IPでできること、シスコが教えます

2003/11/1

シスコシステムズ 執行役員 CTO アライアンス&テクノロジ担当 大和敏彦氏

 IP技術が実現する世界について、シスコシステムズが啓蒙役を買って出るのは同社のビジネス戦略上、当然のことだろう。世界で最も先進的なIPネットワーク・ソリューションのユーザーでもある同社が積極的な活用提案を行うことで、漠然としていたIPソリューションによるメリットのイメージが顧客の頭に浮かびやすくなる。そして、結果的に市場が拡大する。同社の実感によれば、「インフラの構築は進んだ。後はその上で利用できる具体的なアプリケーションの構築だ。この市場の成長はこれから」ということになる。同社のビジネス戦略も、IPによるインフラストラクチャ構築から、IPネットワーク上で実現可能な具体的なアプリケーション開発にシフトしつつある。

 Cisco NETWORKERS 2003の基調講演でさまざまな事例を紹介したシスコシステムズ 執行役員 CTO アライアンス&テクノロジ担当 大和敏彦氏が提案する、成功するブロード・バンド ビジネスの基本は、極めてシンプルである。「どんなサービスを提供したいのか。つまりビジネス・モデルが最初にあるべきである。ビジネスの実現のために、IPのインフラを活用する。その際、重要なことは、将来的なサービスの拡張を視野に入れ、インフラ(システム全体を含む)の機能拡張が行えるように準備をしておくことだ」。

 例えば、イタリアのFastwebというプロバイダは、“トリプルプレイ”と称するサービスを約20万人の会員に向けて行っている。トリプルプレイの内訳は、「通常のインターネットサービス」「IP電話サービス」「テレビを使ったビデオ放送サービス」の3つ。コンテンツの中身は「サッカー」「地上波テレビ放送のオンデマンド・サービス」「ハリウッド映画の放送」というシンプルさ。ケーブル・テレビ(CATV)がないイタリアだからこそ、インターネットを活用したCATV的なサービスが成功した要因ともいえる。IP電話サービスでは、テレビ電話、ビデオモニター(家庭内モニター)などの端末をレンタルで提供するサービスを行う予定だ。
 
 同社は、ITバブル後、2年でROIがプラスに転じた優良企業でもある。大和氏は同社の成功の要因を「既存のIPインフラを使って、キラー・コンテンツを次々に、格安で提供するビジネス・モデルにある。そして、サービスの拡張を前提としたシステム構築、インフラ構築に特筆すべきものがある」と評す。

 国内の事例では、「四国総合通信局 e-Train プロジェクト」が紹介された。この実証実験は、移動時における無線LAN接続の検証で、電車の中では携帯電話のネットワークからインターネットにアクセスしながら、駅が近づくと、駅周辺に設置されたアクセスポイントに切り替わり、無線LAN環境に移行できる、というサービスの成否を確認したものである。電車内にシスコのモバイル・ルータを設置し、駅周辺にも同社の無線LANのアクセスポイントを設置、トンネリング技術を活用し、IPアドレスを持ち歩くことで、シームレスな通信を実現した。そのほか、専用コンテンツとして、列車の位置情報や観光情報、ニュースを随時、PCに配信する。JR西日本は、このシステムを列車の運用管理で応用することも検討している、という。

 そのほか、IP電話の利用では、新生銀行の事例が登場、端末に番号(内線、外線問わず)を持たせる構造によって、行員はどこにいても、1つの番号で通話を行うことができる。データ、音声などさまざまな情報を1つの端末で処理可能となる。もちろん、交換機の必要はなく、「呼処理」などはネットワーク上のサーバですべて実行することができるのである。

(編集局 谷古宇浩司)

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