買収はHPのイメージ変革ではなく、ニーズに応えるため旧米EDS、旧米マーキュリーとの棲み分けも万全

» 2008年12月11日 00時00分 公開
[内野宏信,@IT]

 ヒューレット・パッカード・カンパニーが12月8日から10日にかけてオーストリア・ウィーンで開催したイベント「HP Software Universe」の基調講演で、同社シニアバイスプレジデントのトム・ホーガン氏は、2006年7月に買収した運用管理ソフト大手の米マーキュリー・インタラクティブ、2008年5月に買収した米ITサービス大手のElectronic Data Systems(EDS)など、これまでの買収について触れ、「今後はソフトウェアとソリューションビジネスに注力していく」と述べた。

 ただ、急ピッチの買収戦略で懸念されるのは既存事業との棲み分けだ。同社は今後どのような販売戦略を取っていくのだろうか。トム・ホーガン氏に話を聞いた。

最終目標は、あくまでニーズに応えること

──今年5月にEDSを買収したが、“ソリューションサービス”という点で、HP社内の既存組織、C&I(コンサルティング&インテグレーション)部門と業務がバッティングしないのか?

 EDSは、エンタープライズ向けのサービスを行う既存組織、TSG(テクノロジー・ソリューション・グループ)部門に統合した。これによってTSGは、ハードウェアからソフトウェア、アウトソーシングまで、あらゆるニーズに応えられる体制がいっそう充実したことになる。C&I部門のスタッフは旧EDSをはじめ、ソフトウェア部門やサポート部門に再編成した。

 つまり、それだけソリューションビジネスに注力していくし期待もしている、ということだ。旧EDSの持っているソリューションサービスと、HPの技術力によって、望ましい相乗効果が得られると考えている。また、旧EDSはITサービス分野の大手として、たくさんの顧客企業を持っている。これまでハードウェアが中心で、今後ソフトウェアとソリューションビジネスを拡大していきたい弊社にとって、この買収は大きなビジネスチャンスになるだろう。

写真 これまでの買収戦略の経緯。オレンジ色がソフトウェア、灰色がソリューションの提供企業。ソフトウェア、ソリューションの製品・サービスを年々拡充している

──ただ、ソリューションサービスの分野では、旧米マーキュリーも旧EDSと重複する部分があるのでは?

 マーキュリーはBTO softwareによってソフトウェア事業を強化することを主眼に買収した。ソリューションサービス分野でも棲み分けはできている。旧米マーキュリーには、あらゆるソフトウェアの基本的な導入支援を担当してもらう一方で、旧EDSにはSAPや業種特化型ソフトウェアなど、より高度で専門的な製品の導入コンサルテーションに特化してもらう。役割分担を明確化することで、組織的にも無駄のない体制で、より的確なサービスが提供できると考えている。

写真 ヒューレット・パッカード・カンパニー シニアバイスプレジデントのトム・ホーガン氏

──ソフトウェアとソリューションビジネスに注力していくというが、“ハードウェアの会社”といったイメージの変革を図ろうとしている?

 ソフトウェアやソリューションサービスの拡充は、最終的な目標として設定しているわけではない。あくまで市場のニーズを読み込んで投資判断を行っている。換言すれば、HPとして、いま市場で求められているものを提供できる体制作りを目標としているといってもいい。

 例えば、いま注力している事業として、ITマネジメント分野のHP BTO softwareのほか、情報マネジメント関連ツール、BI、CMSの4つがある。CMSはメディア向けの製品だが、製品の性質上、ほかの3つと並べることに違和感を感じる向きも多いかもしれない。だが「ニーズがある」から同等の扱いとした。今後も市場ニーズに基づいて柔軟に対応していきたい。

──では、HP全体の売り上げのうち、ソフトウェアとソリューション分野の売り上げが占める割合の具体的な数値目標は?

 販売目標はあるが公表していないし、社内での売上率といった数値目標はあえて設定していない。数値を設定してしまうとそれに縛られて適切な経営判断が取れなくなる、といった理由もあるが、これも「ニーズに応える」ことを第一目標としているためだ。市場の変化に柔軟に対応するためにも、数字による枠組みはあえて設けていない。

 いま、世界的な不況で多くの企業が厳しい状況に置かれている。その点、弊社はハードウェアからソフトウェア、ソリューションまで、あらゆる要求に包括的に応えられる体制をますます拡充させつつある。今後もニーズに基づいた体制を柔軟に構築して、より効率的・効果的なビジネスの実現をサポートしていきたいと考えている。

日本でもITマネジメントの重要性を啓蒙したい

 日本市場での戦略について、ヒューレット・パッカード・カンパニーのシニアバイスプレジデント マーケティングのデビッド・ジー(David Gee)氏は、「よりきめ細かなサービスを展開していきたい」という。

 「日本市場はグローバルの中でも、特に品質や信頼性、サポートを重視する傾向が強い。各顧客企業の現場層から経営層まで、各階層に積極的にアプローチしていくとともに、継続的で密な関係作りを行い、その中で製品をアピールしていきたい」(ジー氏)

写真 ヒューレット・パッカード・カンパニーのシニアバイスプレジデント マーケティングのデビッド・ジー(David Gee)氏

 また、日本ではCIOが本来のリーダーシップを発揮できていないケースが多いことについて、「アプローチの一環として、ITマネジメントの重要性を啓蒙していく必要もあるだろう」と話す。

 「ITを上手に使えば、必ずコスト削減や利益向上につながる。また、ITマネジメントの無駄を省けば、より戦略的なITシステムを構築するための資金も捻出できる。CIOは常にビジネスの目標を見据え、確実に利益が出る、成果につながるITの仕組み、運用を考えることの重要性を改めて認識すべきだろう」(ジー氏)

 ジー氏はこのように述べ、「1社1社との密な関係の中で、ビジネスとITの連携の重要を説きつつ、ハードウェアからソフトウェア、ソリューションまで、一連の製品・サービスの提供を通して、“連携”の実現をサポートしていきたい」とまとめた。

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