基礎研究と知財保護にも力を入れるべき

アジアの弱点はイノベーションが商用化されていない点だ

2007/04/10

 米ビジネスソフトウェアアライアンス(BSA)は4月10日、韓国ソウルの中心地明洞にあるウェスティンチョースンホテルにおいて、アジア地域でイノベーションフォーラム「アジアイノベーションフォーラム 2007」を開催した。

 アジアイノベーションフォーラムは、日本や中国、韓国、インドからIT業界の官民学関係者を招き、政策課題の基礎となる手掛かりや競争力あるIT業界の発展についての講演が行われるイベント。今回で第3回目となる。日本からは、パネリストとして早稲田大学国際情報通信研究科教授小尾敏夫氏が参加している。基調講演では、世界有数のDRAM製造会社ハイニックスセミコンダクター CEO ジョンカップ・キム(Jong-Kap Kim)氏や、米サイベース CEO ジョン・チェン(John Chen)氏、米マイクロソフト シニアバイスプレジデント&ジェネラルカウンシル ブラッド・スミス(Brad Smith)氏が講演を行った。

研究結果を商用化に結び付けられていない韓国〜キムCEO

キム氏写真 韓ハイニックスセミコンダクター CEO ジョンカップ・キム氏

 キム氏は「イノベーションと韓国」と題し、韓国の現状を説明した。現在、韓国は造船や半導体メモリ、ディスプレイ分野で世界1位。従来、日本に依存していた部品類も自国生産の増加により、部品類の対日赤字が大幅に減ってきているという。しかし、主力の製造業は、先進国の製品を模倣・改良した製品がほとんどで、自国で開発・発想した製品は少ないと分析。地理的にも、世界最大市場の中国と世界最先端の日本のニ大国家にはさまれたサンドイッチ状態にあるとした。

 このような状況から、韓国は一国も早いイノベーション立国化が必要であるとキム氏は指摘。同じくイノベーションの強化を図っているアメリカや日本、中国よりもさらにイノベーションに注力し、競争力を強化しなければ生き残れないと主張した。

 その理由は、韓国の研究機関が良い結果を出していない点にあるという。同国は、教育に力を入れていることで有名であり、実際大学入学率は高いものの、博士号取得者の60%以上が大学の研究機関で働いている点を指摘。「イノベーションの主体が企業である以上、研究結果を商用化に結び付けるためには企業との連携が必要だ。いまは研究のアウトプットが企業と連携できていない。研究結果を商用化できていない状態だ」(キム氏)と分析し、今後は政府も介入し、産官学のコラボレーションを強化してイノベーションを商用化すべきであると主張した。

アジア諸国はもっとリスクテーキングに寛容になるべき〜サイベースCEO

チェン氏写真 米サイベース CEO ジョン・チェン氏

 続いて、米サイベース CEOのチェン氏が「シリコンバレーにおけるイノベーション」と題し、シリコンバレーから見たアジアのイノベーションを語った。サイベースは、データベース関連のテクノロジープロバイダで、チェン氏は1998年からCEOを務めている。

 チェン氏は、いまや世界のイノベーションの中心地となっているシリコンバレーも、決して「1日で成ったものではない。また、偶然できたものではない。長い年月と数多くの失敗を通じて必然的に得たものだ」と説明した。その理由として、チェン氏は「シリコンバレーはほかの文化に寛容な点」と「リスクを許容し、積極的にリスクテーキングする文化の素養がある点」の2点を挙げた。

 同氏によると、シリコンバレーの企業の半分近くは米国への移民か外国人が起業したものだという。特に、ソフトウェアを開発しているプログラマの多くはインドや中国・韓国からの移民だ。また、米国の失敗を認め、リスクを取る勇気を認める文化的素養は大きいと指摘。「私の出身地である香港は、会社をクビになろうものなら、末代までの恥といわれてしまう。しかし、米国ではCEOにより多くの失敗を経験した経営者を連れてくるなど、失敗を財産にした者を尊重する傾向がある。この差は大きいのではないか」とし、アジア諸国はリスクを取ることにもっと寛容になるべきだとアドバイスした。

アジア諸国はもっと基礎研究と知財の保護を重視すべき〜マイクロソフト

スミス氏写真 米マイクロソフト シニアバイスプレジデント&ジェネラルカウンシル ブラッド・スミス氏

 最後に登壇したのは、米マイクロソフトで知財関連を担当するブラッド・スミス氏。スミス氏はまず、アジア諸国のIT周辺事情を評価。例えば、中国における毎年の理科系大学卒業者は米国の4倍いると指摘。日本も米国の2倍、人口が米国の6分の1しかいない韓国でさえも米国と同程度いるとし、「ITに従事する人間の数は、IT人材の強さにつながる。将来的にはアジアがITの中心地になる可能性は高い」と分析した。

 一方で、アジア諸国が米国から学ぶべき点は「基礎研究の重要性」だという。米国は第二次大戦以後、国家戦略として基礎研究を重視。現在シリコンバレーが栄えているのも、「基礎研究が盛んなスタンフォード大学やカリフォルニア大学バークレー校があったから」とした。マイクロソフト自身も「マイクロソフトがここまで巨大になれたのも、ゲイツ氏が早い段階で、基礎研究しか行わない専門の研究所を作った点が大きい。その基礎研究をビジネスにつなげることができているからだ」(スミス氏)と説明した。

 そして、アジア各国に対しては、「アイデアをどう商用化するかが重要。知財の法整備が遅れているのも問題だ」と指摘。「いまは製品の価格競争力だけで勝負している感じがあるが、それも長くは続かない。これからは、ソフトウェアのイノベーション力が重要になる」と予測。そしてスミス氏は、最後に「ソフトウェアの商用化にはいろいろな方法がある。マイクロソフトのようにソフトウェアとして販売する方法や、グーグルのように広告で収入を得る方法もある。まずは知財を確保し、そして商用化の方法を探るべきだ」と強く主張し、講演を終えた。

(@IT 大津心)

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