テスト終了後に不具合、そのときプロジェクト・マネージャは

2003/11/22

 IT業界の注目を集めていた東京金融先物取引所(TIFFE)の新システムが、今年4月末にカットオーバーした。英国製のパッケージソフトを導入すると同時に、国内ベンダが別のシステムを新規開発するという異例のプロジェクト。しかもシステム・インテグレータを入れずに、TIFFEがすべてのプロジェクトを管理した。プロジェクト・マネージャを務めたTIFFEの業務部 システム課長 高橋邦夫氏が「Gartner Symposium/ITxpo 2003」(主催:ガートナー ジャパン)でプロジェクト成功のポイントを明らかにした。

東京金融先物取引所 業務部 システム課長 高橋邦夫氏。過去にメインフレームを扱うITベンダに在籍

 TIFFEは同時に2つのシステムを導入した。英国製のパッケージソフト「LIFFE CONNECT」を富士通のUNIXサーバ「PRIMEPOWER」で稼働させるシステムと、精算システムを新規開発し、オープン系サーバで稼働させるシステムだ。それぞれ富士通が運営するデータセンタで運用・管理する。冗長化のサーバも合わせると、25種類のUNIXサーバを計60台使うという大規模なシステムだ。

 新システム導入の検討が始まったのは2000年1月。「システムより先に取引所内の業務の見直しを検討すべきだ」との声が取引所内であり、事前調査に7カ月をかけた。事前調査で必要な業務要件を明らかにしたのち、高橋氏らは提案依頼書(RFP)の作成に着手。高橋氏らのチームは、本格的なRFPを作成するのは初めてだったが、事前に海外取引所の事例を詳細に調査した経験からある程度の自信があったという。また、これまで社内で事前調査を行ってきたにもかかわらず、RFPの作成を外部のコンサルタントなどに依頼してしまうと、社内の責任感や士気が低下してしまう懸念があった。高橋氏らは、第三者による評価を経ながらRFPを完成させた。RFP作成を外部に丸投げすると確かに業務は楽になるが、取引所には経験が何も残らない。高橋氏は、「ノウハウを取引所に必ず残そうとした」と強調した。

 RFPを送付したのは、取引所向けのパッケージを提供できる海外のソフトベンダ3社と、取引所システムの開発経験がある国内ベンダの6社。日本での開発や運用、特に運用・保守のフルアウトソーシングを考えた結果、LIFFEと富士通の組み合わせを選定した。高橋氏はシステム選定を「自分たちのシステムを自分たちで考えれる唯一の期間」と説明。開発から運用・保守までシステムのライフサイクルを考慮したシステムであるかや、提案業者のコミュニケーション能力、企業文化、手法などさまざまな観点を考えて考慮したという。

 具体的には提案があった3社のシステムを、◎(+2ポイント)、○(+1)、△(+0)、×(-1)で評価。5年間の運用費用の試算や、ベンダのサービスへのコミット、バージョンアップへの取り組みなども評価した。高橋氏は「評価のポイントはシステム構築の難易度よりも、ビジネス面での評価」と説明した。「問題があっても修正してくれると信じていた」という。

 今回のプロジェクトでTIFFEは、システム開発の取りまとめを行うSIerを採用していない。システム選定時にLIFFE、富士通がテクニカルパートナーとして共同提案したことで、取りまとめは必要ないと判断。富士通に別契約で取りまとめを依頼することも検討したが、予算の問題で見送ったという。そのため、プロジェクトの取りまとめは高橋氏らシステム課の9人が担当した。TIFFEの職員は約55人だが、企画課が取引システムや取引端末ソフトの取りまとめを担当、業務課が精算/決済システムを担当するなど、ほぼ全職員が新システム開発の管理に取り組んだ。

 実際のシステム構築は2001年8月に始まった。富士通が担当し、新規に開発した精算システムに12カ月、全体の20%をカスタマイズしたLIFFEパッケージソフトの導入には6カ月かかった。5.5カ月をかけた総合試験が2月15日に終了し、あとは3月上旬のカットオーバーを待つだけだったが、そこでシステムの不具合が見つかった。高橋氏は総合試験が終了した翌週の水曜日(2月19日)に出勤すると、不具合の発生で職場が騒然とした雰囲気。しかも不具合の理由が分からないという厳しい状況だった。不具合が見つかった当日は、TIFFEの理事会が開かれる日。高橋氏は理事会に報告し、システム課、富士通、LIFFEの3社で不具合の原因究明と、システム稼働の延期を検討し始めた。TIFFEの会員企業は新システムに合わせて接続テストを近く実施する予定だった。不具合の原因が分からないまま、接続テストはできない。3社は激論を繰り返し、カットオーバーを4月下旬に遅らせることを2日後の金曜日(2月21日)に決定した。高橋氏は不具合発見から延期決定までの3日間を振り返り、「すごいストレスだった」と述べた。たまたま来日していたLIFFEの担当者は激務とストレスに耐え切れず、体調を崩してしまったという。

 一度カットオーバーを延期した以上、何が何でも予定日にシステムを稼働させないといけない。高橋氏らは再び、徹底した試験を開始した。会員の接続試験や、実運用環境、実時刻でのテストを何度も実施し、バグを洗い出した。その結果、変更した予定通り4月28日に新システムがカットオーバーした。ガートナー ジャパンのリサーチ センター リサーチ ディレクター 丹羽正邦氏はTIFFEのプロジェクトについて、「大規模かつ高度なプロジェクトだった」としてうえで、「スケジュールに無理に合わせることなく、リスクを適切にマネージし成功させた」と述べた。

 高橋氏はプロジェクトを成功させた要因として「システム部門に十分なリソースがなかったこと」を挙げた。システム課は9人。取引所のほかの部門のコミットを得られたことで、全職員がシステム開発に対する責任を分かち合い、高い士気を維持できた。プロジェクト責任者を務めたTIFFEの役員が全職員にヒアリングし、現場の意見を吸い上げるなどトップマネジメントの意識も高かった。高橋氏は、自分の気持ちを落ち着かせるため、ためらわずに悪い情報を役員に報告。週に1度はプロジェクト会議を開催し、システム課、富士通、LIFFEのチームワークを確認した。LIFFEのプロジェクトマネージャとはたびたび、高橋氏と通訳を介した2人だけのミーティングを開催。お互いが困っていることを伝え合い、「気持ちを通じ合わせた」という。

(編集局 垣内郁栄)

[関連リンク]
東京金融先物取引所(TIFFE)
ガートナー ジャパン

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