エンタープライズ2.0の本質は「ヒト中心」

“軍隊2.0”に学べ! いま必要な組織改革とは

2007/09/26

 企業内の情報システムにブログやSNSを入れれば、それでエンタープライズ2.0だという風潮があることに危惧を覚える――。9月26日、都内で開かれた「REALCOMエンタープライズ2.0DAY」のキーノートスピーチで講演を行ったリアルコム 取締役CMOの吉田健一氏は、ややもすればマーケティングのためのバズワードと見られがちな“エンタープライズ2.0”の本質を見極めるよう訴えた。

ユーザー主導の潮流が組織のシステムに影響

realcom01.jpg リアルコム 取締役CMO 吉田健一氏

 エンタープライズ2.0とは「Web 2.0の技術やコンセプトに影響を受け進化する次世代企業情報システム」。そう定義した上で、吉田氏はエンタープライズ2.0の本質的特徴を次のように説明する。

 1つは「ITコンシューマライゼーション」。1950年代の誕生以来、コンピュータやネットワークの技術は軍事や産業向けに開発され、それが消費者向けとして提供されるのが一般的だった。それが今では逆転し、ブログ、SNS、iPodなど消費者向けのサービスとして生まれた技術がエンタープライズ用途に流れ込むようになった。「Web 2.0と呼ばれるコンシューマー向けサービスの進化は速く、企業向け情報システムとの使い勝手や機能の差はますます大きくなっている」(吉田氏)。グーグル、スカイプ、ウィキペディア、mixiなどのSNSを使いこなす若い世代、いわゆる“デジタルネイティブ”と呼ぶべき新世代が今後会社や組織に入ってきたとき、オフィスの情報システムの使いにくさにストレスを感じるようになる。新世代といわなくとも、すでにコンシューマー側から起こりつつある変化は組織に浸透し始めている。ある企業のCIOは、mixi上に会社のグループができ、そこで会社の重要情報がやり取りされているのを知り、情報統制強化の観点から後追いで社内SNSの導入検討を始めたという。「新しいツールについてはエンドユーザーのほうがITベンダーや情報システム部門より詳しいこともある。エンドユーザーが力を持ってきた」(吉田氏)。

 吉田氏はエンタープライズ2.0の本質的な特徴として、さらに「ヒト中心」というコンセプトを挙げる。これまでの情報システムはシステムやデータベースを中心に据えて設計していたが、組織や個人といったヒト中心のWeb 2.0的な考え方を適用できるのではないかという。

Web 2.0とエンタープライズ2.0の違い

 Web 2.0が組織の情報システムに影響を与えているとはいえ、Webとエンタープライズでは根本が異なる。吉田氏はこう指摘する。「Webは数億人の1%が、楽しいとか便利という理由で使う。しかし、エンタープライズは数百から数万人のうち、少なくとも8割に使ってもらわないと稟議が通らないということになる。利用動機も楽しさではなく、業務課題の解決にある」。求められるサービスの品質も、無料サービスと業務システムとでは自ずと異なる。

 社内Wikiを立ち上げただけで、自然と組織内の暗黙知が集合知として立ち現れるというものではない。「Web 2.0ツールはコストが安くて手軽。部門でパイロット導入するケースが多いが、そこから全社展開して成功するという例は少ない」(吉田氏)。とりあえず入れてみるというアプローチではなく、コミュニティや集合知で解決するべき経営課題を明確にし、そのための解決策としてツールを取り込まなければ成果は上がらない。こうした観点からリアルコムが重視するのがIT以外の運用面も重視したコンサルティングだという。

 例えば大手建設会社のコンサルティングを行った事例では、知識を共有、流通させるために、細分化した技術分野ごとにコミュニティを構築したという。事業部や部、課といったビジネスユニットを「第1の組織」、タスクフォースやプロジェクトチームを「第2の組織」とすれば、コミュニティは「第3の組織」に当たるという。これだけ聞くとmixiのグループと同じように思えるが、各コミュニティには役割が明確に定義された担当者、専門家、準専門家などを設置。知識のやり取りをスコアリングして人事評価システムとリンクさせるなどして知識や情報の流通を体系化したという。

エンタープライズ2.0は「情報系システムのERP」

 集合知に加え、エンタープライズ2.0による具体的なソリューションとしてリアルコムが有効と考えるのが「マッシュアップ」だ。EAIやSOAが業務系システムの連携・統合であるのに対して、ここで言うマッシュアップは情報系システムを統合するものという。「現在の市場環境は1990年代に統合が行われたERPと似ている」(吉田氏)。ERPが販売、配達、請求、在庫、会計といった個別の業務系システムを統合したように、メール、Notes、グループウェア、ファイルサーバ、社外のWebサイトやASPサービスなどを統合する「情報系のERP」のニーズが高まっているという。

 Webサービスでマッシュアップといえば表示レイヤでの統合を意味することが多いが、リアルコムの描くビジョンでは、各種アプリケーションの最下層に「Aurora Platform」と呼ぶコンテンツ統合ミドルウェアがある。Aurora PlatformはユーザーのID、アクティビティログ、メタデータをデータベースとして持ち、ファイアウォールやアプリケーションの違い、ベンダの違いを越えて情報システムを統合するプラットフォームだという。

“軍隊2.0”の組織変革に学ぶべきもの

 エンタープライズ2.0が目指すものは、リアルコムが掲げるビジョンと一致するのだという。同社は「21世紀型の組織」として、固定的な階層型組織ではない、ヒトとヒトが組織を越えて有機的につながったネットワーク型の組織の実現を提唱している。

 階層型からネットワーク型への転換は、1990年代前半に勃発したソマリア内戦で苦戦を強いられた米国陸軍が行った組織改革と同等のものだという。

 1993年、軍事独裁政権崩壊後に事態収拾を目指した国連軍は、市民かゲリラか判別が付かない神出鬼没の武装勢力を相手に大規模市街戦に突入した。このとき各部隊と司令本部とのコミュニケーションが円滑に行かず、戦場にいた各部隊が混乱状態に陥ったという。その結果、米軍はヘリを2機撃墜され18人の犠牲者を出す。その惨状がメディアで伝えられたことが引き金となって米国世論が沸騰、クリントン政権は米軍撤退を余儀なくされた。

 この敗退の経験から20世紀型の軍隊組織に限界を感じた米国陸軍は、米国陸軍は“21世紀の軍隊”(Force XXI)と名付けた次世代陸軍ビジョンを発表する。「軍隊2.0と呼んでもいいが、上意下達の階層型組織から各部隊がネットワークで情報を共有するネットワーク型に転換した」(吉田氏)。新組織では、それまで司令部の許可が必要だったロケット砲発射の権限が末端の兵士に委譲され、各兵士が状況をリアルタイムで判断をして自律的に動くようになった。

realcom02.jpg 米国陸軍が行った組織改革の概念図

 こうしたネットワーク型組織への転換は、経営環境がめまぐるしく変わる企業にとっても有効な組織改革ではないか。上司に言われたことをやるだけでなく、関係する人々がコミュニケーションを取り合いリアルタイムに課題を解決していく。吉田氏は、そうしたワークスタイルの実現を支援していくのがITシステムであり、エンタープライズ2.0が目指すべき世界だして話を締めくくった。

関連リンク

(@IT 西村賢)

情報をお寄せください:



@ITメールマガジン 新着情報やスタッフのコラムがメールで届きます(無料)