経営トップがターゲット、SASのBIソリューション

2003/6/20

 SAS Institute(SAS)は6月18日、ウィーンで開催中のユーザー会「seugi21_vienna2003」(seugi)にて、今後のビジネス戦略ならびに新製品についてのプレス・ブリーフィングを行った。このブリーフィングで、同社が提唱するビジネスインテリジェンスの実行プロセス「SAS Intelligence Value Chain(IVC)」に基づき、製品体系を強化・拡充する方針が明らかになった。経営分析システムやETLツールなど業種・業態を問わない共通ソリューションのほか、「SAS Marketing Automation 3.1」など特定の業務に対応したアプリケーションをリリースし、企業の経営層に積極的なアプローチをしていく方針だという。

米SAS Institute上級副社長兼チーフ・マーケティング・オフィサー(CMO)のジム・デイビス氏

 米SAS Institute上級副社長兼チーフ・マーケティング・オフィサー(CMO)を務めるジム・デイビス(Jim Davis)氏がBIツール市場の動向を説明した。「ERPや実行系CRMなどアプリケーションの効果を最大限に引き出すにはデータ分析が不可欠」との見解を示し、「最近の案件を見ても、多くのCEOやCIO、CFOがBIツールに高い関心を寄せていることがはっきりと分かる」と述べた。

 続いてSAS International戦略担当 副社長のアラン・ラッセル(Allan Russell)氏は、「ERPなどのエンタープライズアプリケーションの市場は、だんだん小さくなっている。現在、SAPやオラクルなどがBIソリューションに注力し始めているが、彼らの製品が最適な解とは言えない」と指摘する。その理由は「多くのBIツールは、CRMや経営管理など、個別ソリューションに特化しているからだ」という。

 BIツールは、業種・業態を問わない分野で、個別のビジネス課題を解決する手段である。そのため、多くのBIツールは個別課題に特化しているため、あらゆる目的に対応できるトータルな分析システムを構築するには、複数ベンダの製品を組み合わせる必要がある。また、アプリケーションベンダのBIツールでは、データに対する“中立性”が低いという問題もある。データ分析を社内のあらゆる業務に適用するには、特定のアプリケーションだけでなく、全社内システムのデータに対応しなくてはならないためだ。

 さらに、複数のシステムやツールを組み合わせた結果、開発・運用コストが跳ね上がる危険性もある。こうした課題をクリアするのが、BI専業ベンダであるSASの強みという。ほかのBIベンダとの比較では、「分析システム構築に必要なノウハウ、製品を体系化し、SAS Intelligence Value Chain(IVC)を提唱している。これに基づき、データの抽出から活用に至るプロセスを全部カバーできるのが当社の特徴だ」と強調する(デイビス氏)。

 IVCとは、企業内に散在しているデータを抽出・統合・蓄積し、ビジネス上のさまざまな課題を解決する「ビジネスインテリジェンス」にまで高めるプロセスのこと。「Plan」「ETL」「Intelligent Storage」「Business Intelligence」「Analytic Intelligence」の5つのプロセスから成り、データ分析の観点から企業活動を支援していくという。

 具体的には、既存のデータウェアハウス/分析ツール群に、ETLツール「SAS Enterprise ETL Server」と経営管理システム「SAS Activity-Based Management 6.0」を新たに追加し、「SAS 9.1」上での新たなソリューションとして、経営者などのマネジメント層にアプローチしていく構えだ。ちなみにActivity-Based Management 6.0は、昨年買収したABC Technologiesの製品「Oros」をSAS製品に融合したもので、営業や基幹業務など社内の全ビジネス活動のコストと利益を可視化する。

 Enterprise ETL Serverは、メインフレームや汎用のPCファイル、ERPデータなどあらゆるデータソースにアクセスする「SAS ETL Studio」、メタデータ管理ツール「SAS Metadata Server」、データクレンジングツール「SAS Data Quality Solution」の3製品で構成される。

 SASがヨーロッパのマーケティング担当重役500人以上を対象に実施した調査によると、66%が「データの精度が低いと、会社の収益に多大な影響が出る」と回答しており、81%が「顧客データの品質が乏しいと、キャンペーン収益も左右される」と述べているそうだ。そのためSAS Enterprise ETL Serverは、単なるデータ抽出・変換ツールではなく、データのライフサイクル全般にわたって、品質やメタデータ管理を実行できる機能を搭載したという。SAS 9.1は現在開発作業が進められており、2004年度の第1四半期にリリースする予定だ。

 CRM分野の新コンポーネントとして、「SAS Interaction Management 1.1」「SAS Marketing Optimization」「SAS Marketing Automation 3.1」を発表した。SAS Internationalでカスタマー・インテリジェンス担当の副社長 フィル・ウィンタース(Phil Winters)氏は、「SAS製品はエグゼクティブや部門長、IT部門担当者などさまざまなユーザーに使われているが、本製品は特にマーケティング・アナリストを主要ターゲットに想定している。具体的にはマーケティング活動の分析・企画・立案業務の支援を念頭に置いて開発した。ユーザーインターフェイスの改善や機能強化など、あらゆる面で使い勝手を向上している」と述べた。

 SAS Interaction Management 1.1は、Webやコールセンターなどのチャネルの中で、顧客が行った行動履歴をリアルタイムに管理・分析することで、個々の顧客に適したマーケティングキャンペーンを立案・実行を支援するツール。例えば、Webサイトで出した金融商品の案内に対し、顧客がどのような点に興味関心を抱き、どう行動したかをトレースしログ分析することで、顧客の行動特性を把握し、最適な画面を提示して効率的なキャンペーン施策を打てるというものだ。

 ウィンタース氏は、「本製品は顧客のイベントをトリガとし、その場でデータマイニングすることで、真のリアルタイムOne to Oneマーケティングを実現する。その結果、顧客1人ひとりの収益性を確実に上げることができるのだ」と述べ、自信を見せる。

 従来分析系のCRMは、設定する分析軸とデータ量に結果が左右されるため、「期待した結果が出るまで時間がかかる」というデメリットがあった。本製品でこうしたデメリットを解消すると同時に、マーケティング業務の“実行”部分にまで踏み込んだ。今後もこうした方向で製品ロードマップを描いているのか、業界の関心を呼びそうだ。

 SAS Marketing Optimizationは、アウトバウンドキャンペーンの戦略立案を支援する製品。Webや店舗、コールセンター、電子メール、DMなどあらゆるチャネルのアベイラビリティやコミュニケーションコスト、顧客の収益率などを基に、最適なキャンペーンと顧客コミュニケーションを計画する新製品。マーケティング・アナリストからデータベースマーケター、定量分析者などマーケティングチーム全般を支援する「SAS Marketing Automation 3.1」については、Webインターフェイスへの対応とウィザード機能を強化することで、使い勝手を向上させている。

 このほか、金融機関向けにデータマイニング技術を適用した「法令遵守(コンプライアンス)」ソリューションを発表。マネーロンダリングのリスクを事前に防止するソフトウェア「SAS Anti-Money Laundering」を提供し、金融機関の健全な経営を支援していくという。

 CMOのデイビス氏は、「全業種・業界・課題に共通するホリゾンタルな技術と、個別課題に対応するヴァーティカルなソリューションを提供できるのはSASだけ」と断言する。しかし、同社も認めているように、アプリケーションベンダもBIソリューションに注力し始めている。また、SPSSなどのBI専業ベンダも使いやすいインターフェイスと手ごろな価格で、エンドユーザーに向けて積極的にアプローチしている。こうした中で、経営層やCIOを主要ターゲットとした具体的な分析ソリューションを打ち出しているSASの戦略がどこまで通用するのか。これが今後のBI市場の焦点となるだろう。

(編集局 岩崎史絵)

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