日本企業はITのROI(投資対効果)に無頓着か?

2002/10/17

アクセンチュアの代表取締役社長 森正勝氏

 アクセンチュアの代表取締役社長 森正勝氏は10月16日、「ITと経営改革-IT ROIの向上」をテーマに記者会見を行った。森氏は冒頭、HP、コンパック、デルの1992〜2001年までの時価総額の変化を示しながら、「社内への積極的なIT投資により事業構造を変革して成長した最大の例としてデルが挙げられる」とし、ITのROIに対する認識の違いが企業の成長率に大きな差を生み出す」と語った。同社の調査によると、デルの時価総額は93倍に膨れ上がり、一方、HPは3.6倍、コンパックは4.3倍にとどまっている。
 
 では日本企業はどうなのか。
 
 森氏は「日本企業のITのROIに対する自己認識は欧米と比較して明らかに劣っている」と話す。その要因として、IT支出に占める投資・コスト配分の不適当、IT投資先の視野の狭さ、IT投資・コスト管理方法の貧弱さを指摘する。その上で「IT関連支出の45%は戦略的IT投資にまわすのが“優良企業”においては一般的だ」と提案、「ベストプラクティスでは、戦略的IT投資比率が80%もある」と企業の経営戦略に包含されるIT関連戦略の重要性を説いた。
 
 米メタグループの調査では、米国での戦略的IT投資の目的は、コストの効率化から売上げ拡大へとシフトしているという。1992年時にコストの効率化を期待する米国企業のCEOは全体の60%を占めたが、2002年には20%強に減退、売上げ拡大を期待するとの声が80%近くを占める結果となった。
 
 戦略的IT-ROI極大化のために3つの視点を考えるべきだと森氏は続けて指摘する。すなわち、「原資」(IT投資の原資をどうやって稼ぎ出すのか。どう継続的に原資を確保していくのか)、「改革領域」(IT投資はどのような改革領域に向けられるべきなのか)、「評価/管理手法」(IT投資の効果をどのように計測し、投資を最適化していくのか)。
 
 これらの視点を戦略的なIT投資の実践に振り向ける戦術としてアクセンチュアが提案するのが「アウトソーシング(シェアード サービス)」である。

 同社のアウトソーシングサービスは「IT中心の従来型アウトソーシングから、業務および経営層も巻き込んだ、サービスを含めた領域に対する高付加価値型アウトソーシングサービス(コーポレート・デベロップメント兼ソリューション・オペレーションズ統括パートナー 大上二三雄氏)である。従来型のアウトソーシングサービスが、システム保守・運用・ITインフラアウトソーシングに限定されて行われるのに対し、同社のアウトソーシングサービスは、アプリケーションの展開、管理、機能拡張などのIT分野における拡張サービスに加え、財務・会計・人事・ロジスティクスなどの業務プロセス、さらに、企業戦略全体を見据えたロングスパンでのコンサルティングサービスも含まれる。
 
 「従来型のアウトソーシングサービスが、投資対効果を限定範囲の一時的なものとして捉えるが、アクセンチュアの戦略的アウトアウトソーシングサービスは、領域を多岐に分散し、投資を継続的に行っていくことで、効果を膨らませていく」(大上氏)とROIの極大化を基準に据えた投資戦略となっている。
 
 コンサルティングファームによるIT投資戦略の推進は、システムインテグレータ、ITベンダ、ソフトハウスなどIT業界のプレイヤーと確実に競合する。コンサルティングファームは、SIの機能を社内に取り込む動き、あるいは提携により、コストをかけずにSI機能を所有する動き、さらには強力なITベンダの傘下に収まるなど、ビジネス展開の幅を広げ始めている。一方、IT業界のプレイヤも、ビジネスの上流部分、すなわちコンサルティングビジネスの強化に乗り出している。目標点は1つだが、スタート地点が違うだけである。

(編集局 谷古宇浩司)

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