あなたは“どこで”ソフトを買いますか?

2002/12/18

 ソフトウェアを購入するには、データを焼き付けたメディアと紙文書で作成されたマニュアル、パッケージの「セット」をパソコン専門店などで購入するという方法が一般的だろう。しかし、メーカーから流通業者(卸売り業者)を通じて全国の店頭(パソコン専門店など)に商品が流れる、現在主流の流通構造は明らかに疲弊している。実は、この流通構造の中で「おいしい思い」をしている業者はほとんどない。メーカー、流通、ショップ、そしてエンドユーザーでさえも、多かれ少なかれ、損をしているという歪んだ状況だ。どういうことか説明しよう。

 あるソフトメーカーがあるソフトを開発した。同社はこのソフトウェアを全国規模で販売したいと考える。そこで必要となるのは、プログラムをメディアにコピーし、マニュアルを作成し、魅力的な外装をほどこしたパッケージを制作することである。それから、卸売業者と契約を結ぶ。その後、順調に事が運び、全国のショップで販売が行われる。だが、実際の売り上げ本数は、出荷量の10分の1程度だった。在庫は流通業者を通じてメーカーに返品され、出荷時に流通業者に支払った売り上げの差額を返金しなければならない。
 
 ちなみに、通常の箱売りにおける、CDメディアの印刷、箱の製作・印刷、マニュアルの製作・印刷・在庫のコストは1本あたり約2000円程度である。例えば、あるソフトの店頭価格が7000円とすれば、実勢価格(メーカーが設定したライセンス使用料+利益+その他)は単純に計算すると、5000円前後になる。

 流通業者はメーカーから卸価格で商品を購入し、マージンを上乗せして、全国のショップに配送する。問題はマージンの率だ。ある流通業者は「平均で7〜8%、悪いときには2〜3%ということもある」と言う。商品によってマージン率に高低差はあるものの、複数のソフトウェア流通業者が口を揃えて言うのは「うまみのあるビジネスではない」ということだ。いくらマージン比率が重要とはいえ、店頭で価格に競争力を持たすことができないほどのマージンを獲得しても、結局は自分の首をしめることになる。在庫管理の経費も無視できない。

 ショップにとって、ソフトウェア1本を販売した時の粗利率は10%前後が業界標準と言われ、しかもビジネスソフトの販売状況は、セキュリティ対策ソフトや年末商戦時の年賀状ソフトなど一部の商材に頼っているのが現状。「売上本数の増加に貢献するのはアダルトゲームと言っても誇張ではない」とつぶやくパソコン専門店もある。

 エンドユーザーにとってみれば、複雑な流通機構をくぐり抜けて入手する商品には当然、さまざまな中間マージンが上乗せされることになる。

 このようなソフトの流通構造にメスを入れる動きが最近ようやく見え始めた。鍵は“オンライン・ダウンロード”である。その最も新しい動きを紹介しよう。

ライセンスオンライン代表取締役社長 藤田健治氏

 三井物産の100%出資子会社であるライセンスオンラインは12月17日、一般消費者向けソフトウェアのダウンロード販売市場に参入すると発表した。同社はすでに法人向けソフトウェアライセンス販売ビジネスを展開しており、マイクロソフトやシマンテック、日本ネットワークアソシエイツなどの大手ソフトベンダ、ソフマップ、デオデオといった量販店、アスキーストア、インプレスダイレクトなどのオンラインリセラーに対し、サービスを提供している実績がある。

 2003年1月に開始するソフトのダウンロードサービスは、これまで培ったノウハウと顧客(IT関連企業、主にセールスパートナーを含む約1500社)を基盤とする。およそ500タイトルからサービスを始め、順次取扱商品を増やしていく予定である。

 同社のビジネスモデルは非常にシンプルだ。まずはソフトメーカーと販売契約を結ぶ。製品(ライセンス)は、同社が契約するセールスパートナーのダウンロードサイトを通じてエンドユーザーに提供される。在庫はない。返品もない。コストもかからない。というのも、同社がセールスパートナーに提供するダウンロードサイトのシステムは無償で提供されるからだ。セールスパートナーには登録料や運営管理費なども一切必要ない。一方で、セールスパートナーは、サイトをカスタマイズでき、ソフトのライセンス販売価格も自由に設定できる。問い合わせなどのサポートはライセンスオンラインが行う。さらに、手数料なしで、セールスレポートなども提供する。

ライセンスオンラインを活用したアスキーストア
(クリックすると拡大)

 同社のビジネスは、販売されたライセンスに乗せられるマージンにのみ左右されるということである。つまり、ライセンスオンラインがビジネスとして成功するためには、取扱商品が売れなければならないのだ。同社代表取締役社長 藤田健治氏はこのビジネスモデルを「ベンダ、セールスパートナーと同じベクトルのビジネス」だと表現する。

 ソフトのオンラインダウンロードビジネスにおける流通業者の役割をライセンスオンラインが担う。これは、従来、ソフトバンクコマースやコンピュータウェーブなどの大手流通業者が、パッケージソフト流通で担ってきた分野だ。ライセンスオンラインは、この新たな流通機構の中核に食い込もうと狙っている。
 
 しかし、既存の大手流通企業が手をこまねいているわけではない。コンピュータウェーブは11月にパソコン用ソフトウェアのダウンロード販売を開始しており、ソフトバンクグループには子会社のVectorがある。福島県のソフトハウス パルティオソフトが開発した「ソフト電池システム」など新勢力の台頭も著しい(「ソフト電池システム」は、デジタルデータと使用権を切り離すことによって、違法コピーや海賊版への対処と流通方法への柔軟性を持たせ、加えて従量制料金を取り入れた課金方式により、潜在ユーザー層をも取リ込むことを可能にした新しい発想のコンテンツ流通インフラ)。競争はすでに始まっているのである。
 
 経済産業省とECOM、NTTデータ経営研究所の共同調査によると、2001年の消費者向けEC市場の規模は1兆4840億円、そのうちデジタルコンテンツは約930億円だった。また、インターネット白書2002に掲載された野村総合研究所の調査では、2006年のデジタルコンテンツ市場の規模を5530億円と試算、年平均成長率は40%であるとしている。
 
 ブロードバンドの接続回線数が600万回線を超え、インフラの整備も整えられようとしている。いよいよ、ソフトウェアのオンラインダウンロードサービスが本格化し始める下地が出来始めてきたようだが、年々大容量化するソフトウェアを果たしてダウンロードするユーザーがいるのかといった懸念が、完全に払しょくされたわけではない。

(編集局 谷古宇浩司)

[関連リンク]
ライセンスオンライン
ソフトバンク・コマース
コンピュータウェーブ
パルティオソフト

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