@IT編集部オススメ!

年末年始に読みたいIT関連書籍、この10冊

2006/12/27

 @IT読者の皆様、年末年始は十分な休暇が取れるでしょうか。納期や仕込みに追われてギリギリまでバタバタという方もおられるかもしれません。

 普段なかなか読書に時間が取れない方でも、帰省する飛行機や列車の中で、あるいは帰省先の実家のコタツでミカンなど食べながら読書する時間が取れる人も多いでしょう。そんな皆様に、@IT編集部がお勧めする「年末年始に読みたい10冊」をお届けします。

リアル社会に変容を迫る高度な情報テクノロジー

 IT関連の新書としては驚異的な売り上げを記録し、2006年を代表するベストセラーの1冊となった『ウェブ進化論――本当の大変化はこれから始まる』(梅田望夫著、ちくま新書)だが、@IT読者の方にお勧めしたいのは『ザ・サーチ グーグルが世界を変えた』(ジョン・バッテル著/中谷和男訳、日経BP社)。グーグル創設者たちと親交のある著者が同社をじかに取材して執筆している点は翻訳書ならでは。検索エンジンの歴史や技術の変遷についても詳しく触れられており、検索アルゴリズム一般に関心のある技術者でも興味深く読めるだろう。検索エンジンを取り巻く事実関係を抑える基本資料としてお勧めだ。

 IT本が一般書に混じってよく売れるようになった2006年。それだけITが社会との関係を深めているということだろう。その接合面では、さまざまな軋みも聞こえてきている。長期的に見てもっとも社会に与えるインパクトが大きいのは著作権を巡る議論だろう。Winny裁判では、ついに「P2P技術は有用」という画期的な司法判断が下され、いよいよ旧来の著作権法の枠組みの限界が明らかになってきた。では、著作権法はどうあるべきか。

 こうした問題に示唆に富む考察を加えているのが『インターネットの法と慣習――かなり奇妙な法学入門』(白田秀彰著、ソフトバンククリエイティブ)。Hotwired Japanの連載をまとめたもので「法学」と副題に銘打ってはいるが、平易で読みやすい入門書だ。著作権だけではなく、匿名問題などインターネットで話題となる秩序やマナーのあり方について、根本的な議論を展開している。

 高度情報化社会を迎えるに当たって追い付いていないのは法整備だけではない。情報が遍在化する社会でセキュリティやプライバシーをどう守っていくべきかということを技術的な面から考察した本として『ユビキタスでつくる情報社会基盤』(坂村健、東京大学出版会)もお勧めだ。著者が取り組むユビキタスコンピューティングでは全世界でユニークな“uコード”をRFIDタグリーダなどで読み取ることにより、「物の認識」、「人の認識」、「場の認識」を行う。例えばスーパーの食品であれば、産地や生産方法、輸送経路をトレース可能にしたり、医療用途であれば医薬品の処方間違いが起こらないように、やはり情報をタグとひも付けるといった応用がある。

 こうした夢のような技術は、すでに現実のものになりつつあるが、一方で、街行く人が着ている洋服のタグをこっそり読み取れば値段が分かる、といった懸念も出てくる。もちろん技術的に採り得る対策はいくらでも考えられるが、先進的な導入例や諸外国のアプローチを紹介しつつ、詳細に考察している点で本書は示唆に富む。近未来ではなく、今すぐRFIDでシステムを構築する際の方法論や課題を知りたいという技術者には『RFID+ICタグ システム導入・構築 標準講座』(西村泰洋著、翔泳社)がお勧め。現時点で必要とされる網羅的なノウハウが詰まっている。

 ユビキタス社会で情報が遍在化したときに問題になるのはセキュリティやプライバシーだけではない。「情報の見つけやすさ」が重要になる。『アンビエント・ファインダビリティ――ウェブ、検索、そしてコミュニケーションをめぐる旅』(ピーター・モービル著/浅野紀予訳、オライリージャパン)は情報アーキテクチャの研究者である著者が、この「見つけやすさ」(ファインダビリティ)について考察した1冊。地図や海図、都市設計といった旧来のテクノロジから、ロングテールやフォークソノミーといったWeb 2.0的な動きまでをカバーする。UIやナビゲーションのデザインは今後どうあるべきなのかを、情報整理技術の歴史的パースペクティブの中で考察したい人にお勧めだ。

アクの強い個性をフィーチャーしたノンフィクション

 「内部統制」は2006年を代表するIT関連キーワードで、本屋にも多くの関連書籍がうずたかく積まれている。ポイントがよくまとめられた概説書もいいが、じっくり時間のある年末年始にお勧めしたいのがエンロン崩壊を追ったノンフィクション、『The Smartest Guys in The Room』(Bethany McLean、Peter Elkind著)だ。残念ながら未邦訳で出版年も2003年とやや古いが、米国で内部統制の議論が出てきたきっかけとなる事件だけに内部統制関連の基本図書の1冊ともいえる。急成長を遂げた組織の中心にいた主要プレーヤーたちを描くことで事件の背景と全容を描き出す。アクの強い人間たちを描いたことで単なるノンフィクション以上の深みと面白さのある好著となっている。ちなみに同書は2005年に映画化され、2006年度のアカデミー賞にノミネートされている。

 アクの強い人間を描いたといえば、『スティーブ・ジョブズ――偶像復活』(ジェフリー・S・ヤング、ウィリアム・L・サイモン著/井口耕二訳、東洋経済新報社)もお勧め。原著のタイトル『iCon』は「icon(偶像)」と「con(ペテン師)」をかけたもので、ジョブズをIT業界(と音楽業界と映画業界)のトリックスター的に捉えた著者たちの眼差しが端的に表現されている。独善的でワンマン経営者を絵に描いたようなジョブズが、とても実現不可能な目標を部下に押し付け、邪魔者を排除し、数々のプロジェクトを成功に導く。挫折を繰り返しながらも、文字通り華々しい成功を何度も収める彼の人生を見ていると、彼には常人には備わっていない魔力のようなものがあると感じ入らざるを得ない。自己中心的な男が、やがて年齢を重ねて髪が白くなるとともに、プロジェクトにおけるチームの重要さや、それを支える家族の存在にも目覚めていく。そうした人間ジョブズの変化も読みどころ。

 もう1人、強烈に個性的な人間の本を。

 『ハッカーズ――その侵入の手口 奴らは常識の斜め上を行く』(ケビン・ミトニック、ウィリアム・サイモン著/ 峯村利哉訳、インプレスジャパン)は伝説のハッカー、ケビン・ミトニックが書いた本だ。細かな技術的ハッキング技法を解説するというより、ソーシャルハッキング系やハッカーへのインタビューが中心。カジノで、いかにスロットマシンの裏をかくかといった話題など、非技術者でも面白く読める。

TCP/IP、プロジェクトマネジメントなど、お勉強本

 お正月にネットワークの基礎の勉強をやり直したい人に勧めたいのが『これならわかる――TCP/IP入門の入門』(福永勇二著、翔泳社)だ。手前味噌の1冊になるが、@ITの人気連載「TCP/IPアレルギー撲滅ドリル」を書籍化したもので、「TCP/IPの勉強にくじけてしまった人」に対して専門的解説書への架け橋となることを目指した平易な技術解説。無味乾燥な通信技術を豊富な例え話で分かりやすく説明している。このところ上位レイヤばかりが取りざたされて、TCP/IPスタックはますますブラックボックス的になっているが、ネット社会の基礎教養として非技術者であってもTCP/IPの基礎は勉強しておきたい。

 お勉強系で、もう1冊。

 『Apache Maven 2.0入門 Java・オープンソース・ビルドツール』(野瀬直樹/横田健彦著、技術評論社)は12月に出たばかりの新刊。Maven(メイブン)は、Java開発におけるコンパイル、JARファイル作成、ユニットテスト、負荷テストなどを自動化するツール。最近の注目株だ。EclipseやNetBeansを使った統合開発環境だけでは煩雑だった、システム全体のリビルドプロセスを容易にし、開発のライフサイクルを短くできる。現場でのMavenの普及はまだこれからかもしれないが、一足先にJavaでアジャイル開発を体験してみてはいかがだろうか。本書は基本的にMavenの入門書で概要説明やインストール方法の解説が主体のハウツー本だが、最終章の第5章「Mavenを真に活かす」が目を引く。そもそも何のためにMavenが必要とされるのかを、ウォーターフォール開発モデルとアジャイル開発モデルという対立軸から考察している。そのこと自体は目新しい話ではないが、ウォーターフォール開発モデルからなかなか脱却できない現状に触れ、著者は「日本のソフトウェア開発業界の中には、Mavenを殺す力が満ちている」、「現実を変えるのはあなたです」と、やや過激な表現で読者に語りかける。そうした熱意と信念に裏付けられた1冊だ。

 Mavenのようなツールの利用で技術面からプロジェクトマネジメントの方法論を変えていくことも重要だが、一般論としては『目標を突破する実践プロジェクトマネジメント』(岸良裕司著、中経出版)がお勧めだ。ソフトウェア開発業界の現場には徹夜が付き物というのが常識だが、それを「常識だ」という前に、本書が指摘する「納期が遅れる6つの理由」を読んでみよう。現場で役立つ実践的なノウハウが詰まったプロジェクトマネジメントの入門書だ。

(@IT 西村賢)

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