10ギガビット、IPv6で

DVD転送が5秒から4秒に、東大がネット最高速を更新

2007/05/08

 東京大学 情報理工学系研究科の教授 平木敬氏らを中心とした国際共同研究チームは5月8日、10ギガビットネットワークを使ったIPv6のインターネット最高速度を更新したと発表した。米国学術ネットワーク組織のInternet2が4月24日付でインターネット速度記録を認定した。研究チームはこれまで8回にわたって記録を更新してきた。平木氏によるとこれまでの記録では容量4.7GbyteのDVD1枚を転送するのに約5秒かかっていたが、今回の記録では約4秒で転送できるという。

tokyo01.jpg 東京大学 情報理工学系研究科の教授 平木敬氏

 研究チームは東京から米国シアトル、シカゴ、オランダのアムステルダムを経て、米国ニューヨーク、シカゴ、シアトル、東京に戻る3万2372キロメートルの10ギガビットネットワークを構築。東京に設置した2台のPC間でデータ転送を行って速度を計測した。

 実験は2006年12月30、31日に実施。30日にまずIPv6の転送で平均7.67Gbps、1秒当たり23万100テラビット・メートルの距離バンド幅積を実現した。31日はソフトウェアを置き換えることで、さらに記録を更新する平均9.08Gbps、27万2400テラビット・メートルの距離バンド幅積を達成した。東京大学はこれまで中間スイッチや受信サーバでのパケットロスを極小化する「レイヤ間協調最適化技術」を武器に記録を更新してきたが、31日はさらに独自に開発した「ゼロコピーTCP通信」をソフトウェアで実装し、記録を伸ばした。平木氏によると、ゼロコピーTCP通信は通信時にユーザーメモリからカーネルメモリへのデータコピーを行わず、メモリを共有することでプロセッサの負荷を下げる技術。この技術を使うことで「8Gbpsの壁を越えた」(平木氏)という。

tokyo02.jpg 構築したネットワーク経路

 また、今回の記録はIPv4ベースのインターネット速度記録を初めて上回る値で、平木氏は「IPv6とIPv4の間にテクノロジ的な速度差がなくなってきている。IPv6の実用性を実証した」と話した。

 10ギガビットネットワークで9.08Gbpsの通信速度はネットワークバンド幅の99%を使い切っていることを意味し、極めて高効率。インターネット速度記録に関するInternet2のルールでは、新記録と認められるには従来の記録を10%以上、上回っていることが求められる。99%を使い切る9.08Gbpsは、10ギガビットネットワークでの上限性能と考えられる。平木氏は「次の性能向上には長距離ネットワークの40ギガビット化などが必要」と指摘し、今回の記録は「当分抜かれないだろう」と話した。

tokyo03.jpg 実験に利用したPCサーバ

 研究チームがインターネット速度記録に挑む理由は、地球規模の科学技術研究データの共有を実現するためだ。インターネットの高速通信が可能になれば、高性能なスーパーコンピュータをネットワーク越しに使うことが可能になり、高エネルギー物理、天文学、環境科学、バイオサイエンスなどの研究に寄与する。今回記録更新に使ったマシンは、インテルのデュアルコアXeonを使った「普通のPCサーバ」(平木氏)。価格は50万円程度で、手に入りやすい部品で組み上げたサーバだ。このサーバに独自のソフトウェア技術を組み合わせることでインターネット速度記録を更新した。平木氏は「特殊なマシンを使わなくても10ギガで世界を結べる日がすでに来ている」と強調した。

 研究チームは東京大学のほか、WIDEプロジェクト、JGN2、NTTコミュニケーションズ、米チェルシオ・コミュニケーションズなどで組織する。

(@IT 垣内郁栄)

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