デルのCIOに聞く、「IT部門の社内地位を向上させるには?」

2004/3/25

 継続的なコスト削減とITサービスの生産性向上を同時に要求される企業のIT部門。業務の中心が既存システムの“お守り”で、新規開発に十分な予算、時間を割けないIT部門も多い。米デルで最高情報統括責任者(CIO)を務める上級副社長 ランディ・モット(Randy Mott)氏は「IT部門は企業の事業の方向性と整合を取り、積極的に参画していく“ビジネス・アラインメント”が重要になる」と述べ、IT部門が企業のビジネス全体に対して貢献し、ビジネス戦略を具現化するための組織になることを目指すべき、との考えを示した。

デル 最高情報統括責任者(CIO)で上級副社長のランディ・モット氏

 ランディ氏が強調したのは、IT部門が業界標準技術を採用することのメリット。国内企業のIT予算のうち、70%は既存システムの運用・保守に当てられているという調査結果がある。新規開発のための予算は30%程度で、多くの企業にとっては運用・保守のコストを削減し、新規開発に注力することが課題となっている。ランディ氏はIT部門の運用・保守コストの増大について「古い技術でありながら本来の期間よりも長く使っていることが原因」と指摘。レガシーで独自仕様のシステムが多く残ることでそのサポートコストが増大しているという。特に企業合併などで異なるシステムを統合する場合、それぞれのシステムが生き続け、混在することでサポートコストは増大する。

 デルは古いシステムによるサポートコストの増大を防ぐために「意識的に新しい技術を採用しシステム全体のバランスを取る」という方針を持っているという。一般企業でもLinuxなど業界標準技術にシステムを統一することでハード、ソフトに関する投資対効果が見えやすくなり、システム全体のコストが削減できるとランディ氏は説明した。特に「古いシステムを使い続ける場合のコストの洗い出して、支出の構成を把握することが重要」と指摘。「現状のITコストを正確に把握した後で、理想とするモデルと比較し、長期的なロードマップを作成する」とアドバイスした。ちなみにランディ氏によるとデルのIT部門の予算は新規開発に60%、サポートに30%を割り当てている。この比率だけでも国内企業とは正反対だが、ランディ氏は「今後、新規開発の比率を75%まで引き上げていく」と語った。

 ただ、デルのような先進的な企業は別にして、国内の多くの企業ではIT部門がビジネスに貢献できる効果を計りかねているというのが現状だ。トップマネジメントもIT部門をシステムのお守りとしてしか見ておらず、経営への積極的な関与ができるか判断できないのが実際ではないか。国内企業のIT部門にとっては社内での地位向上が先決といえる。ランディ氏が考えるIT部門の地位向上のための施策はITサービスに対する評価基準の設定。IT部門の顧客となるユーザー部門と共通の評価基準を設定し、新規プロジェクトが実現する利益、恩恵を測定する。

 プロジェクトが終了し、システムが実装された段階で評価測定を行うのではなく、「デルではシステム実装後の12カ月など通年で利益を測定している」という。通年で測定した方がプロジェクトの効果を把握しやすく、長期的なロードマップに合わせて利益を測定できるからだ。正確な測定を行うには、ITサービスやビジネスに関するデータを細分化し分析できるデータウェアハウスが必要。ITサービスに関する評価基準と、ビジネス一般に対する評価基準が共通であることも前提だ。「デルは評価基準を中心にビジネスのあらゆる側面を駆動している」(ランディ氏)。

 ランディ氏は世界に3000人いるデルのIT部門のトップ。デルの日本の顧客と意見交換を行うセミナー「CIOナレッジシェア」のために来日した。「CIOらはより少ない予算で、より多くのことをいかに実現するかに関心を寄せている。IT部門の予算は私の印象では前より増えているようだった。多くのCIOはレガシー技術を脱却して業界標準技術に移行することに関心がある。より新しい技術に投資することでベネフィットを得て、予算を浮かせるという考え方を持っているようだ」。

(編集局 垣内郁栄)

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