ユーザーに泣かされないITコンサルになるには

2005/2/4

日本IBM 榊原彰氏

 デブサミ2005(主催:翔泳社)が2月3日、4日の2日間に渡って行われている。2005年のテーマは「デベロッパの復権」。例年どおり「Java/J2EE」「プロジェクトマネジメント」「.NET」「組込みソフトウェア」など多様なテーマに沿って、各分野の著名なスピーカーが刺激的な議論を繰り広げる。初日である3日の講演で興味深かったのは、日本IBM 榊原彰氏による「ITアーキテクトの醍醐味」と清水建設 安井昌男氏が講演した「私が『泣かせた』ITコンサル、『尊敬する』ITコンサル」、ウルシステムズ 漆原茂氏の「ユーザーに泣かされない技術者になるために〜泥臭い事例」の3つ。いずれも「Java/J2EE」セッションに含まれるものだが、3つともJavaとは何の関係もない議論が展開された。昨今の(IT業界における)要素技術偏重傾向に対する3者の静かな批判がうかがえる。

 榊原氏の講演は、ITアーキテクトという職種の定義を整理するもの。ITスキル標準で定義されるITアーキテクトの活動局面とその活動内容やIEEE Std.1471-2000で規定されるアーキテクチャの定義(「アーキテクチャ:コンポーネントを統合したシステムの基本的な編成、コンポーネント相互およびコンポーネントと環境間の関係、そしてシステムの設計と発展を導く方針」)を引用しながら、アーキテクチャ設計の基本を講義した。

 清水建設の安井氏はユーザー企業の立場から、開発プロジェクトが破綻(はたん)する予兆について、自身の経験を踏まえて数々の指摘を行った。開発側にしてみれば、いずれも耳の痛い指摘ばかりである。指摘対象は主に、実装作業以前のいわゆる上流工程とされるフェイズに絞られた。

 開発側が顧客企業に対し、営業を行うとき、さらに要件定義を行うためのヒアリング作業といった段階で、安井氏が繰り返し指摘するのは、「(提案内容を受け入れることで)何がよくなるのか?」「なぜ、そのような提案が必要になったのか?」という極めてシンプルな問いである。開発側がすべてそうだとはいえないが、安井氏の話を聞く限り、顧客の要求を正確に収集し、要件を定義するという作業において基本ともいえる態度、すなわち、“話をきちんと聞く”という能力の明らかな欠如が開発側に認められる。このような“駄目なコンサル”の特徴として、用語の意味が明確でない点、提案が論理的でない点などが挙げられる。ユーザー企業にとって必要なのは、最新のIT技術、ではなく、その技術を使って、何ができるのか? という基本的な情報である。

 漆原氏のプレゼンテーションは、安井氏の講演内容を開発側から補完する厳しい内容となった。すなわち、日本のIT業界に蔓延(まんえん)するとされる「要素技術への過度な盲信」(漆原氏)の指摘である。「要素技術に過敏に縛られるのはやめるべき」と漆原氏はいう。結局、要素技術は顧客企業のビジネスの役に立たなければ意味がない。このことは、安井氏の指摘と同じことを語る。日本のIT業界に蔓延するBuzzワードの存在とそれらの横文字を振りかざして、結局は顧客に何も説明が行えない開発側の問題が失敗プロジェクトの根絶を困難にしている一因といえるかもしれない。

(@IT 谷古宇浩司)

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デブサミ2005

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