“失敗プロジェクト”撲滅活動で成果、NEC組織改革とツール・手法の標準化で3K体質も改善

» 2008年02月06日 00時00分 公開
[西村賢,@IT]

 いちばん恐ろしいのは要求仕様も(顧客と受注側で)合意していないSI案件があったことだ――。2004年前後に多発したシステム開発案件での失敗プロジェクトの反省から、NECが体質改善を進めている。“SI事業の近代化”を旗印に、対外的には各種ソリューションの発表、内部的には組織横断的な改革プロジェクトを走らせている。包括的に組織を改編を進めているほか、プロジェクトの定量的分析から得た知識を体系化した方法論の共有も全社的に進める。

 組織面では、まず営業部隊を改変。「駄目プロジェクトになるのは、上流工程に問題があるケースが多い」(NEC取締役 執行役員専務 相澤正俊氏)ことからコンサルティング面を強化する。これまでビジネス戦略分析やシステム提案に始まり細かな連絡業務まで、個別担当者が担当してきた仕事を、役割ごとに明確に分担する。担当業界に詳しく戦略的なビジネスモデルを提案できる“ビジネスモデルコンサルタント”、システム開発のエキスパートである“システムモデルコンサルタント”を現在の27名から、今後3年間で160名体制へと強化する。背景には、ITシステムが以前にも増して複雑化、多様化したことがある。例えばSuicaのような電子マネーに象徴されるように、業際化によるシステム連携が進み、「顧客依存の仕切りでは立ちゆかなくなってきた」(相澤氏)。

NEC取締役 執行役員専務 相澤正俊氏

 今後、上流工程のコンサル業務にアサインされる人材は「30代半ばから40才前後の“若いがデキるやつ”と言われている社員たち」(相澤氏)で、待遇面も改善していく。

 上流工程における顧客とのコミュニケーションをより密にすることで、システム開発の後半にさしかかった段階で発生する無駄な仕様変更や軌道修正など、不要な“手戻し”を避けられる。NECが請け負うプロジェクトのうち、このような手戻しが発生してプロジェクトが遅延するのは例外的なケースだが、「1件のコストが数十億円にのぼることもある」(システム技術統括本部 本部長 辻孝夫氏)など経営上のリスクが大きいことが課題だった。

 開発ツールの標準化と流用、プロジェクト管理手法の標準化も進める。

 フレームワークやテンプレートからJava、.NET開発のツール、手順書やドキュメントサンプルに至るまでのシステム開発のベストプラクティス集「SystemDirector Enterprise」(SDE)は、金融、小売業チェーン、鉄道、製造業など、ほとんどの業種にわたり、約250プロジェクトへの適用実績を積み上げた。こうした標準化により「要件定義から総合テストまでで生産性は10〜20%向上した」(辻氏)という。今後3年間でSDEの適用プロジェクト数を1200まで増やし、現在の1.5倍の生産性を目指す。

 NECでは、こうした各種の改革を進めた結果、“手戻り”などによるロスコストを2005年度の100億円から2006年度には約半分の50億円程度に縮小したという。

 プロジェクト管理の面では大規模案件向けに社内で蓄積・利用してきたベストプラクティス集「APPEAL」を、中小規模プロジェクトも含め、「100%適用を目指す」(辻氏)ほか、プロジェクトを直接担当しない第三者的立場からプロジェクトを各進行段階で審査する部門を、各ビジネスユニットと事業本部レベルの二段構えで設ける。

 かかった工数が支払う料金――、そんな人月商売がまかり通ってきた業界だが、NECでは生産性向上とCS向上で「個々の案件の単価が下がることはありうるが、受注自体を増やしていく」(相澤氏)と意欲的だ。

 現在、日本企業の多くはコストのかさむ既存システムの運用で手一杯。戦略的IT投資にまで手が回らないと言われる。改革を進めるNECはプロジェクトの生産性と満足度を高めることで冷めた日本企業の投資マインドをITに振り向けられるか。失敗プロジェクトの犠牲となり“3K”とまで言われる開発現場の健全化や、近代化を図れるか。業界大手の一角を占めるNECが果たすべき役割は小さくない。

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