[Rational Software User Development Conference開催]
2031年、ソフトウェアの旅

2004/7/22

米IBM fellow グラディ・ブーチ氏

 米国テキサス州グレープバインで行われている「Rational Software User Development Conference」の2日目の基調講演に、米IBM fellowのグラディ・ブーチ(Grady Booch)氏が登壇した。オブジェクト指向設計手法Booch法の開発者であり、後にOMT法の提唱者ジェームス・ランボー(James Rumbaugh)氏やOOSE法のイバー・ヤコブソン(Ivar Jacobson)氏とともにUML制定の立役者となった人物である。IBMのfellowとしてブーチ氏が語ったのは彼の専門であるオブジェクト指向設計手法の難解な理論……、ではない。1911年、(IBMの前身である)C-T-R(Computing-Tabulating-Recording)の設立から始まるIBMの現在までの来歴を通してコンピュータの進化の歴史を語り、さらに近未来のコンピュータ世界の在り方を予測するという壮大なものだった。

 「今後あらゆる機器は互いに通信するようになる。通信を行う機器には必ずソフトウェアが組み込まれることになる」とブーチ氏はいう。社会状況の変化と人々の生活習慣の移り変わりとともに、ソフトウェアの姿も大きな変化を求められる。もちろん、開発環境もまったく違ったものになるだろう。

 「どのように作るか」こそがソフトウェア開発者にとっての最大の関心事であり、開発環境の進化もそのような関心のもとに推進されてきたが、実は「何を作るか」、あるいは「作ったものはどういう用途で使われるのか」という利用者の立場に立った視点がなければ、膨大な時間をかけて書かれてはいても、そのプログラムには何の意味もない。Rationalという開発ツールベンダとIBMという巨大コンピュータベンダの融合がもたらした大きな意義の1つは、おそらく、ソフトウェア開発者という閉じた世界の住人に、自分たちの作ったプログラムが社会にどのようなインパクトをもたらすかという新たな視点を提供することにあるのではないだろうか。

 1911年にIBMの前身のC-T-Rが生まれた時から2003年にRationalがIBMに吸収されるまでのおよそ100年のコンピュータの歴史を概観した後、ブーチ氏は近未来の予測に踏み込む。「人口」「資源」「政治・社会」「福祉」「農業」「ビジネス」「工業」「交通」「消費行動」「娯楽」「医療」「科学技術」といったさまざまな分野の近未来の状況を予測する時、コンピュータの存在を無視することはできない。

 では、ソフトウェア技術にはどのような未来が待っているのだろうか。ブーチ氏は「プラットフォーム」「言語」「OS」「セキュリティ」「コネクション(接続環境)」「オートノミック」「開発者(開発環境)」といった分野に言及していく。ブーチ氏は「OSはさらに汎用化が進み、オープンソース化して、さまざまな機器に組み込まれていくだろう」「ミドルウェアも同様だ。ネットワークこそがコンピュータそのものになる」といった大胆な予測を披露する。そして、ソフトウェア開発はより高度な抽象化技術を洗練していくことになる、とする。ブーチ氏がUMLに託したようなオブジェクト指向開発のさらなる進化は必然の流れだ。

 ブーチ氏は2010年代をソフトウェアの「浸透化の時代」と位置付けた。社会のあらゆる所にソフトウェアが組み込まれる素地ができあがる。そして、2020年代に入り、われわれはさまざまな活動を仮想的な世界で行うことが当然の時代を迎える。2030年代、「機械の時代」が訪れるという。「(アイザック・アシモフ原作の映画)『I, Robot』のような時代はまだ先になるのだろうが、それに近づく時代が目の前にある」とブーチ氏は講演を結んだ。

(編集局 谷古宇浩司)

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日本IBM
IBM Rational Software User Conference

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