IPAがシンポジウム開催

日本のベンダも「GPLv3利用に委縮することはない」

2007/12/21

 2007年6月に、Free Software Foundation(FSF)によってGNU General Public Licenseバージョン3(GPLv3)が正式にリリースされてから約半年が経過した。オープンソースコミュニティはともかく、企業が受け入れるにはハードルが高い内容だと指摘されたこともあったが、その懸念は杞憂に終わるかもしれない。

 情報処理推進機構(IPA)が12月21日に開催した「ソフトウェアライセンシングと知財問題に関するシンポジウム」の中で、日比谷パーク法律事務所の上山浩弁護士は次のように述べた。「GPLv3が策定されている最中には、日本企業の担当者からは『企業にとって使いにくいものになるのではないか』という声が聞かれた。中には、『FSFは企業にGPLv3を使ってほしくないのではないか』という声もあったくらいだが、それははっきりいって誤解だと思う」

 GPLv3の前身に当たるGPLv2は、ソフトウェアを自由に実行し、改変し、頒布し、さらにその変更点を公開できる権利をうたったもので、1991年に策定された。だが、それから十数年の間にソフトウェアを巡る環境は激変した。これを踏まえて策定されたのがGPLv3で、正式に公開されるまでに4度のドラフトを経て、内容について議論が交わされてきた。中でも物議を醸したのは、DRM(デジタル権限管理)やソフトウェア特許への対抗条項だ。

 これらとは別に、デジタル家電や携帯電話といった組み込み機器にGPLで配布されているソフトウェアを搭載し、販売している企業にとっても、いくつか現実的な問題が浮上した。

 その一例が、SuSEを巡る米マイクロソフトとノベルの提携に対抗して盛り込まれたセクション11の条文だ。この条項では、差別的な特許契約を結んだソフトウェア配布者は、GPLv3が適用されているソフトウェアを配布できないとしている。これを文言通りに受け止めれば、クロスライセンス契約を結んだ上で、フリーソフトウェアを組み込んだ機器を販売しているベンダも、抵触する可能性がある。しかし、FSFの法律顧問を務め、GPLv3の執筆に携わっていたエベン・モグレン(Eben Moglen)氏に確認したところ、「問題ないという回答だった」(上山氏)

 もう1つの論点は、「インストール情報の開示」を巡るものだ。元々この条文は、セットトップボックスに搭載されたソフトウェアを、ベンダだけでなくユーザーもまた改変し、実行できる権利を担保するために明文化された。

 だがこれも、文字通り受け取ると、安全性の面から別の問題が浮上する恐れがある。例えば、搭載ソフトウェアをユーザーが改変した結果、安全性の観点からは望ましくない改造が加えられ、ユーザーの身体に危害が及ぶ可能性も考えられる。事実、最近の組み込み機器には放熱が多いものも増えており、これをコントロールする機構に改変が加えられることを懸念する声もあると上山氏はいう。

 この部分をただしたところ、FSFとして、安全性の観点からこの条項に制限を掛けることはできないという回答だったが、一般的な規制に従っている場合は大目に見るという感触も得られたという。これを踏まえて同氏は「どこまで許容できるのかを明確にしていく必要があると思う」と述べている。

 ただ、そもそもGPLv3は、フリーソフトウェアの思想や価値観を維持しながら、それが広く使われていくために、企業ユースとの調和点を見つけていきたいという意図の元、徹底した討論を経てまとめられたものだと上山氏は強調。それを踏まえると、「GPLv3を企業として使う意味は十分にあると思う。まだ明らかにしていくべき点もあるが、利用に対して委縮することはないのではないだろうか」という。

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(@IT 高橋睦美)

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