年末特別寄稿:日本ヒューレット・パッカード 上川純一氏

2006年のオープンソースを振り返る

2006/12/27

 この1年のオープンソースとLinux関連の動向を振り返ってみましょう。オープンソースがビジネスとして動くきっかけが見え始めたのが2005年でした。2006年はオープンソースのエンタープライズユースがもはや「挑戦」ではなくなってきたと感じさせる1年でした。

物議を醸したGPLv3も、いよいよ決着間近

 2006年はGPLライセンスの新しい版である第3版を策定するための会議「インターナショナルGPLv3カンファレンス」のボストン開催で幕を開けました。オープンソースソフトウェアが利用するライセンスの大多数を占めるGPLライセンスですが、これは10年以上前に策定されたもので、内容が時代に追い付いていないことが課題として認識されていました。

 Webサービスを提供するGPLソフトウェアのソースコードは公開しなくてよい状況や、オープンソースのライセンスにそれぞれ相性があったり、特許が利用の障壁となったりと、そもそもの意図としては自由に利用できるはずのコードが自由に利用できないという問題が発生していました。当時は今日のWebを取り巻く状況や、DRM(Digital Rights Management:デジタル著作権管理)、オープンソースソフトウェアに利用されるライセンスの乱立などの状況は想定できませんでした。

 現在の状況に合わせた内容にアップデートしようと提案された改版作業は、コミュニティを取り込んだ大掛かりなものになりました。最初の版はDRMをDigital Restriction Management(デジタル制限管理)と呼び、DRMのために利用してはならないという章があったりと急進的な内容で物議を醸しました。1年に5回もカンファレンスを行うという事態になりましたが、結果として一般にも受け入れられやすい内容に落ち着いてきたようです。GPLv3の確定版の発表は2007年になりそうです。今回の改変の主要な成果としてユーザー側にとっては他ライセンスとの互換性が向上しているというメリットがあるはず。今後、GPLv3 がどれくらい採用されるのかが見ものです。

OSSのサポート体制が充実し始めた1年

 今年はエンタープライズ用途向けのオープンソースについて、サポートが充実し始めた1年でした。各社が続々と日本におけるMySQLやJBossのサポートを開始しました。これまで、業務上利用する三層システム(Webサーバ、アプリケーションサーバ、データベースを3つに分けたシステム)をLinuxやオープンソースツールで構築した場合、一般的にサポートも含めて対応できたのはWebサーバだけでした。それが今年は、データベースもアプリケーションサーバにも24時間サポートが付けられるようになりました。予算さえあえばサポートが買える状況です。社内向けのシステムなのに、いざというときのサポートがないからとオープンソースで構築させてもらえなかった開発者も少なからずいたと思いますが、そうした方々には朗報ですね。

 また、10月に米オラクル社がLinuxのサポート業に参入すると宣言しました。エンタープライズ用途でOSSを利用する際のサポート体制が手厚くなってきたと感じます。また、国産オープンソースという観点から言うと各種エンタープライズ用途での事例が出ているseasar2のブレークも気になるところです。seasar2はオープンソースのアプリケーションフレームワークでもエンタープライズ用途を志向している点で、これまでの一般的なオープンソースソフトウェアと毛色が違います。

急成長のSNSを支えるOSS

 Web上のサービスの観点でいうと、今年はソーシャルネットワーキングサービスの普及が一巡し、そろそろ安定期に入ってきました。自分の生活インフラの一部となってきたという方も多いのではないでしょうか。急激に成長してユーザーが増えたソーシャルネットワーキングサービスですが、その代表格ともいえるmixiはオープンソースソフトウェアで支えられています。

 mixiのシステム開発を担当するバタラ・ケスマ氏によれば、mixiはLinuxとMySQLとPerlを組み合わせてサービスを提供しているそうです。 数百万人が利用しているサービスをオープンソースを組み合わせて提供しているということで心強く思った方もいらっしゃるのではないでしょうか。

 新しい展開としては、AJAX(Asynchronous Javascript+XML)などのキーワードと共にRuby on RailsなどのWebアプリケーション開発フレームワークが普及し始めました。2006年に出始めた入門記事を見て、各種フレームワークを試してみた方も多いのではないでしょうか。今後オープンソース基盤を活用したWebアプリケーションを実装する人が増えることで、スケーラビリティや運用に関連する課題の解決やサポート体制の整備の進展が望まれます。

Linuxカーネル関連では仮想化が大流行

 仮想化も流行しました。オープンソースの仮想化環境、Xenが実用的に広まり始めたのではないでしょうか。

 今年のLinuxカーネル関連で出てきた話題を見ても、複数の分離したLinuxユーザー空間をアプリケーションとして提供する「user-mode-linux」、Linuxカーネルを拡張して各ユーザープロセスに名前空間を適用することでプロセス単位の分離・仮想化が可能な「linux-vserver」や「openvz」、Xenと同様にハードウェアの仮想化を再実装しようとしている「lhype」、XenとVMWareの上でLinuxカーネルを高速に動作させるためのLinux側の共通基盤として整備された「paravirt_ops」など、仮想化関連の話題で持ちきりです。Linuxカーネルはオープンソースプロジェクトらしく、可能な仮想化のやり方をほぼすべて実装した形になっています。多くの人の興味が1つに集まったときのオープンソースの勢いというものを感じますね。仮想化関連については管理ツールがまだ成熟していないようにも感じられますので、今後も関連ツールの開発が続くことを期待しています。

デュアルコア化や64bitへの対応も

 また、クライアントPCのCPUでも変化がありました。CPUの主流は、デュアルコア、64bitのx86_64系統や、仮想化機能が組み込まれたIntel Core 2 Duo、AMD Athlon64 X2へ本格的に移行し始めました。オープンソースのソフトウェアはエンタープライズ用途の一部のソフトウェアについては64bit・SMP対応が進んでいましたが、CPUの主流が変わることで、デスクトップ用途でも、あらゆるアプリケーションで64bit対応やSMP対応が必要になりました。また、仮想化に関連するソフトウェアも、仮想化をサポートするCPUに対応するための開発がどんどん進んでいます。オープンソースの活発なコミュニティの利点は、新しいCPUアーキテクチャ対応の部分で発揮されています。Linuxディストリビューションのユーザーの観点からすると、「ソースコードが公開されていないけど無料」のソフトウェアに関しては64bit対応が遅く、もどかしく思っている64bit Linuxユーザーが多かったようです。

 PC以外のエンドユーザー向けの機器に目を向けると、昨年から流行の兆しを見せていたNASボックスが普及しました。アイ・オー・データ機器の「LAN Tank」や、バッファローの「玄箱」などです。結果として安価なLinuxベースのシステムで、なおかつユーザーが簡単にハックできるデバイスが多数出てきました。メインデスクトップマシンでLinuxに乗り換えるほどではない、というユーザーが簡単に試せる環境が出てきたおかげで、Linux環境に触れる新規ユーザーが増えたのではないでしょうか。直近では PLAYSTATION3 Linuxが出るなど、i386以外のCPUアーキテクチャでのLinuxに挑戦するのに適切な環境の提供が増え始めています。一時期はx86系CPUのみに対応していればいいような風潮がありましたが、最近はまたオープンソースソフトウェアの移植性の高さの重要性が高まってきているようです。

 2006年を振り返ってみると、エンタープライズユースが格段に増え、目立ってきました。来年もこのままの勢いでオープンソースのエンタープライズ環境での展開が進みそうです。

(日本ヒューレット・パッカード株式会社 コンサルティング・インテグレーション統括本部 上川純一)

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