将来の携帯電話は、ギャル仕様も老人仕様も思いのまま?

2005/12/6

 日本IBMは12月5日、ユーザーを中心とした設計手法「UCD」(User Centered Design)を基本にした研究開発施設「DCEイノベーションラボ」を報道関係者向けに公開した。DCEイノベーションラボは、日本IBMの大和事業所内に開設されており、法人の顧客向けに12月6日より公開する予定。ラボ内には、RFIDをかざすとユーザーごとに異なったメーターを表示する乗用車のデモ画面など、近未来の製品を見ることができる。

日本IBM 取締役専務執行役員 開発製造担当 内永ゆか子氏
 日本IBMは、利用者に使いやすい製品やサービスをデザインすることを目的に、製品の開発全体にわたって利用者の声を反映するUCDの設計手法を、2000年からハードウェアとソフトウェア双方の開発に取り入れている。

 今回新設されたDCE(DigitalConsumer Electronics)イノベーションラボは、ユーザー体験型の研究開発施設。自動車や携帯電話、情報家電など年々複雑化している情報機器分野において、同社が考える次世代の開発手法などを紹介する。また、ユーザーは開発のバックグラウンドに利用されるテクノロジを体験できるという。

 日本IBM 取締役専務執行役員 開発製造担当 内永ゆか子氏は、「コンシューマ向けのデジタル家電は、1つのデバイスに年々新たな機能が追加されていき、機能が複雑化する一方だ。さらに、最先端機能が搭載されているのが当たり前になってしまい、他社と差別化を図るには“使い勝手”が最も重要なポイントになっている」と指摘。「当社のUCDで開発したソフトウェアやデバイスをすべて集めたDCEイノベーションラボに訪れることで、IBMの今後の方向性を分かってほしい」と語り、DCEイノベーションラボの利用価値を示した。

 米IBM ワールドワイド・デザインコンサルティングサービス・ディレクター リー・グリーン(Lee Green)氏は、2005年の春に発表したデザインコンサルティングサービスを紹介。「IBMが行っているUCDでは、ユーザーが製品を利用しているところを観察することが重要だ。ThinkPadは、ユーザーを数年間調査してから調査している」と説明。そのほか、ニューヨーク証券取引所で利用されているハンドヘルド機器や健康機器などにおいて、UCDが利用されているケースを紹介した。

 デモでは、まず自動車の運転席の模型にRFID(無線ICタグ)をかざすデモが紹介された。このデモは、ユーザーのプロファイルが保存されたRFIDを、運転席の右側のRFIDリーダーにかざすと、あらかじめ設定したスピードメーターやカーナビ画面など、ユーザーごとに異なったUIが表示されるというものだ。

 例えば、40代男性の場合であれば、一般的なスピードメーターとタコメーターが表示されるが、20代女性の場合であれば、よりカラフルかつシンプルなメーター画面が表示されるというもの。カーナビ機能もRFIDに連携しており、事前にPC上で目的地を調べてRFIDにデータを保存しておくと、車のRFIDリーダーにかざした際にそのデータを受け継いで自動的にカーナビに反映し、カーナビで目的地などを設定しなくてもよいという。

RFIDをかざすと、ユーザーごとに異なったメーターやカーナビ画面が映し出される ユーザーごとに異なったUIを表示する携帯電話のデモ。これは若者向けの場合で、電話帳の検索画面が写真で表示されている

 携帯電話も同様にユーザーごとにUIを変更できるデモを行った。例えば、中年男性の場合には自分のオフィスのPCのUIに似たものを用意し、オフィス環境と違和感なく操作できるようにしている。一方、20代女性向けのUIは、「電話」「メール」「カメラ」などの主要機能をアイコン付きのカラフルな画面で表示し、電話帳などは携帯電話についているカメラで撮影した写真を電話帳の替わりに利用できるUIになっている。老人向けにはさらに機能を絞り、インターフェイスをシンプルにしたものを用意している。

 DEユーザー・エクスペリエンス・デザイン・センター担当 山崎和彦氏は、「ターゲットごとに異なった機種を用意するのではなく、UI自体をそれぞれのユーザーのし好に合わせたものに変更できる点が特徴だ。その方が、より高い顧客満足度を提供できるだろう」とコメントした。

 そのほか、ユーザーが実際に機種を操作しているところを観察し、「Aという操作にどの程度の時間が掛かかっているか」「Bという操作ができなくて、迷っている」「Cという操作をするためには、階層構造を変更した方がよいのではないか」などを検討できる部屋も用意。「当社は、携帯電話などのベンダ開発者を必ずこの部屋に呼ぶことにしている。そうすれば、そのあと報告書や録画ビデオを見てもさまざまなことに気付きやすいからだ。やはり使い勝手をテストするには実際にユーザーに操作してもらうのが一番だ」(山崎氏)と説明した。

ユーザーが操作しているところを観察する部屋。さまざまな録画装置などが設置してあり、ユーザーの操作を観察する デザインセンターのオフィス風景。好きな模型などをデスクに飾ってよいという

 DCEイノベーションラボでは、そのほか実際にデザインを行っているオフィスや、目に見えないインクで2次元バーコードを印刷し、携帯電話で読み込むことでさらに情報を提供できる新聞紙、メール内の文章を解読してそこから人間の感情を推測し、色で表現するシステムなども公開している。

 山崎氏は、「いままでにIBMがデザインコンサルティングサービスを提供したのは1000社以上にのぼる。現在、日本でも20〜30件が進行中だ。来年はもっと増やしていきたい」と抱負を語った。

(@IT 大津心)

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