開発者が語る次世代統合プラットフォーム「SAP NetWeaver」の全貌

2003/5/31

 「ERP」や「CRM」といった3文字略語ブームが去って数年。新たなブレイクスルーを見出せないまま、混迷が続くエンタープライズIT分野において、1つの兆候が現れ始めた。「統合基盤」という考え方だ。EAI(Enterprise Applications Integration)ツールを使ったアプリケーション統合や、複雑なビジネスプロセスの統合、あるいはポータルツールによるユーザー・インターフェイスの一元化など、システムのあらゆるレイヤーで“統合”ソリューションを打ち出すベンダが増えている。その背景には、XMLやWebサービス技術、JMS(Java Messaging Services)といった連携技術そのものが進化してきたことが挙げられるだろう。そして何より、ユーザー企業自身、「複雑かつ巨大化したシステムを統合したい」という切羽詰ったニーズを抱えているためだ。

SAP AG プロダクトテクノロジー ボードメンバーのクラウス・クレプリン氏

 こうした中、今年3月にSAPジャパンが発表した「SAP NetWeaver」(以下NetWeaver)は、人・情報・ビジネスプロセスを統合する「次世代統合プラットフォーム」として注目されている。従来のEAIやポータルのような個別の統合ソリューションではなく、社内のヘテロジニアス(異機種混在)な環境を“ビジネス”という観点でトータルに統合するものだ。ここでいう“ヘテロジニアス”とはシステム環境だけでなく、情報(データ)、部門、業務、プロジェクトなど、社内資産すべてを意味している。煩雑化する業務やシステムを“ビジネス”という観点で整備し直し、TCOの削減や生産性向上を実現するというソリューションだ。一見しただけでは分かりにくいこのNetWeaverについて、開発指揮を執ったSAP AG プロダクトテクノロジー ボードメンバーのクラウス・クレプリン(Klaus Kreplin)氏に話を聞いた。


──次世代統合プラットフォームとして登場した「NetWeaver」だが、全体像について説明してほしい。

クレプリン氏 NetWeaverはSAPアプリケーションの基盤であり、これから出荷される全製品の共通プラットフォームとなる。具体的には、(1)システム統合プラットフォーム、(2)社内のナレッジやデータを一元管理するナレッジ・マネジメント基盤、(3)コラボレーションのためのフレームワークであり、(4)アプリケーションの開発・実行環境という4つの役割を持ち、それぞれ「アプリケーション・プラットフォーム」、EAI機能の「プロセス・インテグレーション」、ナレッジを統合する「インフォメーション・インテグレーション」、社員間のコラボレーションを促進し、生産性を向上させる「ピープル・インテグレーション」という4階層のフレームワークで構成されている。


 基盤となるアプリケーション・プラットフォームは、SAP独自のアプリケーション・サーバである「SAP Enterprise」が含まれている。これはSAP R/3の実行環境であり、J2EEベースのアプリケーション開発環境でもある。これにより、独自開発したJavaアプリケーションとSAP製品との統合を実現するわけだ。

 プロセス・インテグレーションは、SAPが提供するEAI機能「SAP XI」によるビジネスプロセスの統合を実現する。クレプリン氏によれば「アプリケーションを統合しても、ビジネスプロセスがシームレスにつながっていなければソリューションにはなり得ない。プロセスを最適化し、恒常的に管理することで、エンドユーザーの利便性が高まる。プロセス・インテグレーションは、ビジネスプロセス最適化を目的としたフレームワークなのだ」という。

 インフォメーション・インテグレーションは、社内に散在する定型/非定型情報を統合するフレームワークだ。「SAP BW」というBIツールのほか、ナレッジ・マネジメント機能やマスタデータ管理機能を提供している。さらにピープル・インテグレーションでは、「SAP Portal」やコラボレーションツールをコンポーネントとして組み込んでいる。複雑なバックエンドの仕組みをエンドユーザーから隠ぺいするもので、これによりユーザーは、統一画面から種々のアプリケーション、データ、プロセスを自在に扱えるようになるという。

 このようにNetWeaverは、従来SAPが個別ソリューションとしていた製品を、「ビジネスプロセス統合」という観点からまとめたフレームワークだといえる。これを基盤として、上に会計や販売、生産管理といったERPモジュールが搭載される。


――NetWeaver開発の経緯は?

クレプリン氏 ビジネススピードが年々速まる中、「個々の業務ではなく、バリューチェーン全体を貫く統合ソリューション」が求められるようになった。刻々と変化するビジネス環境に対応するため、全体のプロセスを統合・最適化しようというものだ。ただ、これまでIT業界が提供してきた「ビジネスプロセス統合ソリューション」は、システムレベルのものでしかなかった。エンドユーザーの立場に立ってみれば、アプリケーションやデータが連携していることはもちろん、ビジネスプロセスが最適化されており、業務に必要な情報をタイムリーに取得できる。しかも社員間で情報を共有していることこそ、生産性の向上につながる。われわれはこれまで「エンドユーザーにとって価値を提供できるITとは何か?」という観点で、ERPやSCM、CRMといったソリューションを提供してきた。こうした実績をもとにユーザーの置かれている環境を考えると、NetWeaverのようなフレームワークにいき着いたわけだ。

――SAPは、これまで「業務アプリケーション」という分野でソリューションを提供してきた。NetWeaverはむしろシステム管理や運用のためのソリューションのように思われるが?

クレプリン氏 NetWeaverの狙いは2つある。1つは、今話したように、「ビジネスプロセス」という観点で社内のリソースを統合するためだ。NetWeaverはベースにWebサービス技術を使っているが、こうした標準技術により、今後新しい業務やシステムが出てきても、迅速に連携させることが可能になる。

バイオリニストでもあるクレプリン氏。SAP内のオーケストラに所属し、SAPのイベントで演奏したこともあるという

 もう1つの目的は、企業内のヘテロジニアスな環境を隠ぺいし、TCO削減と生産性向上の両方を向上させることだ。現在の状況から考えると、企業内を1ベンダの製品で統一することはまず不可能といえる。そのため、エンドユーザーはあちこちのシステムから情報を取ったり、システム管理者は複雑なアプリケーションを管理しなければならなくなった。こうした現状が、業務効率の低下や運用コストの増大を招いている。

 そこで出てきたのがNetWeaverだ。例えば、インフォメーション・インテグレーションで提供している「マスタデータ管理機能」は、企業内に点在するマスタデータを一元管理するものだ。マスタデータは、トランザクションデータに比べるとダイナミックな変更がない分、管理がおろそかになる傾向がある。部門ごとに別々の顧客マスタを持っていたため二重登録していたり、顧客対応業務がバラバラになっていることもあり得るのだ。そこでインフォメーション・インテグレーションを使ってすべてのマスタデータを抽出・クレンジングし直し、もう1度各システムに配信することで、全社共通の情報プラットフォームが出来上がるわけだ。これにより、運用管理負荷業務の軽減や、社内生産性も向上する。

――かつてERPパッケージの時代には、1製品でシステムを統合することで、生産性向上やTCO削減効果を打ち出していた。その戦略が変わったということか。

クレプリン氏 全部を1システムでまとめ上げた方が効果的なのは確かだ。だが世の中にはパッケージはもちろん、基盤となる技術にもトレンドがある。そうした中から何がいいかを選んで導入するのはユーザーだ。その結果、ヘテロジニアスな環境が生まれるのは仕方がない。重要なのは、むしろこうした状況を“ビジネス”という観点からどのように統合するかというソリューションだ。そのため、NetWeaverはIBMのWebSphereやマイクロソフトの.NET環境などにもシームレスにつながるAPIを備えている。

――ユーザーにとってのメリットは?

クレプリン氏 システム統合基盤ソリューションは、ここ数年続いている。WebSphereや.NET環境を使ってシステムを構築したり、統合プラットフォームとして活用している企業も多い。NetWeaverを使えば、そうした既存資産を生かすことができる。

 もう1つのメリットは、WebSphereも.NETも、ポータル、インフォメーション、プロセス、アプリケーション実行基盤といった4レイヤーで製品を提供しているため、どのレベルでも統合できることだ。さらにいえば、Javaと.NETという2つの技術トレンドを、我々の製品が仲介となって結び付けることができる。ユーザーにとっては、Javaも.NETも関係なくビジネスプロセスを最適化できるのだ。完全に中立的な立場で、統合ソリューションを提供できることが、われわれの最大の強みだ。

――今後もこうした基盤開発に注力していくのか

クレプリン氏 今回NetWeaverを発表したことで、それぞれ注力すべき開発分野の切り分けが可能になった。例えばインターフェイス部分をまとめてNetWeaverチームで開発することで、ほかのチームはERPやSCMなど個別ソリューションの開発に注力できるようになる。こうして技術、ソリューションの各分野に特化した開発体制をとり、これからも業界を牽引していく構えだ。

 SAPが訴えるソリューションは一貫して変わっていない。以前はアプリケーションレベルで1パッケージを推奨していたが、今は異機種・業務・部門・会社をまたがる統合基盤を提供することで、プロセスの最適化を実現するというものだ。アナリストによると、「これからはEAIやポータルといった“個別”の連携ソリューションではなく、ビジネス最適化に向けてあらゆるレイヤーを統合するソリューションが主流になる」という。SAPが目指すのは、まさにその部分だ。

(編集局 岩崎史絵)

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