装置産業化するクラウド・ビジネス、その差別化はオラクルが考えるSaaS CRMの今後

» 2008年12月10日 00時00分 公開
[垣内郁栄,@IT]

 日本オラクルが提供するSaaS型CRM「Oracle CRM On Demand」が急拡大しているようだ。12月10日に会見した米オラクルのCRM担当バイス・プレジデント アンソニー・ライ(Anthony Lye)氏によると、オラクルの会計年度で2007年から2008年にかけて日本のCRM On Demandの売り上げは実に350%の成長だった。米国や南米、欧州を抑えて、アジア太平洋地域に次ぐ高い成長率だ。

Siebel CRMとOracle CRM On Demandの地域別成長率

 CRM On Demandは元々、米オラクルが買収した旧シーベルの製品で、国内では2006年10月にオラクルが提供開始した。オラクルはほかに社内設置型(オンプレミス)の「Siebel CRM」も展開しているが成長率ではCRM On Demandが群を抜く。サーバを用意し運用管理が必要な大企業顧客中心のSiebel CRMと比べて、初期投資がいらないCRM On Demandは手軽に利用できるからだ。

 日本オラクルの製品戦略統括本部 アプリケーションビジネス推進本部 本部長 塚越秀吉氏によると、CRM On Demandの国内ユーザーは10〜100人規模での利用が多く、サービス業が顧客の中心。案件情報や顧客情報など、これまでMicrosoft Excelで作成していたデータをほかの社員と共有したいなどのニーズがあるという。

 ただ、このようなポイントソリューションの解決は、Salesforce.comなどほかのSaaS型CRMでも可能で、オラクルの差別化にはならない。オラクルはSOA基盤の「Application Integration Architecture」(AIA)で、オラクルのほかのアプリケーションや、手組みのアプリケーションと柔軟に接続できることがCRM On Demandの最大の差別化ポイントとしている。

 「Salesforce.comを導入しても、6〜9カ月使うと(ほかのアプリケーションとの)統合の必要性を感じる顧客が多い。しかし、統合はCRMの初期投資よりもコストがかかる。AIAはそのコストを下げることができる」(ライ氏)。塚越氏によると国内のCRM On Demandの顧客でも、CRM On Demandとバックオフィスの見積り、営業案件管理システムとをAIAで統合したケースがあるという。最新版の「CRM On Demand Release 16」は2009年2月末までに提供開始する予定だ。

米オラクルのCRM担当バイス・プレジデント アンソニー・ライ氏

 ほかのシステムとの統合の容易さと同時に今後のSaaSビジネスで重要になるとライ氏が考えているのは、データセンターの運用だ。SaaSはアプリケーションを顧客の設備ではなく、提供ベンダのデータセンターで運用して、サービスとして顧客に提供する。このような形態を「クラウド・コンピューティング」と総称するケースもあるが、提供ベンダにとってはこのデータセンターをいかに効率的、柔軟に運用して、事業の利益率を向上させるかがポイントになる。

 グーグルやアマゾン、マイクロソフトなどクラウド・コンピューティングで先行するといわれる企業が巨大なデータセンターを建設しているのは有名な話だ。塚越氏は「クラウドのビジネスは装置産業に近づくのではないか」と話し、ビジネスで利益を生むためにはスケールメリットを生む巨大なデータセンターや、効率的な運用が必須との考えを示した。そのような投資ができる企業は世界でも限られるため、「クラウドのビジネスを展開する企業はいずれ数社に絞り込まれる」と予測する。

 オラクルがCRM On Demandを運用する米国オースティンの自社データセンターの自慢は「柔軟なアーキテクチャ」。SaaSでは複数のユーザーが1つのサーバ群を共有するマルチテナント型が一般的だが、ライ氏は「マルチテナント型は提供ベンダが運用コストを下げるためのアーキテクチャに過ぎない」と指摘。オラクルのデータセンターでは顧客の要望に応じてシングルテナント型も提供していると説明した。「大規模な利用を行う顧客がマルチテナント型を選択することはほとんどない」という。

 米オラクルは11月12日にSiebel CRMの最新版8.1.1を発表した。キャンペーンなどで顧客との関係性をよくし、満足度を向上させる機能を強化したのが特徴。ライ氏は「企業はこれまで製品で差別化をしてきたが、多くの製品はコモディティになった。これからはベストなCRMを使って顧客とのよい関係を築くことが差別化につながる」と話した。

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

注目のテーマ