東京三菱銀行CIOが語る「CIOの真の仕事」

2003/5/29

東京三菱銀行 常務取締役 システムサービス部門長 兼 オペレーションサービス部門長 田中將介氏

 日本IBMが開始した包括的なコンサルティング業務の新サービス第1号契約顧客が東京三菱銀行(BTM=Bank of Tokyo Mitsubishi)だ。同行は5月26日付けで最高情報責任者(CIO)の下に「EA(Enterprise Architecture)推進グループ」を設置したことを皮切りに、従来型のIT投資施策を抜本的に見直し、経営の観点からシステム開発・運営を管理していく仕組みを構築していく。

 同行のCIOにあたる常務取締役 システムサービス部門長 兼 オペレーションサービス部門長 田中將介氏は自らを「はっきり言って私は、IT技術には明るくない」と話す。IT投資を「工場長の視点から経営者の視点で考えるように、体制そのものを変革する」ために必要な資質は、必ずしもIT技術の専門知識に限定されるわけではないだろう。同行にとっては、そのためにこそ日本IBMが存在するといってもよい。

 田中氏が言う「工場長の視点」とは、短期的かつユーザー部門に限定された視点を指し、投資回収の観点から見ても、組織全体の長期的な業績を見据えたうえでの戦略とはいいがたい。一方で、「経営者の視点」とは、案件のROI管理を厳密に行い、経営改革の「手段提供者としてのシステム部門」という位置付けを常に持っているということだ。状況の変化を計算に入れた経営戦略の中核にITを捉える視点と言い換えてもいい。つまり、「変化の経営戦略」「資源制約・マイクロ生産性管理」「変化のリスク感応度への対応」「長期的なアーキテクチャの確保」という4つのキーワードがそこから導き出される。

 言うは易く、行うは難し。CIOが経営のセンスを持つべきである、との言葉はCIOを語るうえでの常套句(じょうとうく)だが、果たして実践できるCIOはどの程度いるのだろうか。もちろん、CIOの力量だけではなく、組織全体のコンセンサスが取れていなければ、「経営に直結したITシステム」の構築は難しい。組織が巨大であればあるほど、CIOの抱える課題は困難の度合いを深めていく。

 「経営者の視点」を具体的なワークフローとして実現させるための手段としてBTMでは、「短期経営目標に則した案件選別プロセス」と「長期経営戦略に則したエンタープライズ・アーキテクチャ(EA)の構築」という2つのアクションプロセスを打ち立てた。

 「短期経営目標に則した案件選別プロセス」をBTM組織内のアクションフロー構造で表現するとこうなる。BTM組織内の全9部門を横断した「全社レベル新規開発要望リスト」から9部門別の「(業種施策単位の)新規システムのリスト化(会議)」「部門運営方針会議」にかけられ、CIO、取締役会へと進んでいく。

 「全社レベル新規開発要望リスト」で選定されるシステムの選定基準はあらかじめ厳格に規定されている。すなわち「ROI」「各部門間における戦略の優先度」「業務要件の固まり度」「システムリソースの共有度」である。これらの基準をもとに、IT戦略会議が開催され、取り上げ案件リストが作成される。このリストの載った案件が実際に動き始める直前には、IT部門とユーザー部門が「(組織)横串の立ち上げ会議」および「立ち上げ判定会議」でプロジェクトの計画書を作成し、開発に入るのである。開発が終わった後も、事後管理として、判定指標のもとづいた評価を必ず行う。判定指標には「マクロ生産性指標」が適用され、個別の案件が組織全体の業績にどの程度の影響を与えたかを測るのである。

 「長期経営戦略に則したエンタープライズ・アーキテクチャ(EA)の構築」というプロセスは、組織全体のITシステムを「共通言語」「統一手法」でモデル化することを指す。各部門がバラバラの言語で、別々の手法で、しかも千差万別のアーキテクチャを採用するという事態は決して珍しいものではない。しかし、長期的な視野でITシステムを経営戦略の中核に据えようと考えた場合、すべてのシステムが共通の基盤の上に構築されるのは、拡張性の面でも至極当然のことだろう。

 これらを実現するための要素として、BTMでは「アーキテクチャのモデル化」「システムの共通基本概念の確立」「ガイドライン」「選択基準」「管理プロセスの確定」を掲げている。ここから導き出される具体的な効果は、大規模なシステムを可視化できるようにすること、組織間のコミュニケーションの柔軟性確保、新技術の戦略的導入促進、障害・災害の網羅的把握の実現だろう。

 そして、「長期経営戦略に則したエンタープライズ・アーキテクチャ(EA)の構築」実現のための具体的なアクションプランには、まず「現状システムの全体像を把握する作業を行うこと」「アーキテクチャモデルの体系化を行うこと」「システムの共通基本概念を文書化すること」「システムで採用すべきIT技術のスタンダードを文書化すること」「管理プロセスの手続きを体系化すること」など多項目にわたる。

 田中氏は「ここまで厳密にIT投資の枠組みを経営に直結させた仕組みを構築している銀行はほかにはない」と自信をみせる。確かに、真のCIOが統括すべき業務内容の広範さには目を見張るものがある。実行に移し、マネジメントをしていくには、尋常ではない力量が必要とされる。しかし、ここまでしなければCIOという職種は務まらないものなのかもしれない。

(編集局 谷古宇浩司)

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