「人を月に送るようなタスク」

マイクロソフトの「Silverlight」開発日誌

2007/06/06

 「Silverlight」――それはインターネットアプリケーション開発の小さな1歩だが、デザイン/クリエイティブプロフェッショナル市場への進出を目指すマイクロソフトにとっては大きな飛躍であるようだ。

 マイクロソフトでWPF(Windows Presentation Foundation)とSilverlightを担当する製品ユニットマネジャーのアイアン・エリソンテイラー氏によると、これまでWindows PCだけにフォーカスしてきた姿勢を改め、各種のデバイスやほかのプラットフォーム上でリッチでグラフィカルなユーザーエクスペリエンスを実現するクロスプラットフォーム/クロスブラウザ対応ツールを開発するという同社の軌道修正は、人類を月に送り込むのにも似た取り組みだったという。

 「ほんの数年前まで、これは不可能なタスクのように思われた」とエリソンテイラー氏は語る。

 「WPFやSilverlightのようなものを実現するのに必要なすべての部品を確保するのは無理だ、という批判を社内外から聞かされ続けてきた。だがわれわれは成功を信じ、何とかやり遂げた。WPFの開発には6年間という歳月を費やし、その後間もなくしてSilverlight部分を完成させた。これはまさしくマラソンのように感じられ、ある意味では人類を月に送り込むのにも匹敵するようなタスクに思えた」(同氏)

2001年にWPF開発計画を発表

 事実、Silverlightプロジェクトが開始したのは、マイクロソフトがWPFの開発計画を発表した2001年のことだった。WPFはWPF/Eの前身となる技術である(WPF/EはSilverlightのコードネームだった)。

 コロラド州ボルダーにあるElectric Rainのマイク・スーシーCEOは、「マイクロソフトは巨大空母のような企業だが、必要なときには方向転換することができる」と話す。

 カリフォルニア州パロアルトに本社を置くFrog Designのデザイナー、リー・ブライムロー氏は、「マイクロソフトがデザイナーに触手を伸ばすというのは、ちょっと不似合いな感じがする。しかし彼らはきっと何か強力なツールを出してくると思う」と話している。

 Frog Designでエグゼクティブクリエイティブディレクターを務めるマーク・リガメリ氏は、「彼らはアドビシステムズと真っ向から対決しようとしているが、この戦いの主役になるのは面白いと思う」と付け加える。

 エリソンテイラー氏によると、同氏の開発チームは、このプラットフォームの開発に適した人材がそろっているだけでなく、プラットフォームの次の段階に必要なツールについて相談するのに適した人がいると感じていたという。「しかしデザイナー面の事柄に関しては手助けが必要だった」と同氏。

 開発チームはマイクロソフトのスティーブ・バルマーCEOとの会合を求め、「われわれがやろうとしていることを説明するとともに、デザイナーにフォーカスした新タイプのツールが必要であり、これは当社が以前にやったものとは同じではないことを熱心にアピールした。われわれは『どこかの企業を買収するか、もしくは自社で開発する必要がある』と言った」とエリソンテイラー氏は語る。

 同チームは、デザイナーツールを開発する必要性およびデザイナーにアプローチする必要性について述べた40ページの上申書を作成した。「スティーブは1枚目のスライドを見て言った。『よく分かった。それで、これをどういうふうに進めるつもりなのかね?』と」(同氏)

Webをサポートするグラフィックインフラ

 こうして、Avalon、デザイナーツールのMicrosoft Expressionシリーズ、そしてその後にSilverlightを開発するという取り組みが開始した。

 Avalonは当初の計画よりも少し時間がかかったが、2005年初頭から半ばのあたりで、「AvalonとWPFの開発は十分軌道に乗ったと判断したため、WPFのクロスプラットフォーム/デバイスサポートについて真剣に考えられるようになった」とエリソンテイラー氏は話す。

 「この取り組みは少数のスタッフでスタートし、そこから拡大していった。Windows Vistaと.NET 3.0が出荷されると、一部のリソースが解放されたため、われわれは真剣に取り組み始めた」(同氏)

 マイクロソフトの目標は、同社がWindowsで開始した連続性を構築することであった。「Windowsの開発は大成功だったが、新しいプラットフォームとWebをサポートするためにグラフィックインフラを刷新する必要があると考えた」とエリソンテイラー氏は説明する。

 「しかしそのモチベーション自体は、開発部門におけるあらゆる取り組みのモチベーションとほとんど変わらなかった。つまり、開発者がターゲットにする魅力的なプラットフォームを作るということである」と同氏は付け加える。これは結局、程度の問題ということになったという。つまり、 マイクロソフトがWPFのサブセットにどれだけ注力できるのかということである。「サイズと機能をめぐって果てしない議論が始まった。WPFのすべての機能を取り入れることができないのは分かっていた」とエリソンテイラー氏は語る。

 舞台裏では、外部のデザイナーや開発の協力も得た。彼らをマイクロソフトに招き、開発中のコードを使ってもらったという。「プロのアーティストやWebデザイナーに会社に来てもらって、われわれと一緒に社内で1週間過ごし、クールで使いやすく、加工しやすいエクスペリエンスを構築するのを手伝ってもらったほか、重要なフィードバックも提供してもらった」(同氏)

クロスプラットフォーム環境が課題

 しかし技術的な面では、クロスプラットフォーム環境においてグラフィックで高いパフォーマンスをどうやって実現するかということが1つの課題であったという。「Windowsだけなら簡単だった。しかしクロスプラットフォームソリューションを提供するのに、そんな贅沢は言っていられない。ほかのプラットフォームに照準を合わせ、少ないリソースから大きなパフォーマンスを引き出す努力をするしかないのだ」とエリソンテイラー氏は話す。

 最大の問題の1つとなったのがWebブラウザの違いである。「異なるブラウザの間で、またブラウザの異なるバージョンの間で微妙な違いがたくさんあったため、こういった違いを避けるようにコーディングする必要があった」(同氏)

 開発チームは、個々の機能と各機能のサイズ、そしてそれを小さくするのに必要な作業量をまとめた表を作成した。

 「CLR(Common Language Runtime)チームおよびビデオコーデック開発チームがそれぞれのコンポーネントを小型化したり、想定されるシナリオでは不要な機能を削除したりする作業を申し出てくれるなど、幸運に恵まれたこともあった」とエリソンテイラー氏は振り返る。

マイクロソフトはアドビを追わない

 これによりマイクロソフトは、伝統的にデザイナー市場を支配してきたアドビと真正面から競争できるソリューションを提供できるようになった。

 しかしマイクロソフトのデベロッパー部門で製品管理ディレクターを務めるフォレスト・キー氏は、「われわれがアドビを追いかけるというのは、われわれはリンゴが好きで、ほかの人もそうだというのと同じようなものだ」と話す。キー氏は以前、マクロメディア(現在はアドビの一部門)で働いた経験がある。

 「アドビがやったことを基準にして市場機会全体を説明するのは、当社にとって名誉なことではない。われわれはアドビがいる地点を目指しているのではない。当社の技術はもっと広範な市場を狙ったものであり、当社の戦略はもっと包括的なものだ。これはプラットフォーム企業としての幅広さと厚みを当社にもたらすだろう」とキー氏は語る。

 また、マイクロソフトの戦略はアドビを追いかけることであるという説明は、「1990年代末のマイクロソフト」というのに近いという。「われわれはもうそんな企業ではない。勝つためには、われわれはオープンソースソフトウェアなどあらゆるものに対する競争においてベストなソリューションを提供しなければならない。最初にMacでデモを行うのもそのためだ。われわれがクロスプラットフォームについて真剣に考えていることを示すのに一生懸命になっているのもそのためだ」と同氏は話す。

 キー氏によると、マイクロソフトの戦略は複数年にわたり、SaaS(サービスとしてのソフトウェア)(マイクロソフトでは「ソフトウェア+サービス」と呼んでいる)をも包含するという。

 マイクロソフトがリッチなプレゼンテーションツールおよびリッチなエクスペリエンスを提供するという戦略を開始して約5年になるが、「この構想を柱とするビジネスを構築するという意味では、われわれは出発点に立ったところだ――やっとExpressionとSilverlightを出荷しようとしているのだから」(キー氏)

原文へのリンク

(eWEEK Darryl K. Taft)

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