「未来はクラウドに」、ヴイエムウェアの新戦略の中身デスクトップ仮想化にも注力

» 2008年09月17日 00時00分 公開
[三木泉,@IT]

 米ヴイエムウェアの社長兼CEOであるポール・マリッツ氏は9月16日(米国時間)、9月15日に米国ネバダ州ラスベガスで開幕したVMworldで基調講演を行い、クラウド・コンピューティングに焦点を当てた同社の今後数年間にわたる戦略を紹介した。

米ヴイエムウェア社長兼CEO ポール・マリッツ氏

 今後、企業内では情報システム部門がクラウド/ユーティリティ・コンピューティング的に、業務部門に対してITインフラ運用をサービスとして提供する傾向が強まってくる。一方、企業に対してCPUやストレージといったコンピューティング・リソースを提供するクラウド・コンピューティング・サービスが普及していく。ヴイエムウェアはこの両者がそれぞれクラウド環境を構築できるITインフラ運用プラットフォームを提供するとともに、これら相互を統合する機能を提供していく。ヴイエムウェアは、自社製品の将来像を「Virtual Data Center OS」(VDC-OS)というコンセプトで表現している。

 VDC-OSではまず、企業やサービスプロバイダのデータセンターそれぞれに対し、複数のサーバが統合的な単一のIT環境として動作するために必要な機能を提供する。さらに企業のデータセンターとクラウド・コンピューティング・サービスを提供する事業者とを密接に結び付け、両者の間で仮想マシンを移動したり、仮想的に同一のデータセンターであるかのように振る舞えるようにする機能を提供する。物理的な境界を超えた仮想データセンターの構築を可能にし、これを駆動する基盤になる、という意味がVDC-OSというネーミングに込められている。

 「VDC-OSはデータセンターに新しいレベルの抽象化レイヤを提供し、管理、拡張性、セキュリティの実行ポイントになる」(マリッツ氏)。

 ヴイエムウェアが現在提供している「VMware Infrastructure 3」(VI3)でも、すでにVMotion、VMware HA、VMware Distributed Resource Servicesといった機能/ツールによって、複数サーバのコンピューティング・リソースを柔軟に利用できる環境を提供している。しかし、完全なVDC-OSの提供という観点からは、欠けている機能もある。その1つは、無停止のHA(フェイルオーバ機能)だ。現在ヴイエムウェアが提供しているVMware HAは障害を起こしてしまった物理サーバ上で動いていた仮想マシンを、別のマシンで再立ち上げするという機能であり、アプリケーションの停止時間の発生を防ぐことができない。

 そこで同社がVI3の次バージョンで投入するのが「VMware Fault Tolerance」。ある物理サーバ上のメモリの内容をほとんどリアルタイムで別の物理サーバに同期転送しておくことで、元の物理サーバに障害が発生した場合には転送先のサーバがそのまま処理を引き継ぐことができる。ソフトウェア的な障害には対応できないが、ハードウェア障害に対して無停止でフェイルオーバができるようになる。ちなみに、これは「Record & Replay」という名称で「VMware Workstation」にはすでに搭載されている機能の拡張版だ。

 また、この新バージョンでは、仮想マシンの動作中に、それぞれに対して仮想CPU、仮想メモリ、仮想ネットワークを無停止で追加する機能も提供される。8仮想CPU、256GBytesのRAMといった大型の仮想マシンもサポートされるようになる。

 ヴイエムウェアが目指しているのは、このプラットフォームをビジネスニーズ、アプリケーションニーズに基づいて利用できる環境を提供することだ。

 基調講演では、アプリケーションに対する負荷が増大した際に、コンピューティング・リソースを自動的に追加するデモが行われた。例えばWebサーバ、データベースなどをそれぞれ搭載した仮想マシンを組み合わせて、仮想マシン群を構成し、これに全体としてのSLAや運用ポリシーを設定することができる。この仮想マシン群の稼働状況をツールで監視し、例えばレスポンスタイムが事前設定を超えると、同一の仮想マシン群の新たなインスタンスを自動的に起動し、負荷を分散することができる。

 クラウドサービス・プロバイダもヴイエムウェアのVDC-OSを使って、企業に対しITインフラ運用サービスを提供できる。ヴイエムウェアではクラウドサービス事業者とユーザー企業との間で、各プロバイダが提供できるサービス品質などの情報、ユーザー企業側が各システムについて必要とするサービスレベルやその他の運用ポリシーに関する情報を交換するための方法を提供。場合によってはユーザー企業のデータセンター内で運用されているアプリケーションを、負荷増加時にプロバイダのデータセンターに移行したり、拡張したりできるようにしていくという。

 企業内クラウド、クラウドサービス業者の支援に加え、ヴイエムウェアが第3のテーマとして掲げるのがデスクトップ環境の改善。マリッツ氏は、「ヴイエムウェアのルーツはクライアント側の仮想化にある」とし、サーバ側でデスクトップOSを仮想マシンとして稼働し、これを画面転送で遠隔的に利用するデスクトップ仮想化と、同社のデスクトップPC上で動く仮想化ソフトウェア技術を積極的に組み合わせていくと話した。

 「競合他社はサーバ側への集中化というストーリーしか持たない。ヴイエムウェアは中央集中型と分散型の両者のいいところ取りをすることができる」(マリッツ氏)。

ヴイエムウェアの事業の3本柱は企業内クラウド、外部クラウドサービス、クライアント管理

 ヴイエムウェアはデスクトップ仮想化で、現在「Virtual Desktop Infrastructure」(VDI)というソリューションを提供している。今後、同社のリモートデスクトップ・プロトコルを使ってサーバ側の仮想マシンを利用するだけでなく、PCを社外に持ち出す際にはサーバ側の仮想マシンを「チェックアウト」してノートPCに導入したハイパーバイザの上で利用し、社内ネットワークに再接続するとこれをサーバ側に戻してデータも同期する、といったことができるようにする。さらに、これらにアプリケーション・ストリーミング機能を組み合わせ、さまざまな利用環境に対応できるようにしていくという。

 記者会見でマイクロソフトの低価格攻勢について聞かれたマリッツ氏は、「マイクロソフトよりも、オープンソースのほうが強力な価格面でのプレッシャーとなっている。立ち止まった瞬間に、コモディティ化(陳腐化)して価格破壊が起きてしまう。しかしわれわれは、新機能を次々に提供していく」と話した。中堅・中小企業向けでは、安価にフェイルオーバを実現できる上記のVMware Fault Toleranceのような機能も、有効な武器になるだろうという。

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