ITSSはITエンジニアに何をもたらすのか?

2003/10/11

 経済産業省が発表したITスキル標準(IT Skill Standard:ITSS)は、ITサービスを提供するにあたり、それに必要な実務能力を体系化したものであり、IT人材を育成するための基盤として作成された。具体的には職種を11に、その職種の専門分野を38に分類し、そのレベルを7段階に分け、必要なスキルセットを明示した。このITSSにいち早く反応した教育ベンダが富士通ラーニングメディアだ。同社は企業向けのスキル診断サービスをITSSに対応させ、さらに提供している約850の教育コースをITSSに従って、職種、専門分野、それにレベル分けを行って公表した。このように教育ベンダがITSSに熱い眼差しを向けるのは、どのような理由があってのことだろうか。

富士通ラーニングメディア 研修事業部 研修サービス部長の羽賀孝夫氏。「人材育成は投資。経営陣にそれを理解させるためには、今後CLO(Chief Learning Officer)が必要かもしれない」と語る

 「ITSSには当社だけでなく、皆注目している」と語るのは、富士通ラーニングメディア 研修事業部 研修サービス部長の羽賀孝夫氏だ。教育ベンダだけでなく、ITベンダ、ユーザー企業などもITSSには注目しているという。実際、同社が開催したセミナーで実施したアンケートでは、「自社の人材育成をITSSに準拠したい、意識したい、といった回答が全体の8割もあった」と語る。どの企業もITのスピードと変化の前に社内の技術研修制度のあり方に疑問や不安を持ち、改善したいと考えている。そこにITSSが公表された。だからこそ、多くの関係者が注目しているのだという。

 ITSSは前述したように、レベルを7段階に分けている。そのうち、教育ベンダが提供できるのは、「2と3が中心となる。ハイレベルとなる5以上では、プラクティカルなことが主で、実践で身に付けるべき」(羽賀氏)。なお、富士通ラーニングメディアでいうレベル3とは、レベル3に必要な講義ではなく、レベル4の人材になるために必要な講義としている。

 ITSSが与えるITエンジニアへの効果の1つとして羽賀氏が挙げるのは、「キャリアパスの複線化」だ。「これまでエンジニアのキャリアパスとしては単線型のパスしかなかった。まずはプログラマとして入り、分析や設計などをこなし、プロジェクトマネージャへ」という道が、今後は変わる可能性があるという。なぜなら、ITSSは職種や専門分野を超えてさまざまなパスを例示し、単線型のパス以外の可能性を示したからだ。ITSSによって風向きが変わり、ITエンジニアの考えも変われば、そうした単線型のキャリアパス至上主義も変わるかもしれない。

 さて、教育ベンダからITSSを見ると、教育を提供するだけではなく、企業の人材育成の方針、キャリアパス、それと研修制度までを一体化してコンサルテーションを行い、その導入をサポートしていくようなビジネスが想定できる。羽賀氏にそうしたコンサルティング事業について聞くと「行っていく」という。

 ITエンジニア個人にとっては、ITSSはまだ“お役所”が作った官製の抽象的な人材像を提示しているだけに見える。しかし、さまざまなベンダやシステムを発注する企業、資格や教育に関連する企業、そして転職市場などがITSSに熱い視線を向け、取り入れようとすると、大きな流れとなる可能性はある。その場合、まさにITスキルやキャリアの共通した基盤になる可能性がある。ITSSがITエンジニアに大きな影響を与えるようになるのか。それとも、掛け声倒れになるのか。どちらにしても、当分の間ITSSは関心を集めるだろう。

(編集局 大内隆良)

[関連リンク]
富士通ラーニングメディアの発表資料(コースをITSSに沿って体系化)
富士通ラーニングメディアの発表資料(ITSSに準拠したスキル診断の無料トライアル)

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