開発者はパッケージソフトウェアとクラウドのどっちを選ぶか?セールスフォースCEOのベニオフ氏が講演

» 2008年07月03日 00時00分 公開
[大津心,@IT]

 セールスフォース・ドットコムは7月3日、同社の開発者向けイベント「Tour de Force Tokyo」を開催した。基調講演では、米セールスフォース・ドットコム CEO マーク・ベニオフ(Marc Benioff)氏が同社の戦略や展望などについて講演した。

SaaSのキモは「マルチテナントモデル」と「従量課金」

 ベニオフ氏は冒頭、情報システムの中心がメインフレームから1990年代にはクライアントサーバ型へ、2000年代からはSaaSへと変遷してきていると指摘。SaaSにとって最も重要な要素に「マルチテナントモデル」と「従量課金」の2つを挙げた。

ベニオフ氏写真 米セールスフォース・ドットコム CEO マーク・ベニオフ氏

 マルチテナントモデルが重要である点についてベニオフ氏は、自身が同社を設立した当初を振り返り、「会社を起業して一番最初にやったことは、シスコに電話してネットワーク回線を引き、オラクルに電話してデータベースを購入した。さらに、ストレージやサーバなど、さまざまなものを自分で用意しなければならなかった。そしてすべてが用意できた後、初めてアプリケーション開発に入ることができた。この設備を用意する時間や投資額をマルチテナントモデルにすることで大幅に効率化できる」と説明。マルチテナントは、インフラ部分をアウトソースすることでコア事業に注力できるメリットがあると強調した。

 その点、セールスフォース・ドットコムは創業以来インフラへの投資を続け、3億ドル以上の投資を行ってきたことで、1日1億5000万トランザクション、1四半期で100億トランザクション、平均レスポンス速度210msを実現するまでに至ったという。「マルチテナントを実現するために当社が9年間に渡ってインフラに投資してきた結果、現在、中小企業から大企業までさまざまなニーズに応えられるインフラ環境を整えることができた。私が創業時に苦労したインフラへの労力は、SaaSを利用することでまったく気にせず利用することができる。従って、ユーザーの皆さんはその資源をよりコア事業に投資できるはずだ」(ベニオフ氏)と語り、SaaSのメリットをアピールした。

これからの10年間は“PaaS”に注力していく〜ベニオフ氏

 ベニオフ氏は、これまで注力してきたSaaSの今後の方向性について、「これからは『Web 3.0』『クラウドコンピューティング』『PaaS』の時代だ。当社は今後10年間、エンタープライズ向けクラウドコンピューティング、つまりPaaSに注力していく」と断言。「従来のアプリケーション開発、例えば.NETで開発する場合、開発コストが高く、複雑でリスクを伴うものだった。その結果、多くのソフトウェア開発プロジェクトが失敗に終わっている。しかし、Web 3.0時代のPaaSの上であれば、そのリスクを抑えつつ、開発することができる」(ベニオフ氏)と説明した。

 同氏はPaaSの例として、CPUパワーやストレージを提供する「Amazon Webサービス」、ソーシャルアプリケーションの「Facebook」、Webアプリケーションの「Google Apps」、エンタープライズアプリケーションとしての「force.com」などを挙げ、これらが有効に活用されているとした。

 そして、現在同社が提供しているPaaSである「force.com」の状況を説明。1日1億5000万トランザクション、毎秒16万SQL文を処理しているほか、APIコールも1カ月19億回に上っているという。また、salesforce.com上で利用できる開発言語「Apexコード」を公開したことで現在380万行のApexコードがsalesforce.com上で利用されており、カスタムインターフェイスも1万1700以上利用されているとした。

 ベニオフ氏は、「当社のプラットフォームの特徴は、『メタデータAPI』を公開している点だ。Eclipseをオンデマンドで提供しているようなものだ。これにより、ユーザーが独自で構築し、salesforce.com上で自社利用しているオリジナルアプリケーションが6万9000種類以上存在している。これがPaaSの魅力の1つだ。これから開発者は、従来のパッケージソフトウェア開発とクラウドコンピューティングやPaaS向け開発のどちらの道を選ばなければならなくなるだろう」とした。

自分たちでPaaSを作っていたら2年かかっていた〜CODA CEO

 ベニオフ氏に紹介されて登壇したのは、英CODA社 CEOのジェレミー・ロシュ(Jeremy Rosh)氏。CODAは30年以上会計ソフトを提供していたソフトウェアベンダで、現在force.com上で会計ソフトを提供している。

 ロシュ氏は、force.com上で会計ソフトを開発した根拠について「当社はいままでパッケージ型の会計ソフトを提供してきた。そして、新たにSaaS型で会計ソフトを提供すると決めたとき、2つのチョイスがあった。1つ目が自社でSaaSを開発することで、2つ目がインフラを借りてPaaS上で提供する方法だ。結果、後者を選んだわけだが、もし前者を選んでいたらSaaSを提供するためのインフラ部分を開発するのに2年以上かかっていただろう。当社はPaaSを利用することで、それを数カ月に短縮することができた」とPaaS利用のメリットを説明した。

デモ画面 英CODA社が開発したsalesforce.com向け会計ソフトのデモ画面。各種会計処理をワークフローに沿って利用することができる

 さらに、force.comを利用するメリットとして「企業の会計担当者は、営業担当が入力するCRMのデータを使って、会計作業をするだけでよくなる。会計作業の効率・正確性は大幅に上がるだろう」と説明した。

 続いて、セールスフォース・ドットコムのパートナー企業であるテラスカイの社長である佐藤秀哉氏が登壇し、force.comやvisualforceを利用して作った物件管理システムや旅行会社向けツアー紹介サイトなどを紹介した。

デモ画面 テラスカイがデモ用に構築した物件管理システム。データはsalesforce.comと連携している

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