残業代不払い制度か生産性向上策か

「ホワイトカラー・エグゼンプション」で技術者が壊れる?

2007/01/11

 「1日8時間、週40時間」という労働基準法が定める労働時間の規制を特定のホワイトカラーだけ除外する「ホワイトカラー・エグゼンプション」(ホワイトカラー労働時間規制適用免除制度)の議論が進んでいる。厚生労働省は今通常国会に法案を提出する考えだが、働き手を中心に批判も多い。ホワイトカラー・エグゼンプションが導入されると、特に技術者の労働環境が大きな影響を受ける可能性がある。ホワイトカラー・エグゼンプションの概要とその影響を探る。

自らの裁量で働く時間を決定

 ホワイトカラー・エグゼンプションは従来の労働時間による給与の支払いを撤廃し、成果に応じて給与を支払う制度。対象社員は自らの裁量で働く時間を決められる。一方、労働時間の概念がなくなるので、残業代は支払われなくなる。適用職種が限られる裁量労働制をホワイトカラー全体に適用可能にする制度ともいえる。

 ホワイトカラー・エグゼンプションは米国が導入していて、国内では日本経済団体連合会が導入を強く求めている。日本経団連は2005年6月に提言を発表。現在のホワイトカラーについて「裁量性が高く、労働時間の長さと成果が比例しない」として「現行の管理監督者に加え、仕事の専門性と時間管理について自己裁量の高いホワイトカラーを、労働時間等規制の適用除外とする」とホワイトカラー・エグゼンプションの導入を求めた。

適用条件は年収400万円以上? 900万円以上?

 日本経団連の提言を受けて、厚労相の諮問機関である労働政策審議会の労働条件分科会がホワイトカラー・エグゼンプションの制度化を検討。同部会はホワイトカラー・エグゼンプションの導入を提言する内容の最終報告を2006年12月27日にまとめた。提言ではホワイトカラー・エグゼンプションを適用する社員の条件として、以下の4点を求めている。

  • 労働時間では成果を適切に評価できない業務に従事する者であること
  • 業務上の重要な権限及び責任を相当程度伴う地位にある者であること
  • 業務遂行の手段及び時間配分の決定等に関し使用者が具体的な指示をしないこととする者であること
  • 年収が相当程度高い者であること

 4点のうち、年収については日本経団連が400万円以上の社員に対して適用することなどを提言。厚労省は年収900万円以上の社員を想定するなど適用条件の着地点はまだ見えていない。

「だらだら仕事」の撤廃狙う

 日本経団連など企業側がホワイトカラー・エグゼンプションの導入を求める背景には、社員の生産性を上げたいという思いがある。法定労働時間の規制を受ける現状では、同じ仕事を行う社員でも短時間で仕事を済ませる社員よりも、残業をして仕事をする社員のほうが給与の総額が高くなるという問題が起きる。だらだら仕事につながるともいえ、生産性の低下は明らか。

 また、自宅や外出先など会社以外で仕事を行う社員も増え、多様なビジネススタイルを認めるためにも法定労働時間の撤廃は必要と訴える。高い生産性を誇る欧米やアジアの企業と競合する日本企業は、ホワイトカラー・エグゼンプションを生産性向上の手助けにしたいと考えている。

労働界は「残業代不払い制度」と反対

 だが、労働界から見るとホワイトカラー・エグゼンプションは「残業代不払い制度」「人件費抑制策」と映る。裁量労働の名の下に残業代を支払わずに、長時間労働を強要するとして反対が多数だ。違法なサービス残業を制度によって正当化するとの批判もある。

 ホワイトカラー・エグゼンプションが適用された場合、技術者も大きな影響を受ける。ソフトウェア開発やシステム開発は要件変更などによるプロジェクトの期間超過や手戻りが多く、長時間の残業は当たり前の職場。サービス残業を強いられる技術者もいる。3K(きつい、厳しい、帰れない)ともいわれる労働環境だ。

技術者が受ける影響は

 労働時間でなく、成果によって評価されることを支持する技術者は多い。だが3Kの現状を改善せずにホワイトカラー・エグゼンプションを導入すると、厳しい労働環境のままで残業代だけが削られるという悲惨なことになりかねない。そもそも技術者の仕事の成果をどう評価するのかという議論についても答えが出ているとはいえないだろう。IT業界にとってはホワイトカラー・エグゼンプション導入の前に、成果評価法の確立や仕事の効率化、残業や休日出勤を前提としない厳格なプロジェクト管理が必要ではないだろうか。

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(@IT 垣内郁栄)

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