新たな3文字略語「EPM」に秘められた“片思い”ITベンダがこぞって提唱

» 2008年08月07日 00時00分 公開
[垣内郁栄,@IT]

 国内ITベンダでいまホットなのは「EPM」だ。新しい3文字略語で辟易する声も聞こえてくるが、EPMを押すベンダにはある“片思い”があるようなのだ。

 EPMは「企業パフォーマンス管理」(Enterprise Performance Management)の略。言葉の意味は@ITの情報マネジメント用語事典で確認してもらいたいが、「CPMの項参照」とあるようにベンダによっては別の言葉を使うケースもある。

 EPMを一言でいえばビジネス・インテリジェンス(BI)を発展させた企業の管理手法、ITシステム、方法論の総称だ。その肝は「未来を予測する」ということ。企業が蓄積するデータを分析、解析することでデータにビジネス上の意味を持たせ、経営者の意思決定を支援するBIに対して、EPMは企業が取るべき戦略や方向性を指し示す。ベースにはビジネスの未来を予測するシミュレーションやシナリオ分析、ビジネスモデリングなどのITシステムがある。

日本オラクルの製品戦略統括本部長 常務執行役員 三澤智光氏

 米オラクルは2007年4月にEPMを掲げていた米ハイペリオンを買収した。日本オラクルの製品戦略統括本部長 常務執行役員 三澤智光氏は「いままでのBIは経営の見える化、モニタリングが目的だった」と話す。「今後はシミュレーションによって未来を予測し、経営管理を行っていくことが重要」と話し、EPMの重要性を強調する。

 オラクルがEPMを重要と考える背景には「経営者にとって見ないといけないセグメントが急増している」(三澤氏)ことがある。グローバル化や新興国の台頭、原材料の高騰をはじめ、複雑な法規制対応、顧客ニーズの多様化など、ビジネスについての不確定要素が多くなってる。経営者はこれまで降りかかる経営課題に対してERPが出力したExcelシートをにらんで、「勘と経験と度胸」(KKD)に頼った意思決定をしてきた面が否定できない。

 しかし、KKDによる意思決定では追いつけないほど問題が複雑化。KKDではステークホルダーに対する説明責任を果たせないという指摘もある。三澤氏は「KKDは重要だが、裏付ける指標がないと立ちゆかなくなる」と話す。

 日本オラクルはハイペリオン買収後の国内での本格的なEPM戦略を8月27日に発表する予定だ。新製品の発表も行うという。

 SAS Institute JapanもEPMの本格展開を始めた。同社の代表取締役社長 吉田仁志氏は「BIを見える化ツールとして単独で使う時代は終わった」と指摘する。BIによって、ビジネスの現状を知るだけでなく、その情報に対して分析、予測を加えて次のアクションを最適化する「予見力」が重要という。

 EPMを推し進めるITベンダに共通するのは「大きな予算を持つCEOにリーチしたい」という思いだ。ERPは経理部門、人事部門が中心で予算は限られる。BIも経営企画部門など社内の一部。しかし、ERPは企業戦略の方向性自体にかかわるため、「CEOとお友達になれる」と鼻息が荒くなるのだ。オラクルがハイペリオン、IBMがコグノス、SAPがビジネスオブジェクツとBIベンダの買収が続く背景にも、「経営戦略の上流に食い込みたい」というこの片思いがある。

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