J-SOX対応コストをバリューにつなげる、After J-SOX研究会「内部統制成熟度モデル」を公開

» 2008年05月20日 00時00分 公開
[吉村哲樹,@IT]

 After J-SOX研究会は5月20日、企業の日本版SOX法対応における現状の課題と、将来の指針を示す「内部統制成熟度モデル」について説明会を行った。

 After J-SOX研究会は、対応コストによる企業体力低下が危ぶまれる日本版SOX法を、逆に日本企業の国際競争力強化の契機とするための施策提唱を目的とし、2007年11月に非営利組織として発足した。ITベンダやコンサルティングファームを中心に36社106名の会員が所属し、研究活動および情報発信を行っている。

 同研究会の運営委員である日本オラクル 製品戦略統括本部 担当ディレクターの桜本利幸氏は、企業の日本版SOX法対応における現状と課題について次のように説明する。

写真 日本オラクル 製品戦略統括本部 担当ディレクター 桜本利幸氏

 「各調査結果によると、現段階では半数以上の企業が内部統制に必要な文書化作業をまだ終えていない。また内部統制の運用体制も、約20%の企業が2008年度末までには整備できないとしている。監査法人による予備監査やレビューを実施している企業も、半数に満たない。こうした対応遅れの主な原因としては、要員の数・スキルの不足を挙げる企業が多い」(桜本氏)

 また同氏は、内部統制監査を担当する監査法人の対応方針も未だ確定していない部分が多く、これも企業の対応遅れの要因の1つだと指摘する。このような状況下で、日本版SOX法の適用初年度は「さまざまな異なる理解・解釈が出てくるだろう。制度運用が落ち着くまでに、2年はかかると見ている」(桜本氏)という。

写真 アビームコンサルティング プロセス&テクノロジー事業部 プリンシパル 永井孝一郎氏

 同研究会運営委員であるアビームコンサルティング プロセス&テクノロジー事業部 プリンシパル 永井孝一郎氏は、企業が日本版SOX法対応に要するコストについて「監査時間が2倍弱まで膨らむと見ている。また、社内での内部統制評価にも、多くの企業が現在見積もっている工数の2倍近くを要すると思われる。こうしたコストは運用2年目から半減すると予想する企業が多いが、米国SOX法の例では2年目で16%減、3年目で3分の1が減ったにすぎない」と指摘する。

 一方、米国におけるSOX法対応では、業務を集中して処理・管理している企業は、分散管理している企業に比べ対応コストが半分以下しかかかっていないという調査結果も出ている。「企業グループ全体で業務の標準化と集中化を進め、連結経営へシフトしていくことが、SOX法対応コストの削減と内部統制強化、ひいては企業競争力の強化へとつながっていく」(永井氏)

写真 立命館大学大学院 テクノロジー・マネジメント研究科教授 田尾啓一氏

 そのキーとなるのが、ERM(統合リスクマネジメント)だという。同研究会の会長である立命館大学大学院 テクノロジー・マネジメント研究科教授 田尾啓一氏は「ERMは、リスクとリターンを統合して管理する考え方だ。企業がその価値を高め、持続的に成長していくためには、利益追求と内部統制のバランスをとることが重要。これをERMの考え方に基づき実践するためのモデルが『内部統制成熟度モデル(企業価値向上モデル)』だ」と同モデルの意義を説明した。

 内部統制成熟度モデルは、レベル1から5までの5段階に分かれている。レベル1は企業グループ内の個々の会社が主体となって必要最小限の内部統制を行っている状態で、“Before J-SOX”と位置付けられる。現在多くの企業はレベル2、J-SOXベースの内部統制に取り組んでいる段階にある。レベル3以降は“After J-SOX”の段階と位置付けられ、より広い範囲で業務の標準化・集中化を行う。最もレベルの高いレベル5では、企業グループ全体での「グローバル連結経営」「グローバルERM」を実現する。「単なる規制対応としてではなく、日本企業が今後グローバルレベルでの競争力を強化するためにも、今後3〜5年間でレベル5の段階まで達することが望ましい」(田尾氏)

 同研究会は今後、セミナー・メディア記事などを通じて同モデルに関する情報を広く発信しつつ、具体的な課題とそのソリューションについて引き続き研究活動を行っていく予定だという。

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

注目のテーマ