[DIRECTIONS 2002 Tokyo開催]
問われる日本企業のIT投資への姿勢

2002/5/15

 “世界IT不況は底を打った。すでに安定した成長期に入っている”――米IDC チーフリサーチオフィサー/シニアバイスプレジデント ジョン・ギャンツ(John Gantz)氏はこう断言し、企業は回復期にいかにしてビジネスチャンスを活用すべきかを問うべきだと促した。5月14日、都内で開催されたIDCの年次イベント「DIRECTIONS 2002 Tokyo」で、ギャンツ氏をはじめ各国のアナリストはおおむね楽観的な分析結果を提示した。ここでは基調講演の内容をレポートする。
米IDC ジョン・ギャンツ氏 「今後4、5年は(IBMなどの)総合ベンダ優位に推移するだろう」

 昨年から米国を中心とした市場関係者は、“景気はいつ底を打つか”に最大の関心を寄せている。最も受け入れられている説は、“2002年後半より緩やかに上向く”というシナリオ。大手ITベンダの経営陣もこの予測に基づき戦略を練っているようだ。

 1960年代より40年以上にわたりIT市場の追跡を行ってきたというIDCでは、2000―2001年間の急速な市場縮小を「過去に経験済み」とし、長期的な視野で現状を把握すべきだとアドバイスする。

 「1970年、1984年と、市場は大きく縮小し、その都度、ふるいにかけられて回復、というサイクルを繰り返してきた。縮小の後に待っているのは長期的で安定した成長期。イノベーションが実を結ぶのはこのときだ」(ギャンツ氏)。

 2001年、米国多発テロにより決定的打撃を受けた今回の“クラッシュ”も、同様のサイクルをたどるという。「すでに成長期に入りつつある。まだ、認識できないほどの小さな波だが、確実に変化は起こっている」というギャンツ氏、いまわれわれが行うべきことは、正しい判断を下すことだと説いた。

 IDCの示した長期的展望に基づくと、ここ1、2年にIT業界を襲ったIT不況はほんの足踏みに過ぎず、今後も市場は拡大を続けることになる。同社は今後9年間で総額15兆ドルもの投資が行われると見ており、この額はこれまでの40年間の投資総額6兆ドルの2.5倍という。

 ギャンツ氏は、同氏の見解を立証するものとして、地理的、技術的、ビジネス面、と複数の局面にわたる加速要因を挙げた。地理的要素には、WTO加盟を果たした巨大市場の中国がある。

 技術面は、統合、モバイル&ワイヤレス、“ブレード・サーバ”に代表される新たなコンピューティング・アーキテクチャ、セキュリティなど4つに大別できる。「5年前には市場すら存在しなかった」という統合に関しては、ソフトウェア、サービスの2市場で大きな成長が予測(ソフトウェア:2002年約60億ドル/2005年約18億ドル、サービス:2002年約1600億ドル、2005年約3000億ドル)されているが、まだ綿密な予測が立てられない最新市場であるWebサービスもある。モバイルに関しては、2001年のモバイル・インターネットユーザーが9400万人だったのに対し、2006年には4億7900万人に膨れ上がると予測している。注目すべきは、全インターネットユーザーにおいてモバイル・インターネットユーザーが占める割合だ。2001年は全体の20%にも満たなかったのが、2006年は85%を上回る、極めて大きなユーザー層を形成することが見込まれているのだ。

 ギャンツ氏の問いかけは、このようなビジネス機会に対し、準備はできているか、自社にあった的確な判断を行おうとしているか、というマインド面での課題といえる。

IDC Japan 佐伯純一氏「日本のIT投資規模は世界の1割を占める巨大市場。モバイルなどの特性から、ほかとは違った発展を見せるだろう」

 それに関連して、IDC Japan リサーチバイスプレジデント/シニアITアナリスト 佐伯純一氏が日本市場に対して興味深い見解を示している。同氏は、日本のIT投資についての予測と洞察を披露したが、産業構造全体が転換期を迎えている日本のユーザーマインドについて、以下のようにコメントした。

 「IT投資の拡大が見込める環境になったら安心して投資をする(多くの日本企業が従来から取ってきた投資判断手法)――、この考え方が果たして正しいのか、と問いかけたい。この思考に基づくと、以前、DRAMの伸びとその後の急速な減少に単純反応して、事業の拡大・収縮を行った日本の半導体産業のたどった経路を再びたどることになる。経済環境ではなく、どんなビジネスを展開したいかに投資の判断基準を変えるべきだ。残念ながら、日本企業はこの考え方に転換できていない」(佐伯氏)。

 従来のように市場の動きの後を追う投資では、競争力となるようなIT投資はできないということだろう。

(編集局 末岡洋子)

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IDC Japan

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