[Interview]
財務オペレーションを含む統合的なソリューションを提供するSAP

2002/8/10

 SAPはERPのR/3を核に、コラボレーティブ・ビジネスへの対応を進めている。同社が提供するmySAP.comに追加された企業財務に関するソリューション「mySAPFinancials」の追加モジュール「コーポレートファイナンスマネジメントのモジュール」が日本で今年12月に新たに発売される予定だ。来日した同製品開発担当者の独SAP ジェネラル・ビジネス・ユニット ファイナンシャルズ上級副社長 ハンス-ディーター・ショイアーマン(Hans-Dieter Scheuermann)氏に、新製品や同社の戦略について話を伺った。
独SAP ジェネラル・ビジネス・ユニット ファイナンシャルズ上級副社長 ハンス-ディーター・ショイアーマン氏

――数年前、“ERPは死んだ”などといわれましたが、昨今のERPの状況は?

ショイアーマン氏 ERPはソフトウェアの1カテゴリとして、再度注目を集めている。SAPが最初のERP製品を納品して10年経つが、それ以来ずっとERPを中核ビジネスとして展開しており、時代に応じて戦略を変えてきた。最近の傾向としては、ガートナーがエクステンション(拡張機能)を含んだ形でERPを定義しているように、より包括的なものとなりつつある。弊社でも、ERPの枠を広げ、CRMやSCMなどのモジュールと連携するソリューションの展開を進めている。弊社のソリューション体系である「mySAP.com」でも、R/3の位置付けが従来、システムの中核だったものから、個別のシステムをつなぐ役割へと変化してきている。つまり、ERPはソリューションの1部分となったということだ。

――「mySAPFinancials」の開発を担当されたそうですが、この製品について教えてください。

ショイアーマン氏 「mySAPFinancials」は、ERPファイナンシャルズを核とした統合的ソリューションで、分析とコラボレーションの2つの特徴を持つ。

 mySAPFinancialsのアプローチは、R/3を導入済みの顧客に追加投資をしてもらうというものだ。つまり、革命的なものではなく、進化的なものといえる。ERPの既存の機能に加えて、管理会計、財務会計などの機能が追加できるツールという位置付けだ。これまでの投資を無駄にすることなく、新たなソリューションが実現できるというわけだ。

――コラボレーションでは、どういうことが可能になるのですか?

ショイアーマン氏 mySAPFinancialsでは、新しいコンセプトとして財務の観点から“ファイナンシャル・サプライチェーン管理”、あるいは、“ファイナンシャル・バリューチェーン”というものを提案している。これは、個別の取引に関わるもので、キャッシュフローの最適化など、財務オペレーションを支援するものだ。コーポレートファイナンスマネジメントのモジュールを追加することが可能になる。これにより、例えば、グローバル企業の本社部門が銀行の機能を持つことができ、子会社や取引先などとのキャッシュのやりとりをマネージしていくことが可能になる。これは、物流面でのサプライチェーンになぞらえた考え方で、運転資金の最適化をモノのストック(在庫)の最適化に置き換えて考えると分かりやすいだろう。

――分析機能はどのようなものですか?

ショイアーマン氏 弊社では、CRM、SCM、人事、PLM(プロダクト・ライフサイクル・マネジメント)などが有する分析機能を総称し、「ビジネス・アナリティックス」としている。一元的に、ある期間ごとの精密なビジネス分析が行えるものだが、mySAPFinancialsによって、これに財務面から見た分析要素を加えられるようになった。

 これまで財務分析は、貸借対照表のような静的なデータが指標に使われてきた。これに対して、mySAPFinancialsでは実体資産以外のもの、例えばのれん(企業の経済価値)や顧客価値といったものも指標に加えることができる。

 ビジネス・アナリティックによってトップマネジメントは戦略とオペレーションをさまざまな指標で有機的に統合できる。

 例えば、ビジネスプロセス上で何か問題があってシステム上でアラートが出た場合、経営者は関連するビジネスアプリケーションを使って、プロダクトポートフォリオがどうなっているのか、問題を解決できる人材が社内で確保できているのかを調べたり、研究開発にかかるコストを測定したり、ターゲットカスタマが最適化されているか、そしてファイナンシャル・アナリティックとしては収益性がプラスのキャッシュフローを生み出しているか、といったような異なった分野を統合的に見ることができるツールが、ビジネス・アナリティックスだ。

 このような有機的な統合が可能となる点は、異なるベンダのソフトウェアを寄せ集めた“ベスト・オブ・ブリード”型との最大の差別化となる。

 このように、SAPはこれまで、オペレーションの統合に強いといわれてきたが、今後は分析面の機能も強化していく。mySAPFinancialsにより、CFO(最高財務責任者)の役割の中で、過去の業績データの報告などではなく、意思決定に有用な情報を提供するという任務にもソリューションを提供することが可能になるはずだ。

――経済のグローバル化が進んでいますが、財務会計は、日米欧で異なります。どのように対応していきますか?

ショイアーマン氏 そのとおりで、市場ごとに対応を変える必要がある。当社は創業来20年の間に蓄積した知識があり、支払いやキャッシュのやりとり、課税にかかわる法律などについてもそれぞれの市場をリサーチしてきた。当社自身の経験、顧客からの情報をベースに、それぞれの市場に応じてのコフィギュレーションが可能で、顧客の市場に適応したものを提供できるようになっている。

 弊社の基本アーキテクチャの特徴として、単独システムの中に国別、管轄当局別に、多くのコンフィギュレーションが可能な点がある。例えば、モトローラやマイクロソフトなどは、60以上の国の課税方式に対応したシステムを持っている。

 国際的に展開している企業では、全社統一の帳簿一式と並行して、課税主体や株式市場に合わせた複数の帳簿一式を用意するのが一般的だが、これにも対応できる。このところ、米国のGAAP(一般に公正妥当と認められる会計原則)準拠一辺倒だったものが、IAS(国際会計基準)も重要視しようという流れになってきている。今後も、取引の拡大や海外展開、株主などへの情報公開、といった動きが活発化することから、ニーズは高まると見ている。

米国の会計疑惑については、「意図的に不正な情報を流そうというエネルギーがあれば、どのようなシステムであっても悪用は可能(笑)」とコメント。続けて、「財務会計、管理会計を含めた企業会計に非常に大きな影響を与えるだろう。帳簿に載ってこないオプション取引や負債をあらかじめ洗い出すことができるように、システム自体を改善するというニーズが高まると見ている」

――さきほど、拡張ERPという言葉がありましたが、今後、ERPはどのように進化していくのでしょうか?

ショイアーマン氏 ERPというカテゴリ自体はなくならないだろう。エンタープライズリソースの最適化というERP本来の機能は、今後も必要とされる。

 今後、キーになるのはコラボレーションだと思っている。顧客やパートナーを対象としたコラボレーションだ。

 現在、大企業の傾向として、1ストップショッピング的アプローチで、あらゆる機能を提供・運営していこうという動きがある。その次のステップとして考えられるのは、社内だけではなく、パートナーを含んだ社外のシステムとして拡張させるエコシステムという動きだ。実際、プライベートエクスチェンジを開設し、社内外で情報のやりとりをする仕組みを構築する動きはすでに見られる。

 このプライベートエクスチェンジは、購買や課金などを含む包括的なものだ。eビジネスの第1の波でもてはやされたeマーケットプレイスは、販売/購買しかできなかった。いま起こりつつあるeビジネスの第2の波では、請求から支払いにいたる包括的なものだ。今後は、商品を購入する顧客に対し資金調達をするようなサービスも登場するだろう。すでに、「orbian」という、電子的な為替決済所のようなものも存在している。参加者はその中で決済が可能というものだ。また、スイスでも、商工銀行が商工業者のような顧客を対象に、決済代行、および商工業者の発行する請求書に対し最適な取引コースなどを提供するサービスを開始した例がある。

 だが、SAPは、あくまでもそのインフラとなるソフトウェアとコンサルテーションの提供に専念する。各種のサービスは、パートナーから提供されることになる。

――金融関係のマーケットプレイスと、mySAP.comソリューションと結びつけることは可能なのですか?

ショイアーマン氏 財務管理機能に関する機能だろう。2つの面で考えると分かりやすい。第1に、それぞれの金融取引・金融商品に対応した形でオペレーションをサポートする必要がある。もう1つは、将来のキャッシュフローに応じた形で、会計機能と結びつける必要がある。現在、評価の機能が充実してきており、リアルタイムで時価評価をするといった対応が可能になってきている。

――SAPの今後の開発への取り組み方を教えてください。

ショイアーマン氏 将来に向けての戦略の基本は、オープンシステムだ。顧客は何らかのシステムを持っており、囲い込みは不可能だ。弊社では今後、オープンシステム、エクスチェンジのインフラ、Webサービスなどを積極的に取り入れ、オープンシステムに対応していく。これをポータルでまとめることにより、エンドユーザーは、SAPシステム、レガシーシステム、他社のシステムに一元的にアクセスが可能となる。これが弊社の描く図だ。

(編集局 鈴木崇、末岡洋子)

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