2008 JavaOneレポート

ソフトの値札で許されるのは「無料」だけ、サンCEO

2008/05/08

 「ソフトウェアに対して付けてもいい唯一の値札は“無料”だけです。われわれはSolarisやJavaといったソフトウェアを配布することで対価を得ていません。それでは一見儲からないように見えるので直感に反するのですが、われわれのビジネス全体のポートフォリオの中で見れば、この戦略は合理的なものです」

jonathan01.jpg 米サン・マイクロシステムズCEO兼取締役社長のジョナサン・シュワルツ(Jonathan Schwartz)氏

 米国サンフランシスコで開催中の2008 JavaOneで会見した米サン・マイクロシステムズCEO兼取締役社長のジョナサン・シュワルツ氏は、同社が推進しているオープンソース戦略について改めて語った。

 シュワルツCEOによれば、コードネーム「Niagara」で知られる同社のUltraSPARC T1/T2プロセッサ関連製品の売り上げは過去1年で110%の伸びを示しており、これはJavaやSolarisといった同社のオープンソース製品の普及によるところが大きいのだという。

 「より技術をオープンにしていけば、それだけ開発者の間での利用が増え、そのことによってサンはビジネスチャンスを拡大できるのです」(シュワルツCEO)

 シュワルツCEOはソフトウェアが無償であることの重要性と、そのこととサンのビジネスの拡大とは矛盾しないということを、自らが体験した3つのエピソードを交えて説明した。

 1つはFacebook創業者との会食で「どうしてMySQLを選んだのか」と質問をしたときのことだ。Facebookを立ち上げた当時、ハーバード大学に在学中の若い開発者にとっては「無償だったから」というのは必然的な選択で、むしろ質問されたFacebook創業者は火星から来た異星人を見るような目でシュワルツCEOを見たという。

 もう1つのエピソードは空港のロビーで搭乗案内を待つ間に背後から聞こえてきた高校教師らしき人たちの会話のエピソードだ。思わず身を乗り出して聞き耳を立てたシュワルツCEOは、こんな会話を耳にしたという。

 「子どもたちが送ってきたレポートのファイルが開けないんだよね」「どうして?」「さあ、分からないけど、何でもOpenOfficeというのを使って作成したんだとか」

 この2つのエピソードからシュワルツCEOが指摘するのは、実は世界の大部分の人は、オフィススイートをはじめ「ソフトウェアに払うようなお金を持ってない」ということだ。途上国ではオープンソースの利用が進んでいるが、これも同様の理由によるところが大きい。サンは本国アメリカでのビジネスは直近の決算によれば売上ベースで約10%のマイナス成長と厳しい数字になったが、BRICs各国では大きく売り上げを伸ばしている。単に先進国の経済成長の停滞を新興国の伸びが補うという構図にも見えるが、次のエピソードからは同社がいう「ポートフォリオ」の意味がよりはっきりと分かる。

 ある大企業に対して提供したソリューションで、サンは非常に高額な請求を行った。その企業の経営者はクリスマスシーズンの繁忙期にシステムトラブルが発生するのではないかと心配で、シュワルツCEOに、万一のときのために自宅の電話番号を教えろと迫ったという。何かあればクリスマス当日の深夜だろうが電話して呼びつけるという意味だ。シュワルツCEOは、これに応じた。

 サンが提供したソリューションがオープンソースのソフトウェアとしてタダで入手できるものであると後に知った件の経営者は、サンの高額な請求に腹を立てた。そのときシュワルツCEOは「オープンソースなら無償です。その代わり、クリスマスに私の自宅に電話なんてかけられませんよ」と答えたという。

 サンは時に予算が何億ドルにもなるデータセンター向けのソリューションを提供する企業で、そこにビジネスの主軸がある。しかし、同社の製品ポートフォリオやR&Dは、そうしたハイエンドの世界から、無償で提供するソフトウェアまで幅広い。無償でソフトウェアや技術を提供し、開発者たちに使ってもらうことで裾野を広げ、Fortune 100にランクインするような大きな銀行や証券会社といった企業に対して高度な製品・サポートサービス提供を行うことができるのだという。

 ジョナサンCEOは、こうした収益構造のあり方は航空会社のビジネスモデルに似ているという。「航空会社は収益のほとんどをファーストクラスの高額な料金から得ているわけですが、だからといってエコノミークラスの乗客を無視するのはナンセンスです」。異なるニーズを持つ乗客に対してサービスを向上させ、自社サービスを選んでくれる顧客の層を広げることが航空会社にとって大切だ。それと同様にサンは、多くの開発者やシステムインテグレータに自社の製品・技術を使ってもらうことが至上命題というわけだ。

データセンターの世界でもコンシューマライゼーション

 Web 2.0関連のソフトウェアやサービスがエンタープライズに流入しつつあるのと同様に、データセンター向けテクノロジの世界でも、こうした「コンシューマライゼーション」に似たプロセスが加速する。それがサンの予想だ。

 「絶対にコンシューマへの普及の力を甘く見てはいけません。1人のCEOが何を言ったところで、コンシューマが(ITを使った)ビジネスのやり方を決めるような時代ですから、CEOとしては即刻コンシューマの選択を追いかけるべきです」

 サンがコンシューマというとき、それはビジネスパーソン、あるいはITを活用する人々一般を指しているようだ。シュワルツCEOは早口でまくし立てる。

 「コンシューマは開発者が作ったデバイスやサービスを使いたがるものです。ちょっと考え方を変える必要があるのです。好むと好まざるとに関わらず、コンシューマはグーグルを使うのです。CIOはグーグルを選びませんでした。CIOの誰一人としてiPhoneを選びませんでした。どのCIOもLinkedInを選びませんでした。どのCIOもFacebookを選びませんでした、どのCIOもmixiを選びませんでした、百度、QQ、楽天……、いくらでもこのリストを続けられますが、コンシューマに支持されているこうしたデバイスやサービスを選ぼうとしたCIOなんて誰一人としていません。しかし、彼らこそ5年先のデータセンターのアーキテクチャを再定義しつつある人たちなのです」。

 ビジネスマネージャやプロデューサではなく、開発者が密接に関わって出てきたサービスやデバイスがコンシューマに支持されている。そうした勢いのあるIT系ベンチャー企業で開発者たちが使うのはMySQLだったり、RubyやPython、PHPといったオープンソースソフトウェアだったりする。サンは2008年初頭にMySQLという大きな買い物をしたほか、JavaVM上のRuby実装、Python実装であるJRubyやJythonの開発者を雇い入れるなど、これらの分野への投資を継続している。すでに統合開発環境のNetBeansでRubyをサポートしているほか、PHPについても最新のNetBeans6.1でテストサポートを開始している。また、データセンター向けストレージ関連技術として、高機能ファイルシステム「ZFS」、Windows向けファイルサーバ「CIFS server」、大規模ディスクアレイソフトウェア「Open Honeycomb」、iSCSIやファイバチャネルの管理ソフトウェア「iSNS server」など多くのストレージ向け技術をオープンソースで公開している。こうした無償のオープンソースへの投資は、航空会社でいえばエコノミークラスの乗客の乗り心地を改善することに等しいということなのだろう。

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(@IT 西村賢)

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