビリティを強化テーマとしている。だれもが情報にアクセスできることは、電子政府実現には欠かせない要素。5.0ではこの面で大幅な強化が図られた。タグつきPDFやスクリーンリーダーとの連携機能、ハイコントラスト表示などにより、弱視者にも配慮したものにした。これらは、米国の政府などで高い評価を得た機能だ。

 また、アクセリオは政府、金融機関に多く採用された実績を持つため、今回の買収は、電子政府関連分野にも多大なメリットをもたらすだろう。2社の合併により、電子政府市場で成功するための製品、ビジョン、パートナーシップが完全にそろったといえる。今後、SIとの関係を深め、営業体制を強化して、電子政府のニーズにこたえていく。

――次期バージョンではどのような機能を搭載する予定ですか?
ナラエン氏
 サーバ側でのAdobePDFのサポートを強化する。これにより、ダイナミックにPDFを生成することが可能となる。そのほかの強化分野として、コラボレーション、セキュリティがある。セキュリティではすでに、暗号化はもちろん、さまざまな電子署名、電子証明書に対応しているが、技術の動向を注視して、その都度強化していく。また、アクセリオの技術も盛り込んでいく予定だ。

 また、ネットワークパブリッシングのビジョンに基づき、各種プラットフォーム対応も行っていく。すでに対応しているPalm、Pocket PCに加え、携帯電話にも対応していく。

(編集局 鈴木淳也、末岡洋子)

 

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