FOMAデータ通信を月額換算2500円程度で提供、日本通信相互接続による世界初のMVNO事業開始

» 2008年08月06日 00時00分 公開
[西村賢,@IT]

 日本通信は8月6日、NTTドコモと相互接続協定書を締結したと発表した。3Gネットワーク「FOMAネットワーク」と相互接続し、8月7日から第1弾製品としてUSBコネクタで3G通信サービスが利用できる「b-mobile3G」を発売する。3万9900円のパッケージを購入すれば、面倒な契約手続きなしに利用できる。パッケージには150時間分の通信サービス料が含まれる。有効期限は480日(約16カ月)で、月額換算だと2500円弱、1時間当たりでは266.6円となる。使った分だけ課金対象となる点も定額制と異なる。PHSを使った同社通信サービスでは8割のユーザーが定額制ではなく、150時間分の通信費がセットになった「b-mobile hours」を選択しているという。

 利用可能時間を超えた場合や有効期限が切れた場合には更新用の追加ライセンスを購入することで時間を延長できる。追加ライセンスは、今後のユーザーの利用状況を見ながら価格を詰めるが「3万円前後を想定している」(同社)るという。今秋に発売する。

b-mobile3GのUSBコネクタ

 ISPとの契約は不要で、ダイヤルアップ接続の設定も専用接続ソフト「bアクセス」のインストールのみと簡素化した。Mac版接続ソフトは開発中だが、残り時間が分からないという問題をのぞけば一般の接続設定を利用するだけで接続サービス自体は利用できる。

 初回接続前には専用番号に通常の電話で電話をかけ、端末番号を入力することでアクティベートする。USBコネクタは台湾のZTE製で、SIMロックはかかっていない。FOMAカード以外のSIMカードを挿して他社ネットワークで利用することもできる。

出荷時にFOMAカードが挿入されているが、デバイス自体はSIMロックフリーという
専用接続ソフト「bアクセス」では残り接続可能時間なども表示する

無線の開放なくして次世代インターネットなし

 日本通信創業者で代表取締役社長の三田聖二氏は、「1996年の創業以来12年かけて目指してきた夢が、明日いよいよ実現する」と語り、新しいビジネス環境創出への意欲を見せる。

 今回の新サービスは他事業者の設備を借り受けるなどしてサービス事業を展開する、いわゆるMVNO(Mobile Virtural Network Operator:仮想移動体通信事業者)の中でも、相互接続による「世界初」のサービス提供だという。これまでにもFOMAネットワークをNTTドコモ以外の事業者が再販する例としては、すでにIIJが法人向けにFOMAデータ通信カードとサービスを提供する例などがあるが、これはホールセール型のビジネスで、接続約款に基づいた相互接続ではなかった。三田社長はこの違いがMVNO普及の鍵を握ると指摘する。

日本通信 代表取締役社長 三田聖二氏

 「欧米のMVNOはホールセール型。世界中でMVNOが進まないのは、このモデルでやっているからだ。ホールセールの場合、定価(通信費)を割り引きして卸す。しかし、われわれのモデルでは電気通信事業法に基づいた“原価+適正利潤”として、10Mbpsで1カ月1500万円という料金を決めている」(三田社長)。

 設備を持つ事業者は、ネットワークを他事業者に開放することで利潤を得られるモデルでMVNO事業を進めやすい。しかし、日本に限らず従来のキャリアはMVNO自体に消極的だ。MVNO協議会の会長も務める三田社長は、こう指摘する。

 「MVNOの日本語訳には“仮想”と入っていて、何か幽霊のように実体がないイメージがあるかもしれない。しかし、そもそも相互接続をしていない通信事業者など1つもない。NTTドコモの端末とauの端末で通話ができるのは相互接続して、互いに相手のネットワークを利用しているからだ。われわれも独自ネットワークは持っていて、最後の1マイルでドコモのFOMAネットワークを使っているだけだから同じことだ」

 日本通信は2007年7月、MVNO事業を展開するに当たりNTTドコモとの間の「協議が不調」であるとして総務相による裁定を求めた経緯がある。主張は電気通信事業法に基づくもので、総務相名で裁定が下された。

 「通信は規制対象にあるサービスで、事業者間の相互接続や海外の事業者との接続なども、通信法の傘の下で行うものだ。ところが、なぜかキャリアの多くは通信法を守る義務がないという前提でビジネスを展開している。これは世界中で同じ状況だ」(三田社長)

 日本のケータイ産業の本格的な立ち上がりを1998年とすると、わずか10年。あまりに短時間で数十兆円の市場規模に拡大したため、「法律がついていけないのではないか」(三田社長)という。移動体データ通信という市場で比べると、「日本はヨーロッパより3年、アメリカより10年先行している」(同)。問題が顕在化し、潜在市場が強く意識されているのが今のところ日本だけという事情もあるため、日本通信には、日本が世界のリーダーシップを取っているとの認識がある。有線ネットワークの開放がインターネットの短期間での成長の必須要件であったように「次世代インターネットの時代は無線ネットワークの開放がなければ来ない」(同)という。

 三田社長はキャリア支配の垂直統合型産業構造に代わる新しいビジネスモデルが必要だ力説する。例えば、b-mobile3GはZTE製のW-CDMA対応通信デバイスを利用しているが、これはすでにヨーロッパなどで使われていて評価も高いという。ところが「ZTEさんは日本でも3年ほどビジネスをやっているが、1台も売れていない」(同)。端末販売台数の減少傾向が鮮明になる中、国内の端末メーカーは疲弊。メーカー10社合わせても世界シェア9%という壊滅的状況にある。

 日本通信はMVNO事業で自社サービスや端末、音声サービスオプションなどを投入していくと同時に、他社がMVNO事業を行う際の手助けも行う。「端末やアプリケーション、コンテンツは海外やPC業界、あるいはコンテンツ業界など、どこから来ても構わない。例えばマンガで、コンテンツ提供者が端末とコンテンツを一緒にして自社ブランドで、自社が決める値段でサービスを作ることができる。これまで通信部分が足りなかった。そうした環境を作るのがわれわれの役目」(同)。三田社長はMVNO事業を通して、3Gネットワークが発達した日本市場への参入機会をうかがう海外の端末メーカーや、アプリケーション開発者に対しても市場を開放する役割を担っていきたいと話す。また、日本通信自身でも「Android端末を世界で最初にコマーシャルして発売することになるのは日本通信」と市場ニーズのある端末を意欲的に投入していくと説明した。

三田社長が示した新しいビジネスモデル

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