【@ITニュース担当記者座談会】
Webサービスだった2002年、2003年のIT業界は?

2003/1/8

 新サービスの発表に撤退、企業の合併などいろいろあった2002年。IT業界の今後を占うような新しい流れも出てきた。そして2003年、Webサービスはどうなるのか、Javaは元気か。IT業界の景気を盛り返させる企業は現れるのか。@ITのニュース担当記者(大内、谷古宇、垣内)と編集局長の新野が2002年を振り返り、2003年のIT業界を予測する。


良くも悪くもWebサービスだった年

新野 2002年のキーワードは良くも悪くもWebサービスだったのではないか。

大内 もっと波が来るかと思ったけれど、そうでもなかった。しかし、ベンダはWebサービスと言い続けてきた。

新野 Webサービスの下地としては、EAI( Enterprise Application Integration)やBtoBのブームが去年くらいからあった。バラバラのバックエンドシステムや企業間のシステムをつなげないと、ビジネスに勝てないという意識が企業にあった。それまでのメソッドが密結合だったので、がっちりつなごうと専用アプリをシステム・インテグレータ(SI)に作ってもらったがうまくいっていなかった。それで疎結合が必要だろういう流れが出てきた。その時に、いいタイミングでXMLが利用されるようになり、Webサービスが注目されるようになったのだろうね。

大内 だが、現在企業で利用されているシステムの多くは、まだWebサービスになっていないよね。

新野 今、ビジネスで活発なのはWebサービスの手前の技術。まだEAIツールなどが広く利用されているね。2002年はWebサービスのスピリットである疎結合が広まった年といえる。ビジネスの動きは速いから、企業内と企業間のシステムを結合するという動きも出てくるだろう。

垣内 現在は、まだら状に企業間のシステムがつながっているようなイメージだろう。

大内 日本でもWebサービスの事例が今年出てくるだろうね。

谷古宇 SIは、どこもWebサービス対応を強調しているけれど、Webサービスをビジネスとしてやっていこうという具体的なベンダはあるのだろうか。

新野 ソフトウェアには典型的な発展のモデルがあるじゃない。最初は開発ツールベンダがもうける段階で、いまはその段階だね。マイクロソフトやサン・マイクロシステムズ、ボーランドが開発ツール製品をWebサービスに対応させたと言っている。次がSIがもうける段階。Webサービスを使って企業システムを統合します、と営業する。

垣内 SIはいま、Webサービスの下地が出来上がるのを待っていて、探っている段階でしょう。

新野 SIは顧客に対してWebサービスをやりますよ、と言って提案をしても、企業は別に関係ない。Webサービスでも何でもよくて、とにかくつないでくれよ、というのが本音。Webサービスの芽はWebサービスを試してみたいという先進的な法人顧客と、先進的なSIの組み合わせができて初めて、事例が公表されるようになるのではないかな。

@ITのニュース班。撮影は新野編集局長

谷古宇 実際知られていないだけで、Webサービスは意外に使われていると言われているけれど……。

新野 エンタープライズ分野もそうだけど、オンラインショッピングのアマゾンとか、GoogleもWebサービスのインターフェイスを公開し始めている。コンシューマレベルで、Webの中でWebサービスを使った面白い仕組みが広がりつつあるんじゃないかな。


.NET Server 2003で“土俵”を代えるマイクロソフト

大内 2003年にはWindows.NET Server 2003が登場するけれど。

新野 ポイントは2つ。セキュリティと.NET Frameworkが標準で入っていること。

谷古宇 .NET Serverは.NET Frameworkに対応する最初のバージョンで、IIS(Internet Information Services)の信頼性が増しているというけれど。

新野 しかし、.NET Frameworkの部分は、今のWindows 2000 Serverに.NET Frameworkをインストールすれば同じように使えるわけじゃない。だから結局はセキュリティがどれほどしっかりしているかが重要になるだろうね。

大内 Windows.NET Server 2003のIISがどこまでセキュリティの要求にこたえられるか。それによって評価が違ってくると思う。

新野 マイクロソフトが得意なのは土俵を代えることだと思う。素早くセキュリティパッチを出すというUNIXからの伝統的な手法を、Windows.NET Server 2003でマイクロソフトはそれとは違う“技”を使ってくるのでは。素早くパッチを出す以外の新しいセキュリティの向上方法を模索していると思う。そういう仕組みを密かに考えているような気がする。

大内 Windows XPや2000のパッチの自動更新がある。それを一歩進めて、サーバのパッチも強制的に行うことも考えられるけど、管理者がその強制的なパッチに合意するかどうかが問題だね。イメージとしてはパッチを当てることで逆にシステムが不安定なるという話が広まっている。そのイメージがある限り、パッチが出ても管理者はパッチの内容を検証したくなるのではないか。マイクロソフトがその問題をどこまで解決できるかが重要だろう。

新野 今までのセキュリティ対策の正当な手法はパッチの提供サイクルを速くすることだった。でも、マイクロソフトは別の手法も考えていそう。今までと同じ手法をすると、SolarisやLinuxとどちらがパッチの提供が速いのかという競争にしかならない。これではマイクロソフトは明らかに不利。別の土俵で「マイクロソフトのセキュリティは万全です」と主張できる手法をマイクロソフトは考えてくると思う。それが何か分からないんだよなあ。ヒントはさっきの強制パッチかもしれないけれど……。

ストレージは気が付けばすべてつながる状態

谷古宇 ストレージ関連では、バーチャリゼーション(仮想化)と管理ツールの話が多かった。

垣内 ニュースも多かったですよ。

新野 バーチャリゼーションは2002年にブレークが始まった。

大内 2003年にはその流れが本格化しそうだね。

新野 バーチャリゼーションといっても、ベンダごとに内容や機能が異なっている。そこがまさにベンダにとっては生き残りの差別戦略。そういう意味ではトップベンダのEMCがAutoIS戦略の中でツールをオープンにして、ヒューレット・パッカードなどに対応させた動きは大きいだろうね。

大内 ストレージは製品別のシェア争いだった。しかし、最近は個々の製品でのシェア争いに加えて、提携することでグループでのシェア争いをしてきた。ベンダ同士の提携は広がって、気が付けば全部つながるという状況になったわけだ。

谷古宇 そうそう。HPの「OpenView」は、IBMなどほとんどの製品に対応させている。

Javaはオープンソースに対抗する陣営に期待

新野 Java関連では、今までの大まかな構図は、低コストのWebアプリケーションはWindowsで作りましょうという流れがあった。Windowsサーバを使い、VisualBasic(VB)やASP.NETで作る。そしてエンタープライズ向けのハイエンドのWebアプリケーションはJ2EEで作るという構図があった。一方、2002年後半に「WebObjects」が値下がりしたり、IBMが「WebSphere Application Server - Express」を出荷するなど低価格製品が登場したことで、エントリーレベルの安いWebアプリケーションもJavaで作るという流れが出てきたね。

大内 SIはエントリーレベルのWebアプリケーションをVBオンリーで作っているところが多い。そのようなVBを使ってきたSIがJavaで作れるのかどうか、ということが、大きな課題だと思う。

新野 今まで低価格レベルのWebアプリケーションをWindows以外で作る場合は、ApacheとTomcat、サーブレットが定番だった。言い換えるとオープンソースソフト任せだったわけじゃない。

大内 大手のSIでは、エントリーレベルのWebアプリケーションなどを開発しても利幅は小さい。安くなった開発ツールを活用して、中堅以下のSIが低価格の仕事を担当できるようにならないとね。

新野 2003年は、Apache、Tomcatなどのオープンソースソフトに対抗して、Javaの商用製品がこのエントリーレベルでどうがんばれるかに注目したいね。その辺の動きが楽しみだ。

IPv6は深く静かに進行する

大内 2002年のネットワーク関連の動きはどうだった?

新野 ハードウェア的には大きな動きがなかったように思えた。

大内 米国の通信業界がどんどん沈んでいる中で、日本やアジアの市場はまだ堅調とみている企業がある。果たしてどこに市場があるのだろうと思うけど。

新野 そういえば、インテルが2002年にiDCから撤退したよね。

大内 しかし、そうかと思えばIBMやHPなどはiDCに力を入れているね。

新野 従来のiDCがビジネスとして想定していたのは、資金がそれほどなくて、アウトソーシングを利用したいというインターネットビジネス企業。しかし、インターネットビジネス企業は2002年はつらい思いをしたので、そのあおりを受けてiDCもバタバタと調子が悪くなってしまったのだと思う。HPやサン、IBMがこれからiDCで力を入れようとしている分野は、企業のバックエンドをアウトソースするというビジネス。米オラクルの会長兼CEO ラリー・エリソン氏がかつて、「電話交換機を会社に置かないように、会社の会計システムも巨大になったら社内におかないで蛇口をひねって使えるよう業務をアウトソーシングするようになる」といっていた。ついにその流れが出てきたと思う。

大内 IPv6は……。2002年3月には@ITの月間ニュースアクセスランキングではトップだったけど、昨年の後半は動きが静かだったような気がするけど。

新野 深く静かに進行している感じがする。Windows XPがパッチでIPv6に対応したし、かなりアンダーグラウンドでは“IPv6レディ(Ready)”になっていると思う。使う人が増えたかどうかは別にして、プロバイダーでもIPv6のサポートを始めるところが増えてきたよ。

谷古宇 IPv6を活用してどういう新アプリが出るか。キラーアプリ待ちということじゃないかな。

新野 コンピュータのハードウェアは行き着くところまでいってしまったと思う。クライアントPCはコストダウンし切った感じだし、サーバも同様。2002年に話題になったブレードサーバなどはいい流れだ。2003年はブレードにSMP(Symmetric MultiProcessor)、NUMA(Non-Uniform Memory Access、Non-Uniform Memory Architecture)、グリッド・コンピューティングなどがくるだろう。1つの筐体の中では限界があるので、複数のコンピュータを組み合わせて、どう利用するかが注目されると思う。

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