カーネギーメロン大学がxSPらを対象とした評価基準を開発

2002/7/20

 CMM(ソフトウェア能力成熟度モデル)などの開発で知られる米カーネギーメロン大学は昨年秋、xSPなどのITアウトソーシング事業者の品質を評価するモデル「eServices Capability Model」(eSCM)を発表した。7月19日、米国より同大学副学長のウィリアム・ヘフリー博士(William E. Hefley, Ph.D.)が来日し、eSCMの概要およびその必要性などについて語った。

米カーネギーメロン大学副学長 ウィリアム・ヘフリー博士 People CMMの開発で開発チームを統率するなどソフトウェア工学に造詣が深い

 ITの中でもアウトソーシング分野は高い成長が見込まれている。その一方で、契約に関するトラブルやサービスに対する認識の不一致などから、ユーザー企業の半数以上が不満を抱いているという統計もある。CMMなどの開発で名高いカーネギーメロン大学のソフトウェア工学研究所が開発した新手法が、現在のアウトソーシングにまつわる問題の解決にどの程度寄与するか、今後注目を集めそうだ。

 カーネギーメロン大学は2000年にアウトソーシングの品質モデル向上の検証に着手した。その背景について、へフリー博士は、以下のように語る。「ITアウトソーシングではサービス・プロバイダと顧客の間に数々のトラブルが生じており、約25%の企業が再交渉段階でほかのプロバイダへ乗り換えている。これは、顧客関係や技術においての成功体験や失敗体験が経験として活用されていないためだ」。つまり、現状のITアウトソーシング企業にとって、サービスを向上させる仕組みが体系として存在しないということだ。

 これは、既存の品質モデルでは限界があることも意味している。「ソフトウェアCMMやPeople CMM、CMMIなどをアウトソーシングサービスに適用しても、全プロセスをカバーできない」(へフリー博士)。同氏は、これらのモデルは契約期間中の質の向上には寄与しても、契約前段階と契約後には適用できないと問題点を指摘する。そして、全体的な質の向上のためには、この契約前と契約後のプロセスが欠かせないと続ける。

 では、eSCMとはどのようなものなのだろうか。カーネギーメロン大学の定義では、契約前、契約実行中、契約後の3フェイズに分かれて、組織管理、人、ビジネスの運用(=サービスの提供)、技術、ナレッジマネジメントの5要素を評価する。能力モデルは、レベル1〜5の5つ。レベル2がクライアントの要求を満たすための行動をしているレベルで、レベル5になると、革新性・卓越性の維持ができるレベルとなる。評価にはFullとMiniの2方式があり、認定はFull方式を採用したプロバイダのみが受けられる。

 測定・評価にあたるのは、カーネギーメロン大学によるトレーニングおよび認定を受けたリードアセッサーおよびアセッサー。認証までの流れは、リードアセッサーもしくはアセッサーが対象となるプロバイダに対し、アンケートやドキュメントレビュー、インタビューなどを実施してレベル評価を行い、カーネギーメロン大学に申告する。それを受け、カーネギーメロン大学がプロバイダに対し認定資格を発行する。

 カーネギーメロン大学では、eSCMの一連の作業に関してコンピュータサイエンス学部にIT Services Qualification Center(IT sqc)を設置し、eSCMの開発作業やアセッサーのトレーニング、認定資格の発行、出版活動などを行っていく。へフリー博士は同センターのアソシエイト・ディレクターに就任している。

 今後の予定としては、来月、eSCMの新バージョン(Version 1.1)がリリースされる。この新バージョンより、名称がeSCM for Service Providoに変更される。クライアント向けのeSCM for Clientsは今年後半にリリースの予定。アセッサーらのトレーニングは来月から開始されるため、実際の認定はその後ということになる。

 へフリー博士は、eSCMを活用するメリットは、プロバイダとクライアントの両サイドにあるという。「プロバイダの能力を第三者が評価するということは、クライアントにとって選択の基準ができることになる。リスク管理という点からも有効だろう。また、プロバイダは、能力を明示できるほか、自社のシステムやプロセスの評価をすることで、サービスの質の向上を継続的に行える」(へフリー氏)。

 このeSCMの開発にかかわり、IT sqc内コンソシアムの設立メンバーでもあるインドのサティヤム・コンピューター・サービスは、日本でeSCMに関するコンサルティングサービスを開始した。同社 上級副社長 プラブー・シンハ(Prabhuu Sinha)氏は、「日本はもともと、質についての要求が高い文化を持ち、量産体制で質を向上させることを実現してきた国だ。ITにおけるアウトソーシングでも、リーダーとなることができるだろう」と期待を語った。

 eSCMに関する文書はカーネギーメロン大学のWebサイトで公開されている。

(編集局 末岡洋子)

[関連リンク]
カーネギーメロン大学のeSCM関連サイト
サティヤム・コンピュータ・サービス

[関連記事]
ソフトの開発プロセス評価がビジネスに (@ITNews)
関心高まるプロセス改善手法 (NewsInsight)
IT部門とユーザーとの意識のギャップを埋めるには? (@ITNews)
不況下でもITサービス市場が成長するのはなぜか? (@ITNews)
アウトソーシング市場を盛り上げるのは? (NewsInsight)
2004年にはアウトソーシングがITサービスの過半数を (@ITNews)

 

情報をお寄せください:



@ITメールマガジン 新着情報やスタッフのコラムがメールで届きます(無料)