萌え市場とITが日本のモノ作りを救う、森永氏の主張

2005/6/23

 HP WORLD Tokyo 2005の基調講演に登壇したUFJ総合研究所の森永卓郎氏は、情報技術の最大の意義を「消費ニーズの多様化の掘り起こし」にあると指摘する。その実例として、森永氏自身がその黎明期から熱心に売買実験を繰り返したネットオークションを挙げた。森永氏によれば、国内のネットオークション市場は、2000年の約1000億円から2003年の約6700億円へと倍に近い規模で拡大を続けている稀有(けう)な市場であるという。この市場がこれほど成長する最大の要因こそ、多様化する潜在的な消費ニーズの掘り起こしであり、それを初めて可能にしたのが情報技術であるというわけだ。

UFJ総合研究所 森永卓郎氏

 森永氏といえば、日本で最大の“久米宏コレクター”として有名であり、また空き缶コレクターとしても全国で屈指の存在である。かつて森永氏がヤフーオークションで出品した“久米宏の煙草の吸殻(本物)”は最終的に8250円で落札されたという。「シェアを拡大しながら商品の価格を下げ続けて成長するようなビジネスモデルが今後も生き残るとは思えない。完全競争の下では利益はゼロになるしかない」(森永氏)わけで、生き残る企業の条件をあえて1つ挙げるとすれば、価格競争に巻き込まれないビジネスを展開できること、ということになる。

 では、加熱する価格競争に巻き込まれないような市場とはどのような市場だろうか。森永氏は「好きなもの(趣味)、好きなこと(芸術)、好きな人(恋愛)」の要素をビジネスとして展開できる市場だと指摘する。その意味で、現在、世界で最も成功している国は、中国やインドといった価格競争の最前線に立っているような国ではなく、高付加価値商品を生み出し続けるイタリアだと断言する。そして、自宅から持参したイタリアのキッチンウェア/ハウスウェアのトップブランド「ALESSI(アレッシー)」の楊枝入れや卓上ライターなどを示しながら、イタリア製品のセンスのよさを強調した。「アレッシーの台所用品で最も人気があるのは、お湯が沸くとパイプオルガンのような音色を奏でるケトルだ。フタの部分は楽器職人が作っている」(森永氏)というように、実用性という観点から見れば無駄としか思えない機能を商品の付加価値としてアピールできるイタリア製品、ひいては、イタリアのモノ作り文化そのものに対し、森永氏は最大級の賛辞を送った。

 さて、これらの論旨を踏まえ、日本のモノ作りにおける未来はどこにあるのか、という問いに対し、森永氏は躊躇なく「秋葉原だ」と回答する。「秋葉原駅を降りたら、まずはラジ館(ラジオ会館の略称。ラジカンと読む)に行くべきだ。そこには、フィギュア、コスプレ、DVD、コミックなど“萌え市場”を構成する最先端の商品が所狭しと並んでいる」(森永氏)と。そして、秋葉原に集う若者がこのような新しい文化と情報技術を融合させ、「将来的には人工知能やロボットの開発に進んでいく」と日本のモノ作りにおける壮大なビジョンを提示した。

 日本経済活性化に対する最近の森永氏の主張は「ラテン気質」と「権限委譲」の2つに集約することができる。実はこの2つとも実際には、「イタリア人気質」ともいうべき要素に凝縮できる。つまり「暗くならないこと、常に前を向いて行動すること。そして、企業においては、経営層は最重要決定を下す以外、現場の判断に口をはさまないこと」となる。日本人の一般的な認識として、イタリア人はあまり働かないというイメージがあるが、森永氏によるとそれは大きな間違いで「確かに労働時間は短いかもしれないが、生産性は2倍である」という。権限が現場にあり、現場が次から次へと新しいことを試みることができる環境がある。そして、1秒でも早く仕事を終わらせて遊びに行くために、昼間は物凄く働く。日本の場合は、イタリアのファッションビジネスと比肩できる市場として、「萌え市場」があり、同市場を軸に「ラテン気質」と「権限委譲」をもって世界に展開する必要がある。そして、市場を拡大するための基盤として情報技術がある、というのがHP WORLD Tokyo 2005における森永氏の主張であった。

(@IT 谷古宇浩司)

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